背任罪における目的の主従と同罪の成否 業務上横領背任被告事件最高裁判所 | 法律大好きのブログ(弁護士村田英幸)

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背任罪における目的の主従と同罪の成否

 

 

業務上横領背任被告事件

【事件番号】      最高裁判所第2小法廷判決/昭和27年(あ)第5403号

【判決日付】      昭和29年11月5日

【判示事項】      1、貯蓄信用組合理事が組合名義で組合員以外の者から貯金を受入れた場合とその金銭所有権の帰属

             2、背任罪における目的の主従と同罪の成否

【判決要旨】      1、貯蓄信用組合理事がその資格をもつて、組合の名において、組合に対する貯金として受入れたものである以上、たとえ、右貯金が組合員以外の者のした貯金であるが故に、組合に対する消費寄託としての法律上の効力を生じないものであるとしても、貯金の目的となつた金銭の所有権は組合に帰属する。

             2、主として、第三者に対し不法に金融して第三者の利益を図る目的がある以上、従として、右融資により本人(貯蓄信用組合)の貸付金回収を図る目的があつても、背任罪を構成する。

【参照条文】      民法192

【掲載誌】        最高裁判所刑事判例集8巻11号1675頁

 

刑法

(背任)

第二百四十七条 他人のためにその事務を処理する者が、自己若しくは第三者の利益を図り又は本人に損害を加える目的で、その任務に背く行為をし、本人に財産上の損害を加えたときは、五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。

 

 

       主   文

 

 本件各上告を棄却する。

 

       理   由

 

 被告人A、Bの弁護人岡本尚一、同村田太郎の上告趣意第一点について。

 所論別口貯金も、被告人A、同BがC信用組合の理事たる資格をもつて、組合の名において、組合の計算において、組合に対する貯金として、受入れたものであることは、本件第一審判決の確定するところである。とすれば、たとえ、右貯金が組合員以外の者のした貯金であるが故に法律上無効であつて、組合に対する消費寄託としての法律上の効力を生ずるに由ないものであるとしても、右貯金の目的となつた金銭の所有権自体は一応組合に帰属したものと云わなければならない。けだし、金銭は通常物としての個性を有せず、単なる価値そのものと考えるべきであり、価値は金銭の所在に随伴するものであるから、金銭の所有権は特段の事情のないかぎり金銭の占有の移転と共に移転するものと解すべきであつて、金銭の占有が移転した以上、たとえ、その占有移転の原由たる契約が法律上無効であつても、その金銭の所有権は占有と同時に相手方に移転するのであつて、こゝに不当利得返還債権関係を生ずるに過ぎないものと解するを正当とするからである。論旨は採用することを得ない。 (所論引用の大審院判例は右と抵触する範囲において変更を免れないものである)

 同第二点について。

 原判決の趣旨は本件被告人の行為は、主として第三者たるD、Eの利益を図る目的を以て為されたものとするにあることは、原判文上明らかであつて、何ら所論の判例に違反するところはないのである。

 その余の論旨は、刑訴四〇五条の適法な上告理由にあたらない。

 被告人Dの弁護人坂井宗十郎の上告趣意も刑訴四〇五条所定の適法な上告理白にあたらない(判例違反を主張するけれども、判例を具体的に摘示していない)。

 被告人Eの弁護人中野留吉の上告趣意は単なる法令違反、事実誤認又は量刑不当の主張であつて、適法な上告の理由とならない。

 また記録を精査しても刑訴四一一条を適用すべきものとは認められない。

 よつて同四〇八条により主文のとおり判決する。

 この判決は、裁判官全員一致の意見てある。

  昭和二九年一一月五日

     最高裁判所第二小法廷