個人の居住の用に供される不動産を取得するための借入金の利子と所得税法38条1項にいう「資産の取得 | 法律大好きのブログ(弁護士村田英幸)

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個人の居住の用に供される不動産を取得するための借入金の利子と所得税法38条1項にいう「資産の取得に要した金額」


    所得税更正処分等取消請求事件
【事件番号】    最高裁判所第3小法廷判決/昭和61年(行ツ)第115号
【判決日付】    平成4年7月14日
【判示事項】    個人の居住の用に供される不動産を取得するための借入金の利子と所得税法38条1項にいう「資産の取得に要した金額」
【判決要旨】    個人の居住の用に供される不動産の譲渡による譲渡所得の金額の計算上、当該不動産の取得のために代金の全部又は一部の借入れをした場合における借入金の利子は、当該不動産の使用開始の日以前の期間に対応するものに限り、所得税法38条1項にいう「資産の取得に要した金額」に含まれる。
【参照条文】    所得税法38-1
【掲載誌】     最高裁判所民事判例集46巻5号492頁

所得税法
(譲渡所得)
第三十三条 譲渡所得とは、資産の譲渡(建物又は構築物の所有を目的とする地上権又は賃借権の設定その他契約により他人に土地を長期間使用させる行為で政令で定めるものを含む。以下この条において同じ。)による所得をいう。
2 次に掲げる所得は、譲渡所得に含まれないものとする。
一 たな卸資産(これに準ずる資産として政令で定めるものを含む。)の譲渡その他営利を目的として継続的に行なわれる資産の譲渡による所得
二 前号に該当するもののほか、山林の伐採又は譲渡による所得
3 譲渡所得の金額は、次の各号に掲げる所得につき、それぞれその年中の当該所得に係る総収入金額から当該所得の基因となつた資産の取得費及びその資産の譲渡に要した費用の額の合計額を控除し、その残額の合計額(当該各号のうちいずれかの号に掲げる所得に係る総収入金額が当該所得の基因となつた資産の取得費及びその資産の譲渡に要した費用の額の合計額に満たない場合には、その不足額に相当する金額を他の号に掲げる所得に係る残額から控除した金額。以下この条において「譲渡益」という。)から譲渡所得の特別控除額を控除した金額とする。
一 資産の譲渡(前項の規定に該当するものを除く。次号において同じ。)でその資産の取得の日以後五年以内にされたものによる所得(政令で定めるものを除く。)
二 資産の譲渡による所得で前号に掲げる所得以外のもの
4 前項に規定する譲渡所得の特別控除額は、五十万円(譲渡益が五十万円に満たない場合には、当該譲渡益)とする。
5 第三項の規定により譲渡益から同項に規定する譲渡所得の特別控除額を控除する場合には、まず、当該譲渡益のうち同項第一号に掲げる所得に係る部分の金額から控除するものとする。

(譲渡所得の金額の計算上控除する取得費)
第三十八条 譲渡所得の金額の計算上控除する資産の取得費は、別段の定めがあるものを除き、その資産の取得に要した金額並びに設備費及び改良費の額の合計額とする。
2 譲渡所得の基因となる資産が家屋その他使用又は期間の経過により減価する資産である場合には、前項に規定する資産の取得費は、同項に規定する合計額に相当する金額から、その取得の日から譲渡の日までの期間のうち次の各号に掲げる期間の区分に応じ当該各号に掲げる金額の合計額を控除した金額とする。
一 その資産が不動産所得、事業所得、山林所得又は雑所得を生ずべき業務の用に供されていた期間 第四十九条第一項(減価償却資産の償却費の計算及びその償却の方法)の規定により当該期間内の日の属する各年分の不動産所得の金額、事業所得の金額、山林所得の金額又は雑所得の金額の計算上必要経費に算入されるその資産の償却費の額の累積額
二 前号に掲げる期間以外の期間 第四十九条第一項の規定に準じて政令で定めるところにより計算したその資産の当該期間に係る減価の額


       主   文

 本件上告を棄却する。
 上告費用は上告人の負担とする。

       理   由

 上告代理人山本剛嗣の上告理由について
 一 原審の適法に確定した事実関係は、次のとおりである。(1) 上告人は、昭和四六年四月一六日、Aから、自己の居住の用に供するために、東京都世田谷区a丁目b番c所在宅地四七二・六二平方メートル(以下「本件土地」という。)及び同土地上の鉄筋コンクリート造陸屋根地階付き二階建家屋一九五・八一平方メートル(以下「本件建物」という。)を、一括して代金五一〇九万八一二五円で買い受けて取得し、その後、同年六月六日にこれを自己の居住の用に供した、(2) 上告人は、同年四月一七日、株式会社日本不動産銀行(現在の株式会社日本債券信用銀行)から、本件土地建物を取得するために、三五〇〇万円を年利率九・二パーセントで借り入れ、昭和五四年八月一六日右借入金の全額を完済したが、右借入金のうち本件土地建物の取得のために使用したのは三〇〇〇万円であり、右三〇〇〇万円に対する借入れ後本件土地建物を自己の居住の用に供した日までの期間(五一日間)に対応する利子の額は三八万五六四三円であった、(3) 上告人は、昭和五三年一月七日本件土地の一部一九八・三五平方メートル(以下「甲土地」という。)を同所b番dとして分筆し、また、本件建物のうち甲土地上にある部分二五平方メートルを取り壊して甲土地を更地とした上、同月三一日これをB外一名に代金四八〇〇万円で譲渡した、(4) 次いで、上告人は、翌五四年八月二二日本件土地のうち、甲土地を除くその余の部分二七四・二七平方メートル(以下「乙土地」という。)及び本件建物のうち乙土地上にある部分一七〇・八一平方メートルを三宝建設株式会社に代金一億〇七八四万八〇〇〇円で譲渡した。
 二 そこで、所論にかんがみ、個人の居住の用に供される資産の譲渡による譲渡所得の取得費について検討する。
 譲渡所得の金額について、所得税法は、総収入金額から資産の取得費及び譲渡に要した費用を控除するものとし(三三条三項)、右の資産の取得費は、別段の定めがあるものを除き、当該資産の取得に要した金額並びに設備費及び改良費の額の合計額としている(三八条一項)。右にいう「資産の取得に要した金額」の意義について考えると、譲渡所得に対する課税は、資産の値上りによりその資産の所有者に帰属する増加益を所得として、その資産が所有者の支配を離れて他に移転するのを機会にこれを清算して課税する趣旨のものであるところ(最高裁昭和四一年(行ツ)第一〇二号同四七年一二月二六日第三小法廷判決・民集二六巻一〇号二〇八三頁、同昭和四七年(行ツ)第四号同五〇年五月二七日第三小法廷判決・民集二九巻五号六四一頁参照)、前記のとおり、同法三三条三項が総収入金額から控除し得るものとして、当該資産の客観的価格を構成すべき金額のみに限定せず、取得費と並んで譲渡に要した費用をも掲げていることに徴すると、右にいう「資産の取得に要した金額」には、当該資産の客観的価格を構成すべき取得代金の額のほか、登録免許税、仲介手数料等当該資産を取得するための付随費用の額も含まれるが、他方、当該資産の維持管理に要する費用等居住者の日常的な生活費ないし家事費に属するものはこれに含まれないと解するのが相当である。
 ところで、個人がその居住の用に供するために不動産を取得するに際しては、代金の全部又は一部の借入れを必要とする場合があり、その場合には借入金の利子の支払が必要となるところ、一般に、右の借入金の利子は、当該不動産の客観的価格を構成する金額に該当せず、また、当該不動産を取得するための付随費用に当たるということもできないのであって、むしろ、個人が他の種々の家事上の必要から資金を借り入れる場合の当該借入金の利子と同様、当該個人の日常的な生活費ないし家事費にすぎないものというべきである。そうすると、右の借入金の利子は、原則として、居住の用に供される不動産の譲渡による譲渡所得の金額の計算上、所得税法三八条一項にいう「資産の取得に要した金額」に該当しないものというほかはない。しかしながら、右借入れの後、個人が当該不動産をその居住の用に供するに至るまでにはある程度の期間を要するのが通常であり、したがって、当該個人は右期間中当該不動産を使用することなく利子の支払を余儀なくされるものであることを勘案すれば、右の借入金の利子のうち、居住のため当該不動産の使用を開始するまでの期間に対応するものは、当該不動産をその取得に係る用途に供する上で必要な準備費用ということができ、当該個人の単なる日常的な生活費ないし家事費として譲渡所得の金額の計算のうち外のものとするのは相当でなく、当該不動産を取得するための付随費用に当たるものとして、右にいう「資産の取得に要した金額」に含まれると解するのが相当である。
 以上のとおり、右の借入金の利子のうち、当該不動産の使用開始の日以前の期間に対応するものは、右にいう「資産の取得に要した金額」に含まれ、当該不動産の使用開始の日の後のものはこれに含まれないと解するのが相当である。
 三 以上の見地に立って本件をみるのに、前記の事実関係によれば、上告人は、資金三〇〇〇万円を借り入れることにより、自己の居住の用に供するため本件土地建物を買い受けて取得し、昭和四六年六月六日これを自己の居住の用に供したというのであるから、右三〇〇〇万円に対する借入れ後同日までの期間に対応する利子の額である三八万五六四三円は、上告人の昭和五三年分及び同五四年分の各譲渡所得の金額の計算上、同法三八条一項にいう「資産の取得に要した金額」に該当するが、昭和四六年六月七日以降のものはこれに該当しないというべきである。原審の判断は、結論においてこれと同旨であるから、是認することができる。論旨は、違憲をいう点を含め、独自の見解に基づいて原判決の法令違背をいうものにすぎず、採用することができない。
 よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第三小法廷