小学校の特別支援学級への就学を求める原告及び原告両親が,被告神奈川県に対し,就学先学校として県立 | 法律大好きのブログ(弁護士村田英幸)

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小学校の特別支援学級への就学を求める原告及び原告両親が,被告神奈川県に対し,就学先学校として県立養護学校を指定して通知した処分の取消しと,被告川崎市に対し,就学先学校として小学校を指定するよう求めた事案。

 

 

就学通知処分取消等請求事件

章          横浜地方裁判所判決/平成30年(行ウ)第58号

【判決日付】      令和2年3月18日

【判示事項】      小学校の特別支援学級への就学を求める原告及び原告両親が,被告神奈川県に対し,就学先学校として県立養護学校を指定して通知した処分の取消しと,被告川崎市に対し,就学先学校として小学校を指定するよう求めた事案。

裁判所は,本件就学通知は手続上の適法要件を充たすとし,本件指定当時,人工呼吸器の使用児童を小学校で受け入れる教育体制が整備されている状態であったとはいえず,医療的ケア支援事業の適用範囲を人工呼吸器の使用児童にまで拡大していなかった被告市の運用が不合理とはいえず,障害者に対する合理的配慮を欠く不合理な差別ともいえないとし,市教委の本件指定の判断を承認した県教委の判断に不合理な点はなく,本件就学通知に係る判断が違法とはいえず,本件義務付けの訴えは本案勝訴要件を充足するとは認められないなどとし,各請求を棄却した事例

【参照条文】      学教法16

             学教法17

             学教法施行令5

             学教法施行令11

             学教法施行令14

             学教法施行令18の2

             障害者基本法

             障害者基本法16

             障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律

【掲載誌】        判例時報2483号3頁

             LLI/DB 判例秘書登載

 

学校教育法

第二章 義務教育

第十六条 保護者(子に対して親権を行う者(親権を行う者のないときは、未成年後見人)をいう。以下同じ。)は、次条に定めるところにより、子に九年の普通教育を受けさせる義務を負う。

第十七条 保護者は、子の満六歳に達した日の翌日以後における最初の学年の初めから、満十二歳に達した日の属する学年の終わりまで、これを小学校、義務教育学校の前期課程又は特別支援学校の小学部に就学させる義務を負う。ただし、子が、満十二歳に達した日の属する学年の終わりまでに小学校の課程、義務教育学校の前期課程又は特別支援学校の小学部の課程を修了しないときは、満十五歳に達した日の属する学年の終わり(それまでの間においてこれらの課程を修了したときは、その修了した日の属する学年の終わり)までとする。

② 保護者は、子が小学校の課程、義務教育学校の前期課程又は特別支援学校の小学部の課程を修了した日の翌日以後における最初の学年の初めから、満十五歳に達した日の属する学年の終わりまで、これを中学校、義務教育学校の後期課程、中等教育学校の前期課程又は特別支援学校の中学部に就学させる義務を負う。

③ 前二項の義務の履行の督促その他これらの義務の履行に関し必要な事項は、政令で定める。

 

学校教育法施行令

(入学期日等の通知、学校の指定)

第五条 市町村の教育委員会は、就学予定者(法第十七条第一項又は第二項の規定により、翌学年の初めから小学校、中学校、義務教育学校、中等教育学校又は特別支援学校に就学させるべき者をいう。以下同じ。)のうち、認定特別支援学校就学者(視覚障害者、聴覚障害者、知的障害者、肢体不自由者又は病弱者(身体虚弱者を含む。)で、その障害が、第二十二条の三の表に規定する程度のもの(以下「視覚障害者等」という。)のうち、当該市町村の教育委員会が、その者の障害の状態、その者の教育上必要な支援の内容、地域における教育の体制の整備の状況その他の事情を勘案して、その住所の存する都道府県の設置する特別支援学校に就学させることが適当であると認める者をいう。以下同じ。)以外の者について、その保護者に対し、翌学年の初めから二月前までに、小学校、中学校又は義務教育学校の入学期日を通知しなければならない。

2 市町村の教育委員会は、当該市町村の設置する小学校及び義務教育学校の数の合計数が二以上である場合又は当該市町村の設置する中学校(法第七十一条の規定により高等学校における教育と一貫した教育を施すもの(以下「併設型中学校」という。)を除く。以下この項、次条第七号、第六条の三第一項、第七条及び第八条において同じ。)及び義務教育学校の数の合計数が二以上である場合においては、前項の通知において当該就学予定者の就学すべき小学校、中学校又は義務教育学校を指定しなければならない。

3 前二項の規定は、第九条第一項又は第十七条の届出のあつた就学予定者については、適用しない。

 

(特別支援学校への就学についての通知)

第十一条 市町村の教育委員会は、第二条に規定する者のうち認定特別支援学校就学者について、都道府県の教育委員会に対し、翌学年の初めから三月前までに、その氏名及び特別支援学校に就学させるべき旨を通知しなければならない。

2 市町村の教育委員会は、前項の通知をするときは、都道府県の教育委員会に対し、同項の通知に係る者の学齢簿の謄本(第一条第三項の規定により磁気ディスクをもつて学齢簿を調製している市町村の教育委員会にあつては、その者の学齢簿に記録されている事項を記載した書類)を送付しなければならない。

3 前二項の規定は、第九条第一項又は第十七条の届出のあつた者については、適用しない。

 

(特別支援学校の入学期日等の通知、学校の指定)

第十四条 都道府県の教育委員会は、第十一条第一項(第十一条の二、第十一条の三、第十二条第二項及び第十二条の二第二項において準用する場合を含む。)の通知を受けた児童生徒等及び特別支援学校の新設、廃止等によりその就学させるべき特別支援学校を変更する必要を生じた児童生徒等について、その保護者に対し、第十一条第一項(第十一条の二において準用する場合を含む。)の通知を受けた児童生徒等にあつては翌学年の初めから二月前までに、その他の児童生徒等にあつては速やかに特別支援学校の入学期日を通知しなければならない。

2 都道府県の教育委員会は、当該都道府県の設置する特別支援学校が二校以上ある場合においては、前項の通知において当該児童生徒等を就学させるべき特別支援学校を指定しなければならない。

3 前二項の規定は、前条の通知を受けた児童生徒等については、適用しない。

 

第三節の二 保護者及び視覚障害者等の就学に関する専門的知識を有する者の意見聴取

第十八条の二 市町村の教育委員会は、児童生徒等のうち視覚障害者等について、第五条(第六条(第二号を除く。)において準用する場合を含む。)又は第十一条第一項(第十一条の二、第十一条の三、第十二条第二項及び第十二条の二第二項において準用する場合を含む。)の通知をしようとするときは、その保護者及び教育学、医学、心理学その他の障害のある児童生徒等の就学に関する専門的知識を有する者の意見を聴くものとする。

 

障害者基本法

(目的)

第一条 この法律は、全ての国民が、障害の有無にかかわらず、等しく基本的人権を享有するかけがえのない個人として尊重されるものであるとの理念にのつとり、全ての国民が、障害の有無によつて分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会を実現するため、障害者の自立及び社会参加の支援等のための施策に関し、基本原則を定め、及び国、地方公共団体等の責務を明らかにするとともに、障害者の自立及び社会参加の支援等のための施策の基本となる事項を定めること等により、障害者の自立及び社会参加の支援等のための施策を総合的かつ計画的に推進することを目的とする。

 

(教育)

第十六条 国及び地方公共団体は、障害者が、その年齢及び能力に応じ、かつ、その特性を踏まえた十分な教育が受けられるようにするため、可能な限り障害者である児童及び生徒が障害者でない児童及び生徒と共に教育を受けられるよう配慮しつつ、教育の内容及び方法の改善及び充実を図る等必要な施策を講じなければならない。

2 国及び地方公共団体は、前項の目的を達成するため、障害者である児童及び生徒並びにその保護者に対し十分な情報の提供を行うとともに、可能な限りその意向を尊重しなければならない。

3 国及び地方公共団体は、障害者である児童及び生徒と障害者でない児童及び生徒との交流及び共同学習を積極的に進めることによつて、その相互理解を促進しなければならない。

4 国及び地方公共団体は、障害者の教育に関し、調査及び研究並びに人材の確保及び資質の向上、適切な教材等の提供、学校施設の整備その他の環境の整備を促進しなければならない。

 

障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律

 

(行政機関等における障害を理由とする差別の禁止)

第七条 行政機関等は、その事務又は事業を行うに当たり、障害を理由として障害者でない者と不当な差別的取扱いをすることにより、障害者の権利利益を侵害してはならない。

2 行政機関等は、その事務又は事業を行うに当たり、障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において、その実施に伴う負担が過重でないときは、障害者の権利利益を侵害することとならないよう、当該障害者の性別、年齢及び障害の状態に応じて、社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮をしなければならない。

 

 

       主   文

 

 1 原告らの各請求をいずれも棄却する。

 2 訴訟費用は原告らの負担とする。

 

       事実及び理由

 

第1 原告らの各請求及び被告らの答弁

 1 原告らの各請求

  (1)県教委が,平成30年3月26日付けで,原告らに対してした原告Aを就学させるべき学校として神奈川県立○○養護学校を指定した処分を取り消す。

  (2)市教委は,原告らに対し,原告Aを就学させるべき学校として,D小学校又は原告Aの住所を通学区域とするE小学校を指定せよ。

 2 被告らの答弁

  (1)被告県

    原告らの被告県に対する各請求をいずれも棄却する。

  (2)被告市

    原告らの被告市に対する各請求をいずれも棄却する。

第2 事案の概要等

 1 事案の概要

   本件は,小学校の特別支援学級への就学を求める原告A(平成23年★月★日生まれ)並びにその両親である原告B及び原告Cの3名が,被告県に対し,県教委において,平成30年3月26日付けで,原告らに対してした原告Aを就学させるべき学校として神奈川県立○○養護学校を指定して通知した処分が違法である旨主張して,当該処分の取消しを求めるとともに(行政事件訴訟法3条2項),被告市に対し,市教委において,原告らに,原告Aを就学させるべき学校としてD小学校又は原告Aの住所を通学区域とするE小学校を指定するよう求める非申請型の義務付けの訴え(同法3条6項1号)である。

 2 関係法令等の定め

   本件に関係する法令等の定めは,別紙「関係法令等の定め」のとおりである。

   以下では,行政事件訴訟法を「行訴法」と,学校教育法を「法」と,学校教育法施行令を「施行令」と,障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律を「障害者差別解消法」と,それぞれ略称する(ただし,別紙「関係法令等の定め」の記載中では,学校教育法,同法施行令及び障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律の上記略称表記は用いない。)。

   また,「関係法令等の定め」に記載の法令等を引用する場合,例えば,別紙「関係法令等の定め」3(1)のように表記する。

 3 前提事実(争いがない事実及び記録上明らかな事実並びに後掲各証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実。以下の事実を引用する場合,単に「前提事実」といい,前提事実記載(1)の事実を「前提事実(1)」のように表記する。)

  (1)原告ら

    原告Aは,平成23年★月★日,父である原告B,母である原告Cとの間に出生した子であり,原告B及び原告C(以下,両名を「原告父母」という。)は,原告Aの親権者(保護者)である。

    原告Aは,出生時から国立××センター(以下「××センター」という。)に入院し,平成24年11月,××センターを退院して川崎市の自宅で原告父母と共に暮らしている。原告Aには,人工呼吸器(甲80)による呼吸管理,経鼻胃管栄養,排痰吸引等の医療的ケアが必要であるが,これらの医療的ケアは,基本的には,原告父母において行っている。(以上につき,甲80,弁論の全趣旨,争いがない事実)

  (2)市教委の職責

    市教委は,原告らが居住する被告市に設置された執行機関の1つであり,法律の定めるところにより,学校その他の教育機関を管理し,学校の組織編制,教育課程,教科書その他の教材の取扱及び教育職員の身分取扱に関する事務を行い,並びに社会教育その他教育,学術及び文化に関する事務を管理し及びこれを執行する機関である(地方自治法180条の5,180条の8。争いがない。)。

    市教委は,被告市に住居を有する学齢児童等につき学齢簿を編製し,市内の就学予定者(ただし,認定特別支援学校就学者を除く。)の保護者に対し,小学校等の入学期日を指定する職責を有している。(争いがない。)

  (3)県教委の職責

    県教委は,被告県に設置された執行機関の1つであり,その事務は,市教委と同様である(地方自治法180条の5,180条の8)。県教委は,被告県内の市町村の教育委員会が認定特別支援学校就学者であると判断した者につき,当該市町村の教育委員会から学齢簿の謄本の送付を受け,当該認定特別支援学校就学者の保護者に対し,入学すべき特別支援学校の指定及び入学期日の通知を行う職責を有している。(争いがない。)

  (4)市町村の教育委員会への通知及び学齢簿の謄本の送付

    市町村の教育委員会が,認定特別支援学校就学者について,都道府県の教育委員会に対し,その氏名及び特別支援学校に就学させるべき旨を通知し,その通知に係る者の学齢簿の謄本を送付しなければならない時期は,翌学年の初めから3月前(入学する年の前年の12月末)までであるとされている(施行令11条1項,2項。別紙「関係法令等の定め」4(6)参照)。

    市教委は,平成30年3月26日付けで上記通知及び学齢簿の謄本を県教委に送付した。(乙7,乙8,弁論の全趣旨)

  (5)県教委の「特別支援学校就学通知書」と題する書面の送付

    県教委は,平成30年3月26日付けで,原告B宛てに,学校名を神奈川県立○○養護学校(以下「○○養護学校」という。),部・学年を肢体不自由部門 小学部1年,入学期日を同年4月1日とする「特別支援学校就学通知書」と題する書面(甲1)を送付して,その頃,原告Aを就学させるべき学校が○○養護学校であると指定して通知した(以下「本件就学通知」という。)。(甲1,弁論の全趣旨)

    なお,都道府県の教育委員会が,認定特別支援学校就学者について,市町村教育委員会から通知を受けた場合,その児童生徒等の保護者に対し,特別支援学校の入学期日を通知しなければならない時期は,翌学年の初めから2月前(入学する年の1月末)までであるとされている(施行令14条1項。別紙「関係法令等の定め」4(7)参照)。

    県教委は,上記のとおり,平成30年3月26日付けで本件就学通知をした。

  (6)○○養護学校

    ○○養護学校は,被告県が,その区域内にある学齢児童及び学齢生徒のうち,視覚障害者,聴覚障害者,知的障害者,肢体不自由者又は病弱者で,その障害が法75条の政令で定める程度のものを就学させるために設置した特別支援学校であり(法80条。別紙「関係法令等の定め」3(1)),看護師が配置されている。また,特別支援学校の肢体不自由部門(原告Aはここに属する。)では,洗面台,トイレのバリアフリー化,スロープ・エレベータの設置などの対応がされている。さらに,特別支援学校の教員は,専門的資格である特別支援学校教諭免許状の保有率も高い。(以上につき,乙25,乙26,乙34(3頁),弁論の全趣旨,争いがない事実)

  (7)本件訴えの提起

    原告らは,平成30年7月11日,横浜地方裁判所に,被告県及び被告市に対し,本件各訴えを提起した。(記録上明らかな事実)

 4 争点

   本件の主要な争点は,次のとおりである。

  (1)本件就学通知の適法性の有無

  (2)本件義務付けの訴えに係る本案勝訴要件の充足の有無

 5 争点に関する当事者の主張の要旨

(1)   本件就学通知の適法性の有無(争点(1))