禁治産者の後見人がその就職前にした無権代理による訴えの提起及び弁護士に対する訴訟委任の行為の効力 | 法律大好きのブログ(弁護士村田英幸)

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禁治産者の後見人がその就職前にした無権代理による訴えの提起及び弁護士に対する訴訟委任の行為の効力を再審の訴えにおいて否定することが信義則に反して許されないとはいえないとされた事例

 

 

損害賠償請求再審事件

【事件番号】      最高裁判所第1小法廷判決/平成4年(オ)第735号

【判決日付】      平成7年11月9日

【判示事項】      禁治産者の後見人がその就職前にした無権代理による訴えの提起及び弁護士に対する訴訟委任の行為の効力を再審の訴えにおいて否定することが信義則に反して許されないとはいえないとされた事例

【判決要旨】      甲が禁治産者乙の後見人に就職する前に乙のために無権限で訴えを提起した上弁護士に対する訴訟委任をし、これに基づいて判決がされた場合には、甲が乙の姉であって後見人に就職する前から事実上後見人の立場で乙の面倒を見てきたものであり、このような甲の態度について家族の他の者が意義を差し挟んでおらず、甲と乙の利害が相反する状況もなかったなど原判示の事情があったとしても、後見人に就職した甲が自己の無権代理行為の効力を再審の訴えにおいて否定することは、信義則に反して許されないとはいえない。

【参照条文】      民事訴訟法1編第4章第1節

             民事訴訟法420-1

             民法1-2

             民法859

【掲載誌】        家庭裁判月報48巻7号41頁

             最高裁判所裁判集民事177号107頁

             裁判所時報1158号279頁

             判例タイムズ901号131頁

             判例時報1557号74頁

             金融法務事情1452号39頁

 

民法

(基本原則)

第一条  私権は、公共の福祉に適合しなければならない。

2  権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。

3  権利の濫用は、これを許さない。

 

第八百五十九条  後見人は、被後見人の財産を管理し、かつ、その財産に関する法律行為について被後見人を代表する。

2  第八百二十四条ただし書の規定は、前項の場合について準用する。

 

(親権喪失の審判)

第八百三十四条  父又は母による虐待又は悪意の遺棄があるときその他父又は母による親権の行使が著しく困難又は不適当であることにより子の利益を著しく害するときは、家庭裁判所は、子、その親族、未成年後見人、未成年後見監督人又は検察官の請求により、その父又は母について、親権喪失の審判をすることができる。 ただし、二年以内にその原因が消滅する見込みがあるときは、この限りでない。

 

民事訴訟法

(再審の事由)

第三百三十八条  次に掲げる事由がある場合には、確定した終局判決に対し、再審の訴えをもって、不服を申し立てることができる。 ただし、当事者が控訴若しくは上告によりその事由を主張したとき、又はこれを知りながら主張しなかったときは、この限りでない。

一  法律に従って判決裁判所を構成しなかったこと。

二  法律により判決に関与することができない裁判官が判決に関与したこと。

三  法定代理権、訴訟代理権又は代理人が訴訟行為をするのに必要な授権を欠いたこと。

四  判決に関与した裁判官が事件について職務に関する罪を犯したこと。

五  刑事上罰すべき他人の行為により、自白をするに至ったこと又は判決に影響を及ぼすべき攻撃若しくは防御の方法を提出することを妨げられたこと。

六  判決の証拠となった文書その他の物件が偽造又は変造されたものであったこと。

七  証人、鑑定人、通訳人又は宣誓した当事者若しくは法定代理人の虚偽の陳述が判決の証拠となったこと。

八  判決の基礎となった民事若しくは刑事の判決その他の裁判又は行政処分が後の裁判又は行政処分により変更されたこと。

九  判決に影響を及ぼすべき重要な事項について判断の遺脱があったこと。

十  不服の申立てに係る判決が前に確定した判決と抵触すること。

2  前項第四号から第七号までに掲げる事由がある場合においては、罰すべき行為について、有罪の判決若しくは過料の裁判が確定したとき、又は証拠がないという理由以外の理由により有罪の確定判決若しくは過料の確定裁判を得ることができないときに限り、再審の訴えを提起することができる。

3  控訴審において事件につき本案判決をしたときは、第一審の判決に対し再審の訴えを提起することができない。

 

事案の概要

 一 本件は、姉甲が弟乙のために損害賠償請求訴訟(前訴)を提起し、一審で敗訴判決を受けた後、禁治産宣告手続をとって乙の後見人に就職し、民訴法420条1項3号を理由に再審の訴えを提起したという事件である。

事実上の後見人として行動していた者が後に適式に後見人に選任された後に、自己の無権代理による訴訟行為の効力を再審の訴えで否定することが信義則に反して許されないかどうかが問題になった。

再審提起までの経緯等については判決を見ていただきたい。

 原審は、前訴の提起及び弁護士への訴訟委任は、甲の無権代理であると認めたが、甲は乙の後見人に就職する以前においても、乙が精神分裂病の諸症状を呈するようになって以来、事実上後見人の立場で乙の面倒を見てきており、家族と相談の上で乙のために丙らを相手に調停の申立てや訴訟の提起をしていること、このような甲の態度には家族の他の者が異議を差し挟んでいたとか、甲と乙とが利害の相反する状況があったなどの事情はないこと、丙らは、2度にわたる訴えに対してその都度弁護士に依頼して応訴してきたこと等の事情の下では、甲が後見人に就職し、法定代理人の資格を取得した以上、前に乙のために行った自己の無権代理行為の効力を否定することは、丙らとの関係において訴訟上の信義則に著しく反し許されず、甲のした前訴の訴え提起行為及び弁護士への訴訟委任行為の効力は、甲が後見人に就職するとともに乙に有効に帰属したものというべきであるとして、再審の訴えを却下した一審判決を維持したため、乙が上告した。

 本判決は、たとえ原判決が指摘するような事情があったとしても、後見人に就職した甲が就職前の自己の無権代理行為の効力を再審の訴えで否定することは信義則に反し許されないとはいえないとし、前訴には民訴法420条1項3号の再審事由があるとして前訴確定判決を取り消し、前訴の訴えを却下する旨の自判判決をした。