1の商標から2つの称呼が生ずると認定することの可否
最高裁判所第2小法廷判決/昭和34年(オ)第856号
昭和36年6月23日
審決取消請求事件
【判示事項】 1の商標から2つの称呼が生ずると認定することの可否
【判決要旨】 1の商標から2つの称呼を生ずるものと認定しても差支えない。
【参照条文】 商標法(大正10年法律第99号)2-1
【掲載誌】 最高裁判所民事判例集15巻6号1689頁
【評釈論文】 法曹時報13巻8号116頁
民商法雑誌46巻1号156頁
商標法
(定義等)
第二条 この法律で「商標」とは、人の知覚によつて認識することができるもののうち、文字、図形、記号、立体的形状若しくは色彩又はこれらの結合、音その他政令で定めるもの(以下「標章」という。)であつて、次に掲げるものをいう。
一 業として商品を生産し、証明し、又は譲渡する者がその商品について使用をするもの
二 業として役務を提供し、又は証明する者がその役務について使用をするもの(前号に掲げるものを除く。)
2 前項第二号の役務には、小売及び卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供が含まれるものとする。
3 この法律で標章について「使用」とは、次に掲げる行為をいう。
一 商品又は商品の包装に標章を付する行為
二 商品又は商品の包装に標章を付したものを譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、又は電気通信回線を通じて提供する行為
三 役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物(譲渡し、又は貸し渡す物を含む。以下同じ。)に標章を付する行為
四 役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物に標章を付したものを用いて役務を提供する行為
五 役務の提供の用に供する物(役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物を含む。以下同じ。)に標章を付したものを役務の提供のために展示する行為
六 役務の提供に当たりその提供を受ける者の当該役務の提供に係る物に標章を付する行為
七 電磁的方法(電子的方法、磁気的方法その他の人の知覚によつて認識することができない方法をいう。次号及び第二十六条第三項第三号において同じ。)により行う映像面を介した役務の提供に当たりその映像面に標章を表示して役務を提供する行為
八 商品若しくは役務に関する広告、価格表若しくは取引書類に標章を付して展示し、若しくは頒布し、又はこれらを内容とする情報に標章を付して電磁的方法により提供する行為
九 音の標章にあつては、前各号に掲げるもののほか、商品の譲渡若しくは引渡し又は役務の提供のために音の標章を発する行為
十 前各号に掲げるもののほか、政令で定める行為
4 前項において、商品その他の物に標章を付することには、次の各号に掲げる各標章については、それぞれ当該各号に掲げることが含まれるものとする。
一 文字、図形、記号若しくは立体的形状若しくはこれらの結合又はこれらと色彩との結合の標章 商品若しくは商品の包装、役務の提供の用に供する物又は商品若しくは役務に関する広告を標章の形状とすること。
二 音の標章 商品、役務の提供の用に供する物又は商品若しくは役務に関する広告に記録媒体が取り付けられている場合(商品、役務の提供の用に供する物又は商品若しくは役務に関する広告自体が記録媒体である場合を含む。)において、当該記録媒体に標章を記録すること。
5 この法律で「登録商標」とは、商標登録を受けている商標をいう。
6 この法律において、商品に類似するものの範囲には役務が含まれることがあるものとし、役務に類似するものの範囲には商品が含まれることがあるものとする。
7 この法律において、輸入する行為には、外国にある者が外国から日本国内に他人をして持ち込ませる行為が含まれるものとする。
第二章 商標登録及び商標登録出願
(商標登録の要件)
第三条 自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標については、次に掲げる商標を除き、商標登録を受けることができる。
一 その商品又は役務の普通名称を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標
二 その商品又は役務について慣用されている商標
三 その商品の産地、販売地、品質、原材料、効能、用途、形状(包装の形状を含む。第二十六条第一項第二号及び第三号において同じ。)、生産若しくは使用の方法若しくは時期その他の特徴、数量若しくは価格又はその役務の提供の場所、質、提供の用に供する物、効能、用途、態様、提供の方法若しくは時期その他の特徴、数量若しくは価格を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標
四 ありふれた氏又は名称を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標
五 極めて簡単で、かつ、ありふれた標章のみからなる商標
六 前各号に掲げるもののほか、需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができない商標
2 前項第三号から第五号までに該当する商標であつても、使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるものについては、同項の規定にかかわらず、商標登録を受けることができる。
(商標登録を受けることができない商標)
第四条 次に掲げる商標については、前条の規定にかかわらず、商標登録を受けることができない。
一 国旗、菊花紋章、勲章、褒章又は外国の国旗と同一又は類似の商標
二 パリ条約(千九百年十二月十四日にブラッセルで、千九百十一年六月二日にワシントンで、千九百二十五年十一月六日にヘーグで、千九百三十四年六月二日にロンドンで、千九百五十八年十月三十一日にリスボンで及び千九百六十七年七月十四日にストックホルムで改正された工業所有権の保護に関する千八百八十三年三月二十日のパリ条約をいう。以下同じ。)の同盟国、世界貿易機関の加盟国又は商標法条約の締約国の国の紋章その他の記章(パリ条約の同盟国、世界貿易機関の加盟国又は商標法条約の締約国の国旗を除く。)であつて、経済産業大臣が指定するものと同一又は類似の商標
三 国際連合その他の国際機関(ロにおいて「国際機関」という。)を表示する標章であつて経済産業大臣が指定するものと同一又は類似の商標(次に掲げるものを除く。)
イ 自己の業務に係る商品若しくは役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標又はこれに類似するものであつて、その商品若しくは役務又はこれらに類似する商品若しくは役務について使用をするもの
ロ 国際機関の略称を表示する標章と同一又は類似の標章からなる商標であつて、その国際機関と関係があるとの誤認を生ずるおそれがない商品又は役務について使用をするもの
四 赤十字の標章及び名称等の使用の制限に関する法律(昭和二十二年法律第百五十九号)第一条の標章若しくは名称又は武力攻撃事態等における国民の保護のための措置に関する法律(平成十六年法律第百十二号)第百五十八条第一項の特殊標章と同一又は類似の商標
五 日本国又はパリ条約の同盟国、世界貿易機関の加盟国若しくは商標法条約の締約国の政府又は地方公共団体の監督用又は証明用の印章又は記号のうち経済産業大臣が指定するものと同一又は類似の標章を有する商標であつて、その印章又は記号が用いられている商品又は役務と同一又は類似の商品又は役務について使用をするもの
六 国若しくは地方公共団体若しくはこれらの機関、公益に関する団体であつて営利を目的としないもの又は公益に関する事業であつて営利を目的としないものを表示する標章であつて著名なものと同一又は類似の商標
七 公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標
八 他人の肖像又は他人の氏名若しくは名称若しくは著名な雅号、芸名若しくは筆名若しくはこれらの著名な略称を含む商標(その他人の承諾を得ているものを除く。)
九 政府若しくは地方公共団体(以下「政府等」という。)が開設する博覧会若しくは政府等以外の者が開設する博覧会であつて特許庁長官の定める基準に適合するもの又は外国でその政府等若しくはその許可を受けた者が開設する国際的な博覧会の賞と同一又は類似の標章を有する商標(その賞を受けた者が商標の一部としてその標章の使用をするものを除く。)
十 他人の業務に係る商品若しくは役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標又はこれに類似する商標であつて、その商品若しくは役務又はこれらに類似する商品若しくは役務について使用をするもの
十一 当該商標登録出願の日前の商標登録出願に係る他人の登録商標又はこれに類似する商標であつて、その商標登録に係る指定商品若しくは指定役務(第六条第一項(第六十八条第一項において準用する場合を含む。)の規定により指定した商品又は役務をいう。以下同じ。)又はこれらに類似する商品若しくは役務について使用をするもの
十二 他人の登録防護標章(防護標章登録を受けている標章をいう。以下同じ。)と同一の商標であつて、その防護標章登録に係る指定商品又は指定役務について使用をするもの
十三 削除
十四 種苗法(平成十年法律第八十三号)第十八条第一項の規定による品種登録を受けた品種の名称と同一又は類似の商標であつて、その品種の種苗又はこれに類似する商品若しくは役務について使用をするもの
十五 他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標(第十号から前号までに掲げるものを除く。)
十六 商品の品質又は役務の質の誤認を生ずるおそれがある商標
十七 日本国のぶどう酒若しくは蒸留酒の産地のうち特許庁長官が指定するものを表示する標章又は世界貿易機関の加盟国のぶどう酒若しくは蒸留酒の産地を表示する標章のうち当該加盟国において当該産地以外の地域を産地とするぶどう酒若しくは蒸留酒について使用をすることが禁止されているものを有する商標であつて、当該産地以外の地域を産地とするぶどう酒又は蒸留酒について使用をするもの
十八 商品等(商品若しくは商品の包装又は役務をいう。第二十六条第一項第五号において同じ。)が当然に備える特徴のうち政令で定めるもののみからなる商標
十九 他人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されている商標と同一又は類似の商標であつて、不正の目的(不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的をいう。以下同じ。)をもつて使用をするもの(前各号に掲げるものを除く。)
2 国若しくは地方公共団体若しくはこれらの機関、公益に関する団体であつて営利を目的としないもの又は公益に関する事業であつて営利を目的としないものを行つている者が前項第六号の商標について商標登録出願をするときは、同号の規定は、適用しない。
3 第一項第八号、第十号、第十五号、第十七号又は第十九号に該当する商標であつても、商標登録出願の時に当該各号に該当しないものについては、これらの規定は、適用しない。
(商標登録出願)
第五条 商標登録を受けようとする者は、次に掲げる事項を記載した願書に必要な書面を添付して特許庁長官に提出しなければならない。
一 商標登録出願人の氏名又は名称及び住所又は居所
二 商標登録を受けようとする商標
三 指定商品又は指定役務並びに第六条第二項の政令で定める商品及び役務の区分
2 次に掲げる商標について商標登録を受けようとするときは、その旨を願書に記載しなければならない。
一 商標に係る文字、図形、記号、立体的形状又は色彩が変化するものであつて、その変化の前後にわたるその文字、図形、記号、立体的形状若しくは色彩又はこれらの結合からなる商標
二 立体的形状(文字、図形、記号若しくは色彩又はこれらの結合との結合を含む。)からなる商標(前号に掲げるものを除く。)
三 色彩のみからなる商標(第一号に掲げるものを除く。)
四 音からなる商標
五 前各号に掲げるもののほか、経済産業省令で定める商標
3 商標登録を受けようとする商標について、特許庁長官の指定する文字(以下「標準文字」という。)のみによつて商標登録を受けようとするときは、その旨を願書に記載しなければならない。
4 経済産業省令で定める商標について商標登録を受けようとするときは、経済産業省令で定めるところにより、その商標の詳細な説明を願書に記載し、又は経済産業省令で定める物件を願書に添付しなければならない。
5 前項の記載及び物件は、商標登録を受けようとする商標を特定するものでなければならない。
6 商標登録を受けようとする商標を記載した部分のうち商標登録を受けようとする商標を記載する欄の色彩と同一の色彩である部分は、その商標の一部でないものとみなす。 ただし、色彩を付すべき範囲を明らかにしてその欄の色彩と同一の色彩を付すべき旨を表示した部分については、この限りでない。
主 文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理 由
上告代理人弁護士兼子一の上告理由第1について。
論旨は、原判決が本件出願商標及び引用商標から「3桝」なる称呼、観念が生ずる旨を判示したのを非難するのであるが、現在、紋章等に関する知識が世人一般に薄くなつたことが所論のとおりであっても、なお、右商標の図形を3桝を表わすものと認める者も相当あるべく、右の原判示が所論のように経験則に反するものとはいえない。論旨は理由がない。
同第2について。
しかし、商標の一部が圧倒的に重要であり他の部分が附加されているに過ぎないような場合は格別、本件出願商標のような図形においては、2つの称呼が出ることも考えられないことではない。原判決が、右商標について、「亀甲」の称呼、観念を生ずるとともに、「三桝」の称呼、観念を生ずる旨を認定したことをもって違法とすべき理由はない。
同第3について。
同じ称呼または観念を生ずる商標を類似商標とするのは商品の出所について誤認、混同を生ずる虞があることによることは論旨のとおりである。論旨は、本件の場合、右の誤認、混同を生ずる危険は全く予想されない旨を主張するのであるが、原判決はこの点について、誤認、混同を生じないのは、両家の競業の事情に通暁しているものの間において、しかも現物取引の場合においてのみ言い得ることである旨を判示しており、この判示は首肯することができる。論旨は理由がない。
同第4について。
しかし、原判決は所論のように出願商標の主要部を単にその大きさや面積のみによって決定しているのではなく、全体的観察においても、三桝絞章表示の立方体の図形を看過することができず、結局、「3桝」なる称呼、観念をも生ずる旨を判示しているのであって、右判示は当審においても是認することができる。論旨は理由がない。
上告代理人弁護士細谷啓次郎、同川上隆の上告理由第1点について。
商標の類否を判断するについては、それぞれの商標を全体として観察しなければならないことは所論のとおりである。本件出願商標と引用商標とは、その図形において同じではなく、ことに本件商標の中央部に亀甲の図形があり、3桝の図形は右亀甲によって一部覆われその全部をあらわしていないのであるが、そのことによって出願商標から3桝の称呼、観念を生じないものとは断定し難く、原判決が出願商標は引用商標とその称呼、観念において同じである旨を判示したのは正当であり、論旨は理由がない。
同第2点について。
論旨は、原判決は、出願商標が商標法(大正10年法律第99号)2条1項9号に該当するかどうかについての判断の基準時を誤つた違法があるというのである。原判決が右の基準時を出願時においていることは判文上明らかであるが、かりに所論のように、その当時予測し得べきことは右の判断の資料とすべきものとしても、その後審決時までに生じた事実をもって直ちに予測可能な事実として右2条1項9号に該当するかどうかを論議すべきものではない。のみならず、称呼、観念が同じであるかどうかについて、出願時と審決時とで判断が異るようなことは通例考えられないばかりではなく、原判決によれば、誤認、混同の事例がないというのは、両家の競業の事情に通暁しているものの間において、しかも現物取引の場合においてのみ言い得るというのであって、かかる事実も、基準時を何時とするかによって異るものとは考えられない。論旨は理由がない。
同第3点について。
論旨は多くの先例を援用して、原判決は商標の称呼、観念類否決定の基準を誤解している旨を主張するのであるが、商標の類否判断は具体的場合に応じて判断せられるべき問題であるから、原判決が本件出願商標と引用商標とを類似するものと判断したからといって、所論の先例に反するものとはいえないのみならず、原判決が右の判断の基準を誤つたものということもできない。論旨は理由がない。
同第4点について。
論旨は、原判決は重要な事項について理由を附せず、理由に齟齬があり、審理不尽の違法があるというのである。よって所論の点について按ずるに、
1、原判決は、出願商標の中央部の亀甲形図形を考えなかつたのではなく、その図形を十分に観察した上で、なお「3桝」の称呼、観念を生ずるとしているのであって、所論のように図形の一部を抽出分析して判断をしているのではない。
2、原判決は商標の特別顕著性は同法1条の問題であって商標の2条1項9号に該当するかどうかに関係がない旨を判示しており、右2条1項9号に該当する以上特別顕著の有無の判断は必要がない。
3、原判決は商標の類否を上告人の主観的意図を考慮に入れて判断しているのではない。所論のように、原判決の理由に前後矛盾するところはない。
4、原判決が出願商標について「亀甲型元祖」なる称呼、観念を認めるとともに「3桝」なる称呼、観念を認めたからといって、元来1箇の商標から2つの称呼、観念が生ずることがないとはいえないのであるから、所論のような矛盾はない。
5、上述第2点説明のとおりであって理由がない。
6、掛紙の相違は商標の類否とは別の問題であって、掛紙による商品の識別についてまで判示する必要はない。
以上、要するに、原判決に、所論のような理由不備、理由齟齬、審理不尽、判断遺脱等の違法はなく、論旨は理由がない。
同第5点について。
上告人と引用商標の権利者との関係が所論のとおりであっても、すでに引用商標の登録があり、上告人の出願商標が右引用商標と類似するものと判断される以上、上告人の出願が拒否されてもやむを得ないのであって、論旨は採用することができない。よって、民訴401条、95条、89条に従い、裁判官全員の1致で、主文のとおり判決する。
最高裁判所第2小法廷