株式会社の訴訟上の代表者と商法第12条の適用の有無
株主総会決議無効確認請求事件
【事件番号】 最高裁判所第2小法廷判決/昭和40年(オ)第1206号
【判決日付】 昭和43年11月1日
【判示事項】 1、株式会社の訴訟上の代表者と商法第12条の適用の有無
2、議決権行使の代理人の資格を株主に制限する旨の定款の規定の効力
【判決要旨】 1、商法第12条は、当事者である株式会社を訴訟上代表する権限を有する者を定めるにあたつては、適用されない。
2、議決権を行使する株主の代理人の資格を当該会社の株主に制限する旨の定款の規定は、有効である。
【参照条文】 商法12
民事訴訟法58
民事訴訟法45
商法239-3
【掲載誌】 最高裁判所民事判例集22巻12号2402頁
会社法
(登記の効力)
第九百八条 この法律の規定により登記すべき事項は、登記の後でなければ、これをもって善意の第三者に対抗することができない。登記の後であっても、第三者が正当な事由によってその登記があることを知らなかったときは、同様とする。
2 故意又は過失によって不実の事項を登記した者は、その事項が不実であることをもって善意の第三者に対抗することができない。
商法
(登記の効力)
第九条 この編の規定により登記すべき事項は、登記の後でなければ、これをもって善意の第三者に対抗することができない。登記の後であっても、第三者が正当な事由によってその登記があることを知らなかったときは、同様とする。
2 故意又は過失によって不実の事項を登記した者は、その事項が不実であることをもって善意の第三者に対抗することができない。
(株主総会の権限)
第二百九十五条 株主総会は、この法律に規定する事項及び株式会社の組織、運営、管理その他株式会社に関する一切の事項について決議をすることができる。
2 前項の規定にかかわらず、取締役会設置会社においては、株主総会は、この法律に規定する事項及び定款で定めた事項に限り、決議をすることができる。
3 この法律の規定により株主総会の決議を必要とする事項について、取締役、執行役、取締役会その他の株主総会以外の機関が決定することができることを内容とする定款の定めは、その効力を有しない。
民事訴訟法
(法人の代表者等への準用)
第三十七条 この法律中法定代理及び法定代理人に関する規定は、法人の代表者及び法人でない社団又は財団でその名において訴え、又は訴えられることができるものの代表者又は管理人について準用する。
主 文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理 由
上告代理人武田蔵之助、同横田長次郎各名義、同後藤三郎の上告理由第一点について。
所論は、Aは、上告会社を代表する権限を裁判所に対し対抗できないから、本訴は訴訟要件を欠くもので不適法である旨主張する。
しかし、Aを上告会社の代表者である清算人に選任した本件乙総会の決議は、右決議の取消しを求める被上告人の本訴を認容する判決が確定するまでは有効に存在するのであり、右決議が有効に存在するかぎり、Aは、上告会社の清算人の地位、資格を有するものと解すべきである。そして、商法四三〇条一項、一二三条は、株式会社の清算人の氏名および住所を登記事項とし、同法一二条は、右登記事項は登記の後でなければ善意の第三者に対抗できない旨規定しているが、これらは、会社と実体法上の取引関係に立つ第三者を保護するため、株式会社の清算人が誰であるかについて、登記をもつて対抗要件としているものであり、それ自体実体法上の取引行為でない民事訴訟において、誰が当事者である会社を代表する権限を有する者であるかを定めるに当つては、右商法一二条の適用はないと解するのが相当である(昭和四〇年(オ)第八六〇号、同四一年九月三〇日第二小法廷判決、民集二〇巻七号一五二三頁参照)。したがつて、Aの清算人の選任登記が経由されていないこと、他に選任登記を経た清算人が存在することは、Aを上告会社の清算人であると認めることを妨げるものではないというべきである。所論は、独自の見解に立つて、原判決を非難するものであつて、採用できない。
同第二点について。
原審が適法に確定したところによれば、上告会社は、その設立以来株券を発行したことはないというのであるから、所論上告人の主張は、株券の発行を停止条件とする株式の譲渡の効力いかんを論ずるまでもなく、理由がない。論旨は採ることができない。
同第三点について。
所論は、議決権行使の代理人を株主にかぎる旨の定款の規定は、商法二三九条三項に違反して無効である旨主張する。
しかし、同条項は、議決権を行使する代理人の資格を制限すべき合理的な理由がある場合に、定款の規定により、相当と認められる程度の制限を加えることまでも禁止したものとは解されず、右代理人は株主にかぎる旨の所論上告会社の定款の規定は、株主総会が、株主以外の第三者によつて攪乱されることを防止し、会社の利益を保護する趣旨にでたものと認められ、合理的な理由による相当程度の制限ということができるから、右商法二三九条三項に反することなく、有効であると解するのが相当である。論旨は、右と異なる見解に立つて、原審の判断を攻撃するものであつて、採用できない。
よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
最高裁判所第二小法廷
裁判長裁判官 奥野健一