日常生活上喀痰吸引器具を必要とする公立学校の生徒ないしその保護者の控訴人らが,被控訴人に対し,同 | 法律大好きのブログ(弁護士村田英幸)

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日常生活上喀痰吸引器具を必要とする公立学校の生徒ないしその保護者の控訴人らが,被控訴人に対し,同器具を取得し,その器具を使用に供し得る状態で維持,保管及び整備することを請求し,町教委及び学校長の対応に対し,国賠請求し,いずれも棄却した原判決に対する控訴事案。

 

              公立小中学校における喀痰吸引に必要な器具の確保処分義務付け等請求控訴事件

 名古屋高等裁判所判決/令和2年(行コ)第41号

【判決日付】      令和3年9月3日

【判示事項】      日常生活上喀痰吸引器具を必要とする公立学校の生徒ないしその保護者の控訴人らが,被控訴人に対し,同器具を取得し,その器具を使用に供し得る状態で維持,保管及び整備することを請求し,町教委及び学校長の対応に対し,国賠請求し,いずれも棄却した原判決に対する控訴事案。

控訴審は,町教委が控訴人父母に喀痰吸引器具及び連絡票を持参すべきとしたことに,障害者基本法等の違反はなく,国賠法上違法とはいえず,その他,控訴人らの主張はいずれも採用できず,町教委や学校長の対応は著しく合理性を欠くものではなく,不当な差別的取扱いに当たらないなどとして控訴を棄却した事例

【掲載誌】        LLI/DB 判例秘書登載

 

障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律

(行政機関等における障害を理由とする差別の禁止)

第七条 行政機関等は、その事務又は事業を行うに当たり、障害を理由として障害者でない者と不当な差別的取扱いをすることにより、障害者の権利利益を侵害してはならない。

2 行政機関等は、その事務又は事業を行うに当たり、障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において、その実施に伴う負担が過重でないときは、障害者の権利利益を侵害することとならないよう、当該障害者の性別、年齢及び障害の状態に応じて、社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮をしなければならない。

 

障害者基本法

(差別の禁止)

第四条 何人も、障害者に対して、障害を理由として、差別することその他の権利利益を侵害する行為をしてはならない。

2 社会的障壁の除去は、それを必要としている障害者が現に存し、かつ、その実施に伴う負担が過重でないときは、それを怠ることによつて前項の規定に違反することとならないよう、その実施について必要かつ合理的な配慮がされなければならない。

3 国は、第一項の規定に違反する行為の防止に関する啓発及び知識の普及を図るため、当該行為の防止を図るために必要となる情報の収集、整理及び提供を行うものとする。

 

行政事件訴訟法

(当事者訴訟)

第四条 この法律において「当事者訴訟」とは、当事者間の法律関係を確認し又は形成する処分又は裁決に関する訴訟で法令の規定によりその法律関係の当事者の一方を被告とするもの及び公法上の法律関係に関する確認の訴えその他の公法上の法律関係に関する訴訟をいう。

 

 

 

       主   文

 

 1 本件控訴をいずれも棄却する。

 2 控訴費用は控訴人らの負担とする。

 

       事実及び理由

 

第1 控訴の趣旨

 1 原判決を取り消す。

 2 被控訴人は,電動式吸引器ほか原判決別紙物件目録記載の喀痰吸引に必要な器具を取得し,その器具を使用に供し得る状態で維持,保管及び整備をせよ。

 3 被控訴人は,控訴人ら各自に対し,110万円及びこれに対する平成30年7月29日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要(以下,略語は,特に断りのない限り,原判決の例による。)

 1 本件は,控訴人X1(以下「控訴人父」という。)及び控訴人X2(以下「控訴人母」という。)の子である控訴人X3(以下「控訴人子」という。)が,声門下狭窄症にり患し,カニューレ等を挿管しているところ,控訴人らが,(1)控訴人子が中学校において教育を受けるためには喀痰吸引器具が必要であり,被控訴人には,障害者差別解消法7条2項の規定する合理的な配慮として控訴人子のために喀痰吸引器具を取得し,これを維持,保管及び整備する義務があると主張して,行訴法4条後段の当事者訴訟として,障害者差別解消法7条2項に基づき,原判決別紙物件目録記載の喀痰吸引器具を取得し,その器具を使用に供し得る状態で維持,保管及び整備することを請求するとともに,(2)控訴人子がA小学校に在学中,①町教委が控訴人子の登校の条件として,喀痰吸引器具の準備及びその費用を控訴人父母(控訴人父又は控訴人母の一方又は双方をいう。以下同じ。)の負担とするとともに,控訴人父母に控訴人子の登校日に喀痰吸引器具等を持参するよう求めたこと,②A小学校校長らが,(a)控訴人子の校外学習に控訴人父母の付添いを要求したこと,(b)控訴人子が控訴人父母の付添いなく通学団に参加することができるように通学団の保護者に働きかけを行わなかったこと,(c)控訴人子を水泳の授業に参加させず,又は水泳の授業に高学年用プールを使用しなかったことが障害者基本法4条及び障害者差別解消法7条に違反するなどと主張して,被控訴人に対し,国賠法1条1項に基づき,それぞれ,損害賠償金110万円(慰謝料100万円及び弁護士費用10万円の合計額)及びこれに対する不法行為の日の後の日である平成30年7月29日から支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。

   原審が控訴人らの請求をいずれも棄却したところ,控訴人らが控訴した。