戦傷病者戦没者遺族等援護法附則2項及び恩給法9条1項3号の各規定と憲法14条1項 損害賠償請 | 法律大好きのブログ(弁護士村田英幸)

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戦傷病者戦没者遺族等援護法附則2項及び恩給法9条1項3号の各規定と憲法14条1項

 

 

損害賠償請求事件

【事件番号】      最高裁判所第3小法廷判決/昭和60年(オ)第1427号

【判決日付】      平成4年4月28日

【判示事項】      戦傷病者戦没者遺族等援護法附則2項及び恩給法9条1項3号の各規定と憲法14条1項

【判決要旨】      戦傷病者戦没者遺族等援護法附則2項及び恩給法9条1項3号の各規定は、いずれも憲法14条1項に違反してない。

             (意見がある。)

【参照条文】      憲法14-1

             戦傷病者戦没者遺族等援護法附則14-2

             恩給法9-1

【掲載誌】        訟務月報38巻12号2579頁

             最高裁判所裁判集民事164号295頁

             判例タイムズ787号58頁

             判例時報1422号91頁

 

憲法

第十四条 すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。

② 華族その他の貴族の制度は、これを認めない。

③ 栄誉、勲章その他の栄典の授与は、いかなる特権も伴はない。栄典の授与は、現にこれを有し、又は将来これを受ける者の一代に限り、その効力を有する。

 

恩給法

第九条 年金タル恩給ヲ受クルノ権利ヲ有スル者左ノ各号ノ一ニ該当スルトキハ其ノ権利消滅ス

一 死亡シタルトキ

二 死刑又ハ無期若ハ三年ヲ超ユル懲役若ハ禁錮ノ刑ニ処セラレタルトキ

三 国籍ヲ失ヒタルトキ

② 在職中ノ職務ニ関スル犯罪(過失犯ヲ除ク)ニ因リ禁錮以上ノ刑ニ処セラレタルトキハ其ノ権利消滅ス但シ其ノ在職カ普通恩給ヲ受ケタル後ニ為サレタルモノナルトキハ其ノ再在職ニ因リテ生シタル権利ノミ消滅ス

 

 

       主   文

 

 本件上告を棄却する。

 上告費用は上告人らの負担とする。

 

       理   由

 

 上告代理人秋元英男、同山田伸男、同庭山正一郎、同錦織淳、同羽柴駿、同鈴木五十三、同岩倉哲二、同柳川昭二の上告理由

 第一点について

 原審の適法に確定した事実関係の下においては、所論の点に関する原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、独自の見解に立って原判決を非難するものにすぎず、採用することができない。

 同第二点について

 上告人らが主張するような戦争犠牲ないし戦争損害は、国の存亡に係わる非常事態の下では、国民の等しく受忍しなければならなかったところであって、これに対する補償は憲法の全く予想しないところというべきであり、右のような戦争犠牲ないし戦争損害に対しては単に政策的見地からの配慮が考えられるにすぎないものと解すべきことは、当裁判所の判例の趣旨に徴し明らかである(昭和四〇年(オ)第四一七号同四三年一一月二七日大法廷判決・民集二二巻一二号二八〇八頁参照)。したがって、憲法二九条三項等の規定を適用してその補償を求める上告人らの主張は、右規定の意義・性質等について判断するまでもなく、その前提を欠くに帰するというべきであって、所論の点に関する原審の判断は、結論において是認することができる。論旨は、採用することができない。

 同第三点について

 論旨は、昭和二七年四月三〇日に施行された戦傷病者戦没者遺族等援護法(同年法律第一二七号。以下「援護法」という。)により、軍人軍属等であった者又はこれらの者の遺族に対しては障害年金・遺族年金等が支給され、また、昭和二八年八月一日施行の恩給法の一部を改正する法律(同年法律第一五五号。以下「恩給法改正法」という。)により、旧軍人等又はこれらの者の遺族に対する恩給の支給が復活したところ、援護法附則二項は、戸籍法の適用を受けない者については、当分の間、この法律を適用しない旨を定め、また、恩給法九条一項三号は、日本国籍を失ったときは年金たる恩給を受ける権利は消滅するものと定めており(以下、これらを「本件国籍条項」という。)、台湾住民である軍人軍属に対して本件国籍条項の適用を除外していないことから、台湾住民である上告人らは援護法又は恩給法による給付を受けることができないこととされているが、これはもと日本国籍を有していた台湾住民である軍人軍属を不当に差別するもので憲法一四条に違反する、というのである。

 そこで検討するのに、憲法一四条一項は法の下の平等を定めているが、右規定は合理的理由のない差別を禁止する趣旨のものであって、各人に存する経済的、社会的その他種々の事実関係上の差異を理由としてその法的取扱いに区別を設けることは、その区別が合理性を有する限り、何ら右規定に違反するものでないことは、当裁判所の判例の趣旨とするところである(昭和三七年(あ)第九二七号同三九年一一月一八日大法廷判決・刑集一八巻九号五七九頁、同昭和三七年(オ)第一四七二号同三九年五月二七日大法廷判決・民集一八巻四号六七六頁等参照)。ところで、我が国は、昭和二七年四月二八日に発効した日本国との平和条約により、台湾及び澎湖諸島に対するすべての権利、権原及び請求権を放棄し(二条)、この地域に関し、日本国及びその国民に対する右地域の施政を行っている当局及び住民の請求権の処理は、日本国と右当局との間の特別取極の主題とするものとされ(四条)、また、我か国は、右条約の署名国でない国と、右条約に定めるところと同一の又は実質的に同一の条件で二国間の平和条約を締結することが予定された(二六条)。そして、我が国は、中華民国との間で日本国と中華民国との間の平和条約(以下「日華平和条約」という。)を締結し、同条約は昭和二七年八月五日に効力を生じたところ、同条約三条は、日本国及びその国民に対する中華民国の当局及び台湾住民の請求権の処理は、日本国政府と中華民国政府との間の特別取極の主題とする旨を定めている。また、台湾住民は、同条約により、日本の国籍を喪失したものと解される(最高裁昭和三三年(あ)第二一〇九号同三七年一二月五日大法廷判決・刑集一六巻一二号一六六一頁参照)。その間、昭和二七年四月三〇日に援護法が制定され、その附則二項は、戸籍法の適用を受けない者については、当分の間、援護法を適用しない旨を規定したが、その趣旨は、同法上、援護対象者は日本国籍を有する者に限定され、日本国籍の喪失をもって権利消滅事由と定められているところ、同法制定当時、台湾住民等の国籍の帰属が分明でなかったことから、これらの人々に同法の適用がないことを明らかにすることにあったものと解される。その後、昭和二八年八月一日施行の恩給法改正法により、旧軍人等及びこれらの者の遺族に対する恩給の支給が復活したが、その時点においては、台湾住民は日本の国籍を喪失していたから、恩給法九条一項三号の規定の趣旨に照らし、恩給の受給資格を有しないこととなったものである。以上の経緯に照らせば、台湾住民である軍人軍属が援護法及び恩給法の適用から除外されたのは、台湾住民の請求権の処理は日本国との平和条約及び日華平和条約により日本国政府と中華民国政府との特別取極の主題とされたことから、台湾住民である夷軍属に対する補償問題もまた両国政府の外交交渉によって解決されることが予定されたことに基づくものと解されるのであり、そのことには十分な合理的根拠があるものというべきである。したがって、本件国籍条項により、日本の国籍を有する軍人軍属と台湾住民である軍人軍属との間に差別が生じているとしても、それは右のような根拠に基づくものである以上、本件国籍条項は、憲法一四条に関する前記大法廷判例の趣旨に徴して同条に違反するものとはいえない。ところで、日華平和条約に基づく特別取極については、その成立をみることなく右条約締結後二〇年近くを推移するうち、昭和四七年九月二九日、日本国政府と中華人民共和国政府の共同声明が発せられ、日本国政府は中華人民共和国政府が中国の唯一の合法政府であることを承認した結果、右特別取極についての協議が行われることは事実上不可能な状態にある。しかしながら、そのことのゆえに本件国籍条項が違憲となるべき理由はなく、右のような現実を考慮して、我が国が台湾住民である軍人軍属に対していかなる措置を講ずべきかは、立法政策に属する問題というべきである。ちなみに、現時点までに成立した台湾住民である戦没者の遺族等に対する弔慰金等に関する法律(昭和六二年法律第一〇五号)及び特定弔慰金等の支給の実施に関する法律(昭和六三年法律第三一号)によれば、我が国は、人道的精神に基づき、台湾住民である戦没者の遺族等に対し、戦没者等又は戦傷病者一人につき二〇〇万円の弔慰金又は見舞金を支給するものとされているところである。

 所論の点に関する原審の判断は、以上の趣旨をいうものとして是認することができる。原判決に所論憲法一四条の解釈適用の誤りはなく、論旨は採用することができない。

 同第四点について

 論旨は、原判決の結論に影響のない説示部分を論難するものにすぎず、採用することができない。

 同第五点について

 前記説示のとおり、本件国籍条項を違憲ということはできないから、その違憲であることを前提として、違憲状態を解消すべき立法の不作為の違憲確認を求める上告人らの予備的請求に係る訴えは、その適否いかんにかかわらず、理由のないことが明らかである。そして、仮に原判決中右訴えを不適法として却下した部分が違法であるとしても、右却下部分を取り消して右請求を棄却することは不利益変更禁止の原則に触れるから、右却下部分についての上告はこれを棄却するほかない。したがって、論旨は、原判決の結論に影響を及ぼさない部分の違法をいうに帰し、採用することができない。

 よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、上告理由第二点及び第三点並びに第五点についての裁判官園部逸夫の意見があるほか、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。