曳船契約の法律上の性質 【事件番号】松山地方裁判所判決 | 法律大好きのブログ(弁護士村田英幸)

法律大好きのブログ(弁護士村田英幸)

役に立つ裁判例の紹介、法律の本の書評です。弁護士経験32年。第二東京弁護士会所属21770

曳船契約の法律上の性質

 

【事件番号】      松山地方裁判所判決/昭和25年(ワ)第293号

【判決日付】      昭和36年8月25日

【判示事項】      1、曳船契約の法律上の性質

             2、浚渫船のように自力航行の能力がない船舶を曳引する曳船々長の注意義務

             3、商法580条の法意

【掲載誌】        下級裁判所民事裁判例集12巻8号1966頁

             判例タイムズ123号64頁

 

 

事案の概要

 本件は浚渫船を曳船して目的港外にいたつたが、荒天のため沈没させ、船長ほか1名を溺死するにいたらしめたという事件で、次の諸点を判示する。

 一、まず、曳船契約とよばれるものには、その法律上の性質が運送契約であるものと請負契約であるものとがあつて、そのいずれであるかは、曳船列の運航指揮権、被曳船に対する保管監督権の所在等によつて決せらるべきであるが、本件では被曳船が自力航行能力のない浚渫船であり、乗組員も運航の技術を知らない非船員であることなどの事実関係にもとづいて、いわゆる運送曳船であると認定された。

したがつて、曳船側の債務も、単に目的地点に到達したというだけで履行を完了したものということができず、安全に被曳船の引渡を終了することを要するものとされたのである。

 二、次に、このような自力航行能力のない船舶を曳引して、附近に避難場所のない地域に運送する債務を負担した曳船の船長は、とくに天候の変化に留意し、その悪化を知りえたときは適当な場所に避難することなどの注意義務のあることが認定されている。

 三、そして、運送契約の債務不履行による損害賠償額は、商法580条によつて法定されているのであり。

これは企業の保護のために定額にしたものであるから(西原、商行為法・法律学全集303頁参照)、実損害がそれを上廻る場合でも、法定額以上の賠償義務を負担ざせない趣旨だといつている。

この点、旧340条に関する大正9年11月25日の大審院判決(民録26輯1755頁)が、「民法ノ一般原則ニ従ハサルモノトス」といつているのと、同趣旨と思われる。

 なお、本件では、曳船の船長個人にたいしても、不法行為による損害賠償責任を科しているが、賠償額の認定方法等につき、参考に資すべき点が多い。

 

 

       主   文

 

原告株式会社宇都宮組に対し、被告日正汽船株式会社は金五〇〇万円被告山本竹一は金五、三〇万七、四五三円及び右各金額に対する昭和二五年九月二二日以降完済まで年五分の割合による金員を各自支払え。

被告等に対する同原告その余の請求を棄却する。

被告等は、各自、原告大田垣ヨシノ、同長柄文江、同後藤節子、同大田垣孝枝、同大田垣龍枝、同大田垣弘美、同大田垣昭弘、同見上大二三、同米田佐代子、同杉山圭子、同見上立美、同見上司郎に対し各金一〇万円及びこれに対する昭和二五年九月二二日以降完済まで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用中原告株式会社宇都宮組と被告等との間で生じた分は、これを二分しその一を同原告の負担、その余を被告等の負担とし、爾余の原告等と被告等との間で生じた分は被告等の負担とする。

 この判決は、各被告に対し、原告株式会社宇都宮組において金一〇〇万円ずつ、爾余の原告等において金二万円ずつの各担保を供するときは、各勝訴部分に限り仮りに執行することができる。