貨物船による曳船が商法656条にいう「危険ガ著シク増加シタルトキ」にあたるとされた事例
保険金請求事件
【事件番号】 最高裁判所第3小法廷判決/昭和44年(オ)第718号
【判決日付】 昭和50年1月31日
【判示事項】 一、貨物船による曳船が商法656条にいう「危険ガ著シク増加シタルトキ」にあたるとされた事例
二、貨物船による曳船と商法713条1項
三、船長が危険の著しい増加を知つたときと商法657条2項にいう「保険契約者又ハ被保険者ガ危険ノ著シク増加シタルコトヲ知リタルトキ」
【判決要旨】 一、総トン数405トン余の貨物船が500トンの貨物を積載したうえ無人の総トン数444トンの貨物船を曳船して太平洋沿岸航路を航海することは、商法656条にいう「危険ガ著シク増加シタルトキ」にあたる。
二、貨物を積載した貨物船により他の船舶を曳船して航海することは、特別な事情のないかぎり、船籍港外における船長の権限に属しない。
三、商法657条2項にいう「保険契約者又ハ被保険者ガ危険ノ著シク増加シタルコトヲ知リタルトキ」には、保険の目的たる船舶の船長のみが右危険著増の事実を知つた場合は含まれない。
【参照条文】 商法656
商法713-1
商法657-2
【掲載誌】 最高裁判所民事判例集29巻1号16頁
商法
(著しい危険の増加)
第八百二十三条 次に掲げる場合には、保険者は、その事実が生じた時以後に発生した事故によって生じた損害を塡補する責任を負わない。ただし、当該事実が当該事故の発生に影響を及ぼさなかったとき、又は保険契約者若しくは被保険者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。
一 被保険者が発航又は航海の継続を怠ったとき。
二 被保険者が航路を変更したとき。
三 前二号に掲げるもののほか、保険契約者又は被保険者が危険を著しく増加させたとき。
(航海継続のための積荷の使用)
第七百十二条 船長は、航海を継続するため必要があるときは、積荷を航海の用に供することができる。
2 第五百七十六条第一項及び第二項の規定は、前項の場合において船舶所有者が支払うべき償金の額について準用する。この場合において、同条第一項中「引渡し」とあるのは、「陸揚げ」と読み替えるものとする。