電話盗聴事件・電気通信事業法104条1項にいう「通信の秘密を侵した」場合にあたるとされた事例 | 法律大好きのブログ(弁護士村田英幸)

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電話盗聴事件・電気通信事業法104条1項にいう「通信の秘密を侵した」場合にあたるとされた事例

 

 

電気通信事業法違反、同未遂各被告事件

【事件番号】      盛岡地方裁判所判決/昭和62年(わ)第239号

【判決日付】      昭和63年3月23日

【判示事項】      1 電気通信事業法104条1項にいう「通信の秘密を侵した」場合にあたるとされた事例

             2 同法104条3項の未遂罪が成立するとされた事例

【参照条文】      電気通信事業法104

【掲載誌】        判例時報1269号159頁

【評釈論文】      判例評論356号246頁

 

 

電気通信事業法

(秘密保持義務)

第百十六条の四 認定送信型対電気通信設備サイバー攻撃対処協会の役員若しくは職員又はこれらの職にあつた者は、送信型対電気通信設備サイバー攻撃対処業務に関して知り得た秘密を漏らしてはならない。

 

第百八十二条 第七十八条第一項(第百十六条第一項において準用する場合を含む。)又は第百十六条の四の規定に違反してその職務に関し知り得た秘密を漏らした者は、一年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。

2 第八十五条の十三第二項、第百条第二項(第百三条において準用する場合を含む。)又は第百十六条の六第二項の規定による業務の停止の命令に違反したときは、当該違反行為をした者も、前項と同様とする。

 

 

 

 

       主   文

 

 被告人を懲役八月に処する。この裁判確定の日から四年間右刑の執行を猶予する。押収してある保安器用ヒューズ型発信機一個及びラジオカセットレコーダー一台を没収する。

 

       理   由

 

 (罪となるべき事実)

 被告人は、信用調査、興信を業とする「株式会社甲野プロフェッショナル」を経営していたものであるが、

 第一 知人のAから岩手県岩手郡西根町《番地略》所在B方に架設されている日本電信電話株式会社岩手電報電話局の加入電話による右B方家人と他人との通話内容を盗聴録音することの依頼を受けてこれを承諾し、その旨同社従業員X及び同人を通じて同従業員Vに指示を与え、ここに右両名と共謀の上、昭和六二年四月中旬ころ、前記B方において、前記岩手電報電話局が右B方軒下に設置して管理・取り扱い中の加入電話四号保安器内に、保安器用ヒューズ型発信機を取り付け、同発信機から発信される電波をラジオカセットレコーダーで受信して盗聴録音することができるようにした上、その頃数回にわたり、同町大更第二五地割八五番地大更駅付近に駐車中の自動車内において、右B方加入電話を利用して同人方家人が他人と通話した内容をラジオカセットレコーダーにより録音テープ三巻に盗聴録音し、もって電気通信事業者が取り扱い中の通信の秘密を侵した

第二 同年八月九日ごろ、知人のDから、前記Bの関係者が前記Aの関係者に対し「どんな悪口をいっているか聞いてみたいものだ」等といわれたことから、再び前記B方架設電話の通話内容を盗聴録音することを決意し、その旨前記X及び同人を通じて前記Vに指示を与え、ここに右両名と共謀の上、同月一一日ごろ、前記B方において、前記電話の保安器内に前同様の発信機を取り付け、前同様の方法で盗聴録音できるような状態においたが、同月一八日ころ右発信機をCらに発見され、取り外されたため、盗聴録音の目的を遂げなかったものである。

(証拠の標目)《略》

(法令の適用)

 被告人の判示第一の所為は刑法六〇条、電気通信事業法一〇四条一項に、判示第二の所為は刑法六〇条、電気通信事業法一〇四条三項、同条一項に各該当するところ、各所定刑中懲役刑を選択し、以上の各罪は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により犯情が重い判示第一の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役八月に処し、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から四年間右刑の執行を猶予することとし、押収してある保安器用ヒューズ型発信機一個は、判示第二の犯行の用に、ラジオカセットレコーダー一台は判示第一の犯行の用にそれぞれ供したもので被告人以外の者に属しないから同法一九条一項二号、二項を適用してこれを没収することとする。

(被告人、弁護人の主張について)

 被告人及び弁護人は、被告人は(1)本件各犯行につき、自らは盗聴する意思がなかったので、犯行を企てたことも、又他の共犯者と共謀したこともない、(2)第一の犯行につき盗聴録音されたという通話内容を聴いていないから録音ができたかどうかも関知しておらず、従って通信の秘密を侵していない、(3)第二の犯行につき、盗聴録音する装置を未だ完成していない旨主張する。

 よって検討するに、(1)の点については、被告人は、依頼人からの依頼にもとづき自ら経営する会社の従業員であるXとVに命じて本件盗聴装置の取付けと通話内容を録音テープに収録するよう命じたことを一貫して認めているのであるから、自らその録音内容を聴く意思がなくても録音すること自体が通信の秘密の侵害になるのであり、被告人の右行為は、すなわち本件犯行を「企てた」ことになり、又XやVと「共謀した」ことになることは明らかである。(2)の点については、前記のように電話の通話内容を録音すれば、すなわち通信の秘密の侵害になるのであるから、被告人がその録音内容を聴いたかどうかは本罪の成否には関係ないが、真実録音がされていたか否かは本罪の成否に関係があるところ、本件につき、当該録音テープは法廷に提出されていないが、本件証拠上(イ)第一の犯行に併せられた発信機と同種ものから発せられる電波を同じく同種のラジオカセットレコーダーで受信し、その内容を録音することが可能であることが鑑定により科学的に明らかになっていること、(ロ)録音の実行行為者であるVが、録音に際し音量をあげ通話内容が受信されていることを一部につき確認しており、又当該テープ三巻を依頼者に届けたXが、それを一部再生して聴き、B方電話の通話内 が実際に録音されていることを確かめていること、(ハ)当該テープを受け取ったAも、後日それを被告人に返還する時「役に立たなかった」とはいっていたが、 「聞こえなかった」とはいっておらず、この 役に立たなかった」という意味は録音が不良で内容が聴き取れなかったというのではなく、むしろ同人の選挙活動のために役に立たなかったということであろうと推測されること等の点から考えて、結局当該録音テープ三巻には、B方加入電話の何らかの通話内容が録音されていたものと認めるのが相当である。(3)の点については、被告人、弁護人は公訴事実第一の「盗録日する装置を完成させた」の表現に拘泥しているようであるが、かかる装置の完成ということは本罪の構成要件となっていないので、何をもってかかる装置の「完兀成」と見るべきかはさておき、被告人の指示どおりに共犯者VがB方架設電話の保安内に盗聴用発信機を取りつけたことが、とりもなおさず本罪の実行の着手であることは明らかであって、その後結局盗聴録音するに至らなかったのであるから、本罪の未遂となることは論を俟たない。