シャティ事件・カタログ通信販売業におけるカタログを利用したサービスが商標法にいう「役務」に当たら | 法律大好きのブログ(弁護士村田英幸)

法律大好きのブログ(弁護士村田英幸)

役に立つ裁判例の紹介、法律の本の書評です。弁護士経験32年。第二東京弁護士会所属21770

シャティ事件・カタログ通信販売業におけるカタログを利用したサービスが商標法にいう「役務」に当たらないとされた事例

 

 

              審決取消請求事件

【事件番号】      東京高等裁判所判決/平成11年(行ケ)第390号

【判決日付】      平成12年8月29日

【判示事項】      いわゆるカタログ通信販売業におけるカタログを利用したサービスが商標法にいう「役務」に当たらないとされた事例

【参照条文】      商標法

【掲載誌】        判例時報1737号124頁

【評釈論文】      知財管理51巻12号1885頁

             判例評論511号49頁

 

 

商標法

(先願)

第八条 同一又は類似の商品又は役務について使用をする同一又は類似の商標について異なつた日に二以上の商標登録出願があつたときは、最先の商標登録出願人のみがその商標について商標登録を受けることができる。

2 同一又は類似の商品又は役務について使用をする同一又は類似の商標について同日に二以上の商標登録出願があつたときは、商標登録出願人の協議により定めた一の商標登録出願人のみがその商標について商標登録を受けることができる。

3 商標登録出願が放棄され取り下げられ若しくは却下されたとき、又は商標登録出願について査定若しくは審決が確定したときは、その商標登録出願は、前二項の規定の適用については、初めからなかつたものとみなす。

4 特許庁長官は、第二項の場合は、相当の期間を指定して、同項の協議をしてその結果を届け出るべき旨を商標登録出願人に命じなければならない。

5 第二項の協議が成立せず、又は前項の規定により指定した期間内に同項の規定による届出がないときは、特許庁長官が行う公正な方法によるくじにより定めた一の商標登録出願人のみが商標登録を受けることができる。

 

 

       主   文

 

 原告の請求を棄却する。

 訴訟費用は原告の負担とする。

 

       事実及び理由

 

第1 当事者の求めた裁判

1 原告

 特許庁が平成7年審判第23933号事件について平成11年10月4日にした審決を取り消す。

 訴訟費用は被告の負担とする。

2 被告

 主文と同旨

第2 当事者間に争いのない事実

1 特許庁における手続の経緯

 原告は、平成4年9月29日、「シャディ」の文字を横書きしてなり、商品及び役務の区分第42類「多数の商品を掲載したカタログを不特定多数人に頒布し、家庭にいながら商品選択の機会を与えるサービス」を指定役務とする商標(以下「本願商標」という。)について、商標法の一部を改正する法律(平成3年法律第65号)附則5条1項の規定により使用に基づく特例の適用を主張して、商標登録出願をしたところ、平成7年9月5日、拒絶査定を受けたので、平成7年11月2日、拒絶査定不服の審判を請求した。特許庁は、これを平成7年審判第23933号事件として審理した結果、平成11年10月4日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、同年11月1日、その謄本を原告に送達した。

2 審決の理由

 審決の理由は、別紙審決書の理由の写しのとおりである。要するに、商標法にいう「役務」は、「他人のために提供する労務又は便益であって、独立して取引の対象となるもの」と解するのが相当であるのに、請求人(原告)が指定役務とする労務・便益自体は、独立して経済取引の対象になっているものとはいえないから、本願商標登録出願に係る指定役務は商標法にいう「役務」ではなく、これによれば本願は商標法6条1項の要件を具備していない、としたものである。

 

第5 当裁判所の判断

2 カタログ通信販売業における役務の独立性についての認定の誤りについて

(1) 原告が本願商標の指定役務とするその業務が、次のとおりのものであることは、当事者間に争いがない(特許庁の審尋に対する原告の回答書に基づいて審決が認定したものである。)。

(イ) 原告は、広義の「カタログ販売」を業とするものである。

(ロ) 原告の具体的な業務形態は、顧客との直接的な結び付きではなく、北は北海道から南は沖縄まで全国に3000にのぼる「Shaddy シャディ」の看板を掲げた代理店並びに全国で2000以上展開している「シャディ サラダ館」の代理店を通じ、顧客に対して、本件カタログを頒布し、商品の販売を行うというものである。

(ハ) このカタログは、まず、すべて有料で上記代理店に頒布され、それら代理店を通じ需要者に頒布される。本件カタログには、各々製造元又は発売元のブランド等種々の商標が付された不特定多数の商品が満載されており、需要者は、家庭において本件カタログを見、原告の各代理店を通じて商品の申込みをし、購入をする。

(ニ) 本件カタログ掲載の商品については、原告がすべて用意しており、各代理店を通じて需要者に手渡し又は配送されることとなる。

(ホ) 商品の販売代金及び送付料につき、各代理店を通じて需要者に販売された商品の代金は、需要者から各代理店が受け取り、各代理店を通じ一定の額の代金が原告に支払われ、送付料は、各代理店での手渡しの場合は無料であり、送付する場合は原則として需要者の実費負担となる。

(2) 上記事実によれば、原告の営業は、まず、原告が、一般消費者である顧客に対して本件カタログを頒布することによって、自己の取り扱う各種の商品を広告宣伝し、かつ、売買取引を誘引し、顧客は、上記代理店を通じて原告に商品購入の申込みをし、これを受けて、原告は、代理店を通じて、在庫の商品を顧客に手渡し又は配送して、売買が成立するという仕組みであることが認められる。これによれば、本件カタログに工夫が凝らされ、顧客において、本件カタログを見るだけで商品の選択ができるようになっており、この点において、顧客を誘引し、販売を促進するための他の手段との間に相違があるとしても、原告の営業が個々の商品の売買という取引以外の何物でもないものであり、本件カタログを利用したサービスは、結局のところ、上記売買において顧客を誘引し、販売を促進するための手段の一つにすぎないことが明らかである。

 また、前記(1)掲記の事実によれば、顧客は、原告の提供するカタログによるサービスを積極的に利用するとしても、原告に支払うのは、商品代金のみであり、サービスに対する対価としての支払いは存在しないから、原告が商品の価格に実質的に上記サービス費用等を上乗せしているとしても、それは、他の販売促進手段が採用された場合にその費用等が上乗せされる場合と何ら異なるものではなく(原告が上記上乗せの限度を超えたものを商品価格に加えていることは、本件全証拠によっても認めることができない。)、上記サービスは独立して取引の対象となっているわけではないことが明らかである。

 以上によれば、原告の本件カタログによるサービス業務は、商品の売買に伴い、付随的に行われる労務又は便益にすぎず、商標法にいう「役務」に該当しないものというべきである。