オランダ人戦後補償請求事件控訴審判決 損害賠償請求控訴事件 東京高等裁判所判決 | 法律大好きのブログ(弁護士村田英幸)

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オランダ人戦後補償請求事件控訴審判決

 

 

              損害賠償請求控訴事件

【事件番号】      東京高等裁判所判決/平成11年(ネ)第247号

【判決日付】      平成13年10月11日

【判示事項】      オランダ人戦後補償請求事件控訴審判決

             一 陸戦ノ法規慣例ニ関スル条約三条は、戦争被害について、個人に交戦当事者である国に対する出訴権を与えるものではない

             二 サンフランシスコ平和条約一四条Bの連合国による放棄により、連合国及びその国民の日本国及びその国民に対する戦争被害に関する請求権は、実体的に消滅した

【参照条文】      陸戦ノ法規慣例ニ関スル条約

             サンフランシスコ平和条約14のB

【掲載誌】        訟務月報48巻9号2123頁

             判例タイムズ1072号88頁

             判例時報1769号61頁

【評釈論文】      ジュリスト臨時増刊1246号266頁

             訟務月報48巻9号49頁

 

 

 

一 事案の概要

本件は、第二次世界大戦中の旧オランダ領東インド(現インドネシア)地域において、日本軍の構成員から虐待等の被害を受けたとして、日本軍の捕虜又は民間人抑留者であったオランダ人八名が、日本国に対して、一九〇七年の陸戦ノ法規慣例ニ関スル条約(ヘーグ条約)三条に基づいて、原告一人当たり二万二〇〇〇米国ドルの賠償を求めた事案である。

 一審判決は、ヘーグ条約三条は、個人の出訴権を認めたものではないとして、請求を棄却したので、これに対して原告らから不服申立てがあった。控訴審では、この個人の出訴権の問題のほかに、国側から、サンフランシスコ平和条約一四条Bの請求権放棄によって、個人の請求は法律上不可能になった旨の主張が新たに出され、この点も争点になった。

 二 個人の出訴権の有無

 本判決は、個人の出訴権を否定した。その理由として、おおむね次のように述べている。

 国際社会において、個人の利益主張をどのような範囲、手続で認めるかは、国家間の外交交渉によって定められる。戦争被害の賠償については、外交交渉の結果、講和条約の一内容として国家間での合意がされる。そこでは、戦争の勝敗や戦敗国の経済力(支払能力)、戦後世界の復興、そのための資源の確保等あらゆる要素を考慮して交渉が行われる。

そして、その結果としての賠償は、国家間でやりとりされる。個人の被害の救済の在り方についても、外交交渉によって定められ、被害があるからといって出訴権が認められるわけではない。

 

 

 

陸戦ノ法規慣例ニ関スル条約

前期規則の条項に違反したる交戦当事者は損害あるときは之が賠償の責を負ふべきものとす。交戦当事者はその軍隊を組成する人員の一切の行為に付き責任を負ふ。

 

 

サンフランシスコ平和条約

主な内容

戦争状態の終結、日本の主権の回復:日本は個別的および集団的自衛権をもち集団的安全保障条約に参加できること。

領土の規定:日本は朝鮮の独立を承認、台湾・澎湖諸島、南樺太・千島列島を放棄する。琉球諸島と小笠原諸島はアメリカの統治下に置かれた。

賠償:外国為替上の負担を日本にかけない、とされ事実上無賠償となった。

 

 

 

       主   文

 

 1 本件控訴をいずれも棄却する。

 2 控訴費用は控訴人らの負担とする。

 

       事実及び理由

 

第1 当事者の求めた裁判

 1  控訴人ら

  (1) 原判決を取り消す。

  (2) 被控訴人は、控訴人ら各自に対し、二万二〇〇〇米国ドル及びこれに対する平成六年四月八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

 2 被控訴人

  控訴棄却

第2 事案の概要

 1 本件は、控訴人らが、第二次世界大戦中、オランダ領東インドにあった日本軍捕虜収容所又は民問人抑留者収容所において、日本軍の構成員から、一九〇七年の陸戦の法規慣例に関する条約(ヘーグ陸戦条約)に附属する陸戦の法規慣例に関する規則(ヘーグ陸戦規則)及び一九二九年の捕虜の待遇に関する条約(ジュネーブ条約)の双方又は前者に違反する虐待等の被害を受けたとして、被控訴人に対し、へーグ陸戦条約の三条及び同条と同内容の国際慣習法に基づいて、損害の賠償を求めた事案である。

 原判決は、控訴人らの請求を棄却したので、これに対して控訴人らが不服を申し立てたものである。