賃料債権に対する譲渡担保権について,民事再生法31条1項が類推適用され,担保権の実行手続の中止命令がされた事例
担保権実行手続中止決定に対する即時抗告事件
【事件番号】 福岡高等裁判所那覇支部決定/平成21年(ラ)第44号
【判決日付】 平成21年9月7日
【判示事項】 賃料債権に対する譲渡担保権について,民事再生法31条1項が類推適用され,担保権の実行手続の中止命令がされた事例
【判決要旨】 賃料債権に対する譲渡担保権について、民事再生法31条1項が類推適用されるとした上で、その実行手続を中止すれば、再生債務者が資金繰りに窮して破産に移行するのを回避させる見込みがあり(再生債権者の一般の利益に適合)、かつ、一時的に譲渡担保権の実行手続が中止されたとしても、譲渡担保権者が将来にわたって継続的に賃料を収受することができる(担保権者に不当な損害を及ぼすおそれがない)と見込まれるから、その中止命令によって被る損害は、不当なものと認めるに足りない。
【参照条文】 民事再生法31-1
【掲載誌】 判例タイムズ1321号278頁
金融・商事判例1333号55頁
1 事案の概要
(1)当事者等及び譲渡担保権の設定等
Xは,雑貨卸業を営む株式会社であったが,当該事業を提携先に営業譲渡するとともに,自社倉庫を当該提携先に賃貸した。
Y銀行は,Xの取引先銀行であるが,上記賃貸に係る賃料債権について,Xから譲渡担保権の設定を受け,Yに開設したX名義の別段預金口座を賃料振込み口座として指定していた。Yは,当該賃料を,Yを含めた複数の金融機関に対する按分弁済の原資に充てていた。
(2)民事再生の申立て及び本件譲渡担保の実行手続の中止命令の申立て
その後,Xの申立てにより,Xにつき再生手続が開始された。
Xは,そのころ,本件譲渡債権がXの年間売上高の約3割を占めていることなどを主張し,本件譲渡担保の実行手続の中止命令を申し立てた。
民事再生法
(担保権の実行手続の中止命令)
第三十一条 裁判所は、再生手続開始の申立てがあった場合において、再生債権者の一般の利益に適合し、かつ、競売申立人に不当な損害を及ぼすおそれがないものと認めるときは、利害関係人の申立てにより又は職権で、相当の期間を定めて、第五十三条第一項に規定する再生債務者の財産につき存する担保権の実行手続の中止を命ずることができる。ただし、その担保権によって担保される債権が共益債権又は一般優先債権であるときは、この限りでない。
2 裁判所は、前項の規定による中止の命令を発する場合には、競売申立人の意見を聴かなければならない。
3 裁判所は、第一項の規定による中止の命令を変更し、又は取り消すことができる。
4 第一項の規定による中止の命令及び前項の規定による変更の決定に対しては、競売申立人に限り、即時抗告をすることができる。
5 前項の即時抗告は、執行停止の効力を有しない。
6 第四項に規定する裁判及び同項の即時抗告についての裁判があった場合には、その裁判書を当事者に送達しなければならない。この場合においては、第十条第三項本文の規定は、適用しない。