CBC管弦楽団事件
不当労働行為救済申立棄却命令取消請求事件
【事件番号】 最高裁判所第1小法廷判決/昭和49年(行ツ)第112号
【判決日付】 昭和51年5月6日
【判示事項】 民間放送会社の放送管弦楽団員が労働組合法上の労働者と認められた事例
【判決要旨】 民間放送会社とその放送管弦楽団員との間に締結された放送出演契約において、楽団員が、会社以外の放送等に出演することが自由とされ、また、会社からの出演発注に応じなくても当然には契約違反の責任を問われないこととされている場合であつても、会社が必要とするときは随時その一方的に指定するところによつて楽団員に出演を求めることができ、楽団員は原則としてこれに応ずべき義務を負うという基本的関係が存在し、かつ、楽団員の受ける出演報酬が、演奏によつてもたらされる芸術的価値を評価したものというよりは、むしろ演奏自体の対価とみられるものであるなど判示のような事情があるときは、楽団員は、労働組合法の適用を受ける労働者にあたる。
【参照条文】 労働組合法3
労働組合法7
【掲載誌】 最高裁判所民事判例集30巻4号437頁
【出 典】 労働判例252号27頁
被上告人組合は、昭和三九年五月一九日の結成以来、補助参加人会社に対し再三団体交渉を申し入れたが、会社はこれを拒否した。そこで、被上告人組合は、労働委員会に対し右団交拒否等についての救済申立を行なったが、愛知地労委は、「楽団員は企業内の組織に組み入れられておらず、使用者の労働力に対する一般的指揮権に服するものとは認め難い。よって申立人組合の構成員と被申立人会社との間には、出演発注に対し諾否自由の立場において、これを受諾したときに始めて出演義務が発生する、という程度のゆるやかな関係のあることは認められるが、労働者と使用者との間の使用従属関係があるとは認められない。したがって、申立人組合と被申立人会社との間では、被申立人会社は労働組合法七条にいう使用者たりえず、不当労働行為の成立する余地はない。」として、申立を棄却する命令を下した(昭41・2・19)。
このため被上告人組合が右命令の取消を求めたところ、一審(名古屋地判昭46・12・12)、二審(名古屋高判昭49・9・18)ともに、組合の請求を容れて右命令を取消す判断を下した。本件は、労働委員会がそれを不服として争ったものである。
放送会社の楽団員や合唱団員の労働組合に対する放送会社の団交拒否をめぐる事件は数多く争われているが、本件の愛知地労委の命令を除くと、労働委員会、裁判所ともに、楽団員等の「労働者」性を承認し、不当労働行為が成立することを認定している。広島放送局事件(広島地労委昭36・6・30)、広島中央放送局事件(広島地判昭41・8・8)、ラジオ中国事件(広島地判昭42・2・2)等、なお東京12チャンネルタイトルデザイナー事件(東京地判昭43・2・12)参照。いずれの場合も、労働関係の実態からみて、両者の間には使用従属関係が認められ、その報酬は労働の対価=賃金としての性格を有するものであることをその根拠としている。
本判決も、右の傾向を認容し、一審、二審判決の論理及び結論をそのまま肯定した。妥当な結論といえるが、右傾向が最高裁によって認容された意義は大きいといえよう。
ただ、愛知地労委の命令が、組合法七条の次元でのみ議論していると思われるのに対し、他の命令・判決は、組合法三条(「労働者」概念)と七条の問題を区別することなく、むしろ前者の問題に重点をおいて議論しているかのようでもある。
両者は必ずしも直結するものではないから、本判決が先例としてどのような位置を与えられるか、なお不明な点も含まれているようである。
昭和二十四年法律第百七十四号
労働組合法
第一章 総則
(目的)
第一条 この法律は、労働者が使用者との交渉において対等の立場に立つことを促進することにより労働者の地位を向上させること、労働者がその労働条件について交渉するために自ら代表者を選出することその他の団体行動を行うために自主的に労働組合を組織し、団結することを擁護すること並びに使用者と労働者との関係を規制する労働協約を締結するための団体交渉をすること及びその手続を助成することを目的とする。
2 刑法(明治四十年法律第四十五号)第三十五条の規定は、労働組合の団体交渉その他の行為であつて前項に掲げる目的を達成するためにした正当なものについて適用があるものとする。但し、いかなる場合においても、暴力の行使は、労働組合の正当な行為と解釈されてはならない。
(労働組合)
第二条 この法律で「労働組合」とは、労働者が主体となつて自主的に労働条件の維持改善その他経済的地位の向上を図ることを主たる目的として組織する団体又はその連合団体をいう。但し、左の各号の一に該当するものは、この限りでない。
一 役員、雇入解雇昇進又は異動に関して直接の権限を持つ監督的地位にある労働者、使用者の労働関係についての計画と方針とに関する機密の事項に接し、そのためにその職務上の義務と責任とが当該労働組合の組合員としての誠意と責任とに直接にてヽいヽ触する監督的地位にある労働者その他使用者の利益を代表する者の参加を許すもの
二 団体の運営のための経費の支出につき使用者の経理上の援助を受けるもの。但し、労働者が労働時間中に時間又は賃金を失うことなく使用者と協議し、又は交渉することを使用者が許すことを妨げるものではなく、且つ、厚生資金又は経済上の不幸若しくは災厄を防止し、若しくは救済するための支出に実際に用いられる福利その他の基金に対する使用者の寄附及び最小限の広さの事務所の供与を除くものとする。
三 共済事業その他福利事業のみを目的とするもの
四 主として政治運動又は社会運動を目的とするもの
(労働者)
第三条 この法律で「労働者」とは、職業の種類を問わず、賃金、給料その他これに準ずる収入によつて生活する者をいう。
第二章 労働組合
(不当労働行為)
第七条 使用者は、次の各号に掲げる行為をしてはならない。
一 労働者が労働組合の組合員であること、労働組合に加入し、若しくはこれを結成しようとしたこと若しくは労働組合の正当な行為をしたことの故をもつて、その労働者を解雇し、その他これに対して不利益な取扱いをすること又は労働者が労働組合に加入せず、若しくは労働組合から脱退することを雇用条件とすること。ただし、労働組合が特定の工場事業場に雇用される労働者の過半数を代表する場合において、その労働者がその労働組合の組合員であることを雇用条件とする労働協約を締結することを妨げるものではない。
二 使用者が雇用する労働者の代表者と団体交渉をすることを正当な理由がなくて拒むこと。
三 労働者が労働組合を結成し、若しくは運営することを支配し、若しくはこれに介入すること、又は労働組合の運営のための経費の支払につき経理上の援助を与えること。ただし、労働者が労働時間中に時間又は賃金を失うことなく使用者と協議し、又は交渉することを使用者が許すことを妨げるものではなく、かつ、厚生資金又は経済上の不幸若しくは災厄を防止し、若しくは救済するための支出に実際に用いられる福利その他の基金に対する使用者の寄附及び最小限の広さの事務所の供与を除くものとする。
四 労働者が労働委員会に対し使用者がこの条の規定に違反した旨の申立てをしたこと若しくは中央労働委員会に対し第二十七条の十二第一項の規定による命令に対する再審査の申立てをしたこと又は労働委員会がこれらの申立てに係る調査若しくは審問をし、若しくは当事者に和解を勧め、若しくは労働関係調整法(昭和二十一年法律第二十五号)による労働争議の調整をする場合に労働者が証拠を提示し、若しくは発言をしたことを理由として、その労働者を解雇し、その他これに対して不利益な取扱いをすること。