ドライブクラブと自動車損害賠償保障法第3条の適用
損害賠償請求事件
【事件番号】 最高裁判所第2小法廷判決/昭和38年(オ)第365号
【判決日付】 昭和39年12月4日
【判示事項】 ドライブクラブと自動車損害賠償保障法第3条の適用
【判決要旨】 いわゆるドライブクラブ方式による自動車賃貸業者は、借受人が当該自動車を運転使用中にひき起こした事故について、自動車損害賠償保障法第3条にいわゆる自己のために自動車を運行の用に供する者にあたらない。
【参照条文】 自動車損害賠償保障法3
【掲載誌】 最高裁判所民事判例集18巻10号2043頁
昭和三十年法律第九十七号
自動車損害賠償保障法
第一章 総則
(この法律の目的)
第一条 この法律は、自動車の運行によつて人の生命又は身体が害された場合における損害賠償を保障する制度を確立することにより、被害者の保護を図り、あわせて自動車運送の健全な発達に資することを目的とする。
(定義)
第二条 この法律で「自動車」とは、道路運送車両法(昭和二十六年法律第百八十五号)第二条第二項に規定する自動車(農耕作業の用に供することを目的として製作した小型特殊自動車を除く。)及び同条第三項に規定する原動機付自転車をいう。
2 この法律で「運行」とは、人又は物を運送するとしないとにかかわらず、自動車を当該装置の用い方に従い用いることをいう。
3 この法律で「保有者」とは、自動車の所有者その他自動車を使用する権利を有する者で、自己のために自動車を運行の用に供するものをいう。
4 この法律で「運転者」とは、他人のために自動車の運転又は運転の補助に従事する者をいう。
第二章 自動車損害賠償責任
(自動車損害賠償責任)
第三条 自己のために自動車を運行の用に供する者は、その運行によつて他人の生命又は身体を害したときは、これによつて生じた損害を賠償する責に任ずる。ただし、自己及び運転者が自動車の運行に関し注意を怠らなかつたこと、被害者又は運転者以外の第三者に故意又は過失があつたこと並びに自動車に構造上の欠陥又は機能の障害がなかつたことを証明したときは、この限りでない。
(民法の適用)
第四条 自己のために自動車を運行の用に供する者の損害賠償の責任については、前条の規定によるほか、民法(明治二十九年法律第八十九号)の規定による。
【出 典】 判例タイムズ169号219頁
一部加筆。
訴外甲(一審被告)は、いわゆるドライブクラブ方式による自動車賃貸業者から自動車を借り受け運転使用中に、上告人(原告)ら先代に本自動車を衝突させて、同人を死亡させた。
そこで、上告人らから、甲および、上告人らの主張によれば、右ドライブクラブを営む被上告人(被告)を相手に、自動車損害賠償保障法3条の規定に基づく損害賠償を請求した。
ドライブクラブから自動車を借り受けた者がこれを運転使用中にひき起した事故について、右ドライブクラブが同法3条にいわゆる「自己のために自動車を運行の用に供した者」にあたるかどうかは、説の分れるとこところであり、多数説によれば、「自己のために自動車を運行する者」とは、通常自動車の所有者または使用者などのように、自動車の使用について支配権を有し、かつその使用によつて利益を受ける者を指称し、自動車の賃借人(たとえば自動車貸渡業者(本件では、ドライブクラブ)から自動車を借りた者。本件では甲。)、自動車を預かる倉庫業者、委託販売業者、自動車整備業者、いわゆる陸送屋等をこれに含めており、自動車賃借人の賃借自動車運行中の事故については、所有者ではなくて賃借人・甲がこれにあたり、賃借人・甲が専ら同法の定める民事責任の主体となるものと解するようであり、同法の立案当局もそのように解していたことが窺われる(運輸省自動車局編、自動車損害賠償保障法の解説29頁、自動車保障研究会、自動車損害賠償保障法の解説25頁、宗宮・日本法学27巻2号28頁、海老名・綜合法学32号30頁、加藤・不法行為(法律学全集)45頁)。
自動車賃貸人にも同法3条に基づく損害賠償責任を負わせるべきであるとする説として、坂本・法律論叢36巻1号127頁がある。
なお、前掲多数説は、「自己のために自動車を運行の用に供する者」は、原則として1人に限られ、同時に複数たり得ないと解している。
本件一審判決は、自動車賃借人・甲も、賃貸人・ドライブクラブも共にこれにあたるとしたが、原判決は、被上告人・ドライブクラブが自らドライブクラブを経営していて直接その所有自動車を甲に賃貸したのか、あるいは、被上告人・ドライブクラブが、ドライブクラブ経営者訴外乙に自動車を貸与し、さらに乙から賃借人・甲に右自動車を賃貸したのかは争があるにしても、ドライブクラブから借受人・甲使用中の自動車による事故については、「自己のために自動車を運行の用に供する者」は右借受人・甲のみであつて、被上告人ドライブクラブはこれにあたらないとして、上告人の請求を棄却した、
本件上告判決も、賃貸人たるドライブクラブは借受人の自動車運行に関しなんら支配力を及ぼし得ないという点から、いずれにしても被上告人・ドライブクラブに、同法3条に基づく責任を負わせることはできないとして、原判決の結論を是認したものである。