刑法7条にいう「法令ニ依リ公務ニ従事スル職員」の意義 収賄被告事件最高裁判所 | 法律大好きのブログ(弁護士村田英幸)

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刑法7条にいう「法令ニ依リ公務ニ従事スル職員」の意義

 

              収賄被告事件

【事件番号】      最高裁判所第2小法廷決定/昭和28年(あ)第4191号

【判決日付】      昭和30年12月3日

【判示事項】      刑法7条にいう「法令ニ依リ公務ニ従事スル職員」の意義

【掲載誌】        最高裁判所刑事判例集9巻13号2596頁

             判例タイムズ56号60頁

【評釈論文】      警察研究33巻7号122頁

 

 

刑法

(定義)

第七条 この法律において「公務員」とは、国又は地方公共団体の職員その他法令により公務に従事する議員、委員その他の職員をいう。

2 この法律において「公務所」とは、官公庁その他公務員が職務を行う所をいう。

 

 

       主   文

 

 本件上告を棄却する。

 

       理   由

 

 弁護人杉村逸楼の上告趣意について。

 所論は単なる法令違反の主張であつて、刑訴四〇五条の上告理由にあたらない。のみならず、被告人が公務員の身分をもつものと解した原判断にあやまりはないのである。すなわち、本件当時における特別調達庁は、特別調達庁法(昭和二二年法律七八号)にもとづいて設立された法人で、内閣総理大臣の監督の下に、経済安定本部総務長官の定める基本的方策に基き主務大臣の定める計画・指示に従い、連合国又は政府の需要する建造物・設備の営繕ならびに物資・役務の調達に関する業務で主務大臣の指定するものを行うことを目的とするものであつた(同法一条)。同法一四条は、同庁の「役員」「職員」を官吏その他の政府職員とし、「役員」のうち「総裁」は各省次官と同級又は同格、その他の「役員」は一級又はこれと同格とし、「職員」は一級・二級・三級又はこれらと同格としている。そして、同法一六条は、同庁は業務開始にあたり業務の方法を定めて経済安定本部総務長官の認可を受けるべきこと、その変更についても同様認可を要することを定めているのであるが、右規定にもとづいて制定された特別調達庁職制三〇条(昭和二三年七月一日の改正で三二条となる)は、「本庁に職員の外に雇員及び傭人を置く。」と定めている。被告人は、この規定にもとづいて任用された同庁福岡支局の雇員なのであるから、特別調達庁法一四条にいう「役員」「職員」にあたらないことはあきらかである。

 しかし、右にいう「職員」の身分をもたないからといつて、刑法七条にいう「法令により公務に従事する職員」でありえないのではない。「法令により公務に従事する職員」とは、公務に従事する職員で、その公務に従事することが法令の根拠にもとづくものを意味し、単純な機械的・肉体的労務に従事するものはこれに含まれないけれども、当該職制等のうえで「職員」と呼ばれている身分をもつかどうかは、あえて問うところでないからである。そして、当時の特別調達庁は、国の行政機関そのものではないが、前掲のような目的・機構にてらし国の行政機関に準ずるものと認められ(同庁の会計は会計検査院の検査に服する。同法一九条)、その事務は右にいう「公務」にあたるものと解すべきである。第一審の認定するところによると、被告人は同庁福岡支局契約部工事課員として、占領軍関係工事につき工事請負業者に工事代金の支払をするについて契約禀議書面の起案(出議)及び支払請求書の内訳書の作成処理等の事務を担当していたのであるから、「公務に従事する職員」であることがあきらかであり、その任用は前掲のように法令の根拠にもとづくのであるから、被告人は刑法七条にいう公務員にあたるものといわなければならない。

 その他本件につき刑訴四一一条を適用すべき事由は認められない。

 よつて同四一四条、三八六条一項三号により裁判官全員一致の意見で主文のとおり決定する。

  昭和三〇年一二月三日

     最高裁判所第二小法廷