改正高年法の趣旨からすると,定年以前の業務内容と異なった業務内容を示すことが許されることはいうま | 法律大好きのブログ(弁護士村田英幸)

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改正高年法の趣旨からすると,定年以前の業務内容と異なった業務内容を示すことが許されることはいうまでもないが,両者がまったく別個の職種に属するなど性質の異なったものである場合には,もはや継続雇用の実質を欠いており,むしろ通常解雇と新規採用の複合行為というほかないから,従前の職種全般について適格性を欠くなど通常解雇を相当とする事情がない限り,そのような業務内容を提示することは許されないとされた例

 

名古屋高等裁判所判決/平成28年(ネ)第149号

平成28年9月28日

賃金等,損害賠償請求控訴事件

トヨタ自動車事件

【判示事項】    1 控訴人(1審甲事件原告兼乙事件原告)Xの被控訴人(1審甲事件被告)Y1社に対するスキルドパートナーとしての雇用契約上の地位確認および賃金等の支払請求ならびにその代表取締役である被控訴人(1審乙事件被告)Y2に対する慰謝料等の支払請求を棄却した1審の判断を維持した一方,Y1社に対する慰謝料等の支払請求につき1審の判断を変更しXの請求を一部認容した例

2 改正前高年法9条2項で定めていた継続雇用対象者を労使協定で限定できる仕組みが廃止されている範囲では,従業員全員に継続雇用の機会を適正に与えるべきであって,定年後の継続雇用としてどのような労働条件を提示するかについては一定の裁量があるとしても,提示した労働条件が,無年金・無収入の期間の発生を防ぐという趣旨に照らして到底容認できないような低額の給与水準であったり,社会通念に照らし当該労働者にとって到底受け入れがたいような職務内容を提示するなど実質的に継続雇用の機会を与えたとは認められない場合には,当該事業者の対応は改正高年法の趣旨に明らかに反するものであるといわざるを得ないとされた例

3 改正高年法の定める継続雇用制度を採用するに当たり,再雇用との文言を用いていても,その運用の適否を検討するに当たっては,改正高年法の趣旨に従い,あくまで継続雇用の実質を有しているか否かという観点から考察すべきものであるとされた例

4 Y1社がXに対して提示した再雇用後の給与水準は,老齢厚生年金の報酬比例部分の約85%が得られるものであり,無年金・無収入の期間を防ぐという改正高年法の趣旨に照らして到底容認できないような低額の給与水準であるということはできないとされた例

5 改正高年法の趣旨からすると,定年以前の業務内容と異なった業務内容を示すことが許されることはいうまでもないが,両者がまったく別個の職種に属するなど性質の異なったものである場合には,もはや継続雇用の実質を欠いており,むしろ通常解雇と新規採用の複合行為というほかないから,従前の職種全般について適格性を欠くなど通常解雇を相当とする事情がない限り,そのような業務内容を提示することは許されないとされた例

6 Y1社がXに提示した業務内容は,社会通念に照らし労働者にとって到底受け入れがたいようなものであり,実質的に継続雇用の機会を与えたとは認められないのであって,改正高年法の趣旨に明らかに反する違法なものであり,そのような対応は雇用契約上の債務不履行に当たるとともに不法行為とも評価できるとして,Xがパートタイマーとして1年間再雇用されていた場合の賃金等の給付見込額と同額の損害賠償金が慰謝料として認められた例

【参照条文】    高年齢者等の雇用の安定等に関する法律(平成24年法律第78号による改正前のもの)9-1

          高年齢者等の雇用の安定等に関する法律(平成24年法律第78号による改正前のもの)9-2

          高年齢者等の雇用の安定等に関する法律平成24年法律第78号の改正附則(経過措置)

【掲載誌】     判例時報2342号100頁

          労働判例1146号22頁