西武鉄道有価証券報告書虚偽記載事件
東京高等裁判所判決/平成21年(ネ)第1092号
平成22年3月24日
損害賠償請求控訴事件
【判示事項】 1 乙株式会社は、甲株式会社の株式を他人名義で多数保有し、実際には甲社の親会社であったが、甲社は、その有価証券報告書等に乙の有する甲株式の数を過少に記載する虚偽記載をしてきたところ、かかる虚偽記載の事実が公表された後、証券取引所により甲株式の上場が廃止されたことから、上記虚偽記載の公表前に証券取引所における取引により甲株式を取得し、同公表を契機としてこれを処分した機関投資家等である被控訴人(第一審原告)らが、甲株式の株価下落により損害を被ったとして、甲社、乙社を吸収合併した丙株式会社ならびに甲社および乙社の代表取締役であった丁に対し、不法行為等に基づく損害賠償を求めた訴訟の控訴審において、控訴人(第一審被告)らによる不法行為によって被控訴人(第一審原告)らに損害が生じたことが認められるが、その性質上その額の立証が極めて困難であるとして民事訴訟法248条の規定を適用し、原判決を変更して請求の一部を認容した事例〔①事件〕
2 前記虚偽記載による不法行為等に基づく損害賠償を求めた訴訟の控訴審において、当該虚偽記載に係る瑕疵の評価額は、その公表前の終値のうち当該終値とその翌日から最終取引日までの終値の平均価額との差額分の下落額が占める比率(下落率)であり、共済事業を営む被控訴人(第一審原告)に生じた損害の額は、その取得価額に上記比率(下落率)を乗じた額であるとして原判決を変更して請求の一部を認容した事例
【判決要旨】 1 甲社の有価証券報告書等の虚偽記載について、甲社、丙社および丁は、不法行為責任を負う。
2 甲株式は、被控訴人から信託を受けた信託銀行がこれを取得した時点で上場廃止の要件に該当する意味において瑕疵を有する状態にあった。
3 上記瑕疵の存した甲株式の本来の価値は、当該瑕疵が公表された場合に市場で形成される価格(想定価格)であり、株主は、その取得価格から想定価格を減じた差額相当分の損害を被った。
4 甲株式の価格は、前記瑕疵の公表による顕在化により、当該公表前の終値とその翌日から最終取引日までの終値の平均価額との差額分の下落が生じた。
5 甲株式の価格中の前記瑕疵の評価額は、一定額ではなくある時点の株価の一定割合を占めるものであるところ、それは、前記下落額の当該公表前の終値に占める比率(下落率)に当たるから、株主の被った損害額は、前記瑕疵の顕在化によりその取得価格に下落率を乗じた額である。
【参照条文】 民法709
民法719-1前段
旧商法(平成17年法律第87号による改正前のもの)261-3
旧商法(平成17年法律第87号による改正前のもの)78-2
民法(平成18年法律第50号による改正前のもの)44-1
平成16年法律第97号による改正前の証券取引法24の4
平成16年法律第97号による改正前の証券取引法24の5
平成16年法律第97号による改正前の証券取引法22-1
平成16年法律第97号による改正前の証券取引法21-1
【掲載誌】 金融・商事判例1343号44頁
判例時報2087号134頁