労働者の髪の色・型、容姿、服装などといった人の人格や自由に関する事柄について、企業が、企業秩序の維持を名目に労働者の自由を制限しようとする場合、その制限行為は企業の円滑な運営上必要かつ合理的な範囲内にとどまるべきものであるとされ、具体的な制限行為の内容は、制限の必要性、合理性、手段方法としての相当性を欠くことのないよう特段の配慮が要請されるとされた例
福岡地方裁判所小倉支部決定/平成9年(ヨ)第285号
平成9年12月25日
地位保全仮処分申立事件
【判示事項】 1 一般に、企業は、企業内秩序を維持・確保するため、労働者に必要な規制、指示、命令等を行うことが許されるが、そのことは、労働者が企業の一般的支配に服することを意味するものではなく、企業に与えられた秩序維持の権限は、おのずとその本質に伴う限界があるとされた例
2 労働者の髪の色・型、容姿、服装などといった人の人格や自由に関する事柄について、企業が、企業秩序の維持を名目に労働者の自由を制限しようとする場合、その制限行為は企業の円滑な運営上必要かつ合理的な範囲内にとどまるべきものであるとされ、具体的な制限行為の内容は、制限の必要性、合理性、手段方法としての相当性を欠くことのないよう特段の配慮が要請されるとされた例
【掲載誌】 労働判例732号53頁
労働経済判例速報1672号3頁
【解説】
本件は、一般貨物運送等を業とする債務者会社においてトラック運転手として業務に従事していた債権者が、髪の毛を短髪にして黄色く染めて勤務したことに対して、債務者会社Y課長が取引先から好ましくないとの連絡があったことを理由としつつ髪の色を元に戻すようにとの指示を行い、これに関して債権者は髪の色で干渉するのはおかしい、自然に元に戻すからいいではないかなどと反論し、債務者会社がさらに髪の色を元に戻すように求める等の応酬があり、債権者に対して始末書の提出を求めた。債権者は自分で白髪染めを使って染め直したものの理髪店に行って黒く染め直してくるようにとの債務者会社の指示には従わず、始末書も提出しないと述べたため、債務者会社が平成9年7月16日、債権者を諭旨解雇とする通告をしたことにつき、債権者がその無効を主張して争われたものである。
本決定は、企業秩序維持・確保のため企業が労働者に必要な規制、指示、命令等を行うことが許されるが、おのずとその本質に伴う限界があり、特に、労働者の髪の色・型、容姿、服装などといった人の人格や自由に関する事柄について、企業秩序の維持を名目に労働者の自由を制限しようとする場合には、具体的な制限行為の内容は、制限の必要性、合理性、手段方法としての相当性を欠くことのないよう特段の配慮が要請されると解されるとし、本件事案に関しては、Y課長の指示について、取引先から好ましくないとの連絡がなく作りごととしてなされたこと等から、対外的な影響よりも社内秩序維持を念頭に発言されたと推測されること、及び債務者会社側の態度は、労働者の人格や自由への制限措置について、その合理性、相当性に関する検討を加えた上でなされたものとは認め難く、債権者から始末書をとることに眼目があったと推認されること等から、債権者が頭髪を黄色に染めたこと自体が債務者会社の就業規則上直ちにけん責事由に該当するわけではなく、上司の説得に対する債権者の反抗的態度も、必ずしも債権者にのみ責められる点があったということはできず、始末書の不提出も、「社内秩序を乱した」行為に該当すると即断することができないとして、本件解雇の意思表示は解雇権の濫用として無効であると判断した。