茨城県の工場採用の労働者らに対し、転勤命令(広島県福山市)へ、転勤義務がないにもかかわらずあるか | 法律大好きのブログ(弁護士村田英幸)

法律大好きのブログ(弁護士村田英幸)

役に立つ裁判例の紹介、法律の本の書評です。弁護士経験32年。第二東京弁護士会所属21770

茨城県の工場採用の労働者らに対し、転勤命令(広島県福山市)へ、転勤義務がないにもかかわらずあるかのように誤信させて退職届を提出させたり、定年まで勤務する意思のある労働者らを、虚偽、強圧的な言動や執拗な退職強要・いやがらせによって退職のやむなきに至らしめた会社の行為が、会社側に債務不履行ないし不法行為に基づく損害賠償責任が認められた例

 

水戸地方裁判所下妻支部判決/平成9年(ワ)第108号

平成11年6月15日

損害賠償等請求事件

【判示事項】    1 転勤義務がないにもかかわらずあるかのように誤信させて退職届を提出させたり、定年まで勤務する意思のある労働者らを、虚偽、強圧的な言動や執拗な退職強要・いやがらせによって退職のやむなきに至らしめた会社の行為が、労働者がその意に反して退職することがないように職場環境を整備する義務や、違法・不当な目的・態様での人事権の行使を行わない労働契約上の義務に反するものとされた例

2 右配慮義務違反の結果として、労働者らが有する意に反して退職させられない権利を侵害したとして、会社側に債務不履行ないし不法行為に基づく損害賠償責任が認められた例

3 慰謝料に加え、会社側の右言動・策動がなければ労働者らは勤務を継続し得たとして、会社に六か月分の賃金の損害賠償責任が認められた例

4 右退職は会社都合退職に当たるとして、会社に、労働者に対し自己都合退職の退職金額との差額を支払うべき義務が認められた例

【掲載誌】     労働判例763号7頁

          労働経済判例速報1702号19頁

【評釈論文】    ジュリスト1189号120頁

          法曹時報72巻7号79頁

          労働法律旬報1464号24頁

【解説】

(1) 本件は、食品容器の製造販売を業とする会社が、現地工場(茨城県所在の関東工場)採用の労働者らに対し、転勤義務が存在しないにもかかわらず転勤命令(広島県福山市の本社工場への転勤)に応ずる義務があるかのように誤信せしめ、義務なき退職届を提出する立場に追い込み、また、退職届提出を拒否した労働者らに、会社が雇用を継続する意思がないことをさまざまに示してその人格や名誉を傷つけ、分社に際し採用される可能性がないと思い込ませて退職に追い込んだという行為が、債務不履行ないし不法行為に当たるか否かが争われた事件である。