マクドナルド店長「名ばかり管理職」事件 | 法律大好きのブログ(弁護士村田英幸)

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東京地方裁判所判決/平成17年(ワ)第26903号

平成20年1月28日

賃金等請求事件

マクドナルド店長「名ばかり管理職」事件

【判示事項】    ハンバーガーの販売等を業とし,多数の直営店を展開している株式会社の店長である原告が管理監督者に該当するか否かが争われた事例

【参照条文】    労働基準法36

          労働基準法41

          労働基準法37

          労働基準法114

          民法709

【掲載誌】     判例タイムズ1262号221頁

          判例時報1998号149頁

          労働判例953号10頁

          労働経済判例速報1997号3頁

【解説】

 被告は,ハンバーガーの販売等を業とし,多数の直営店を展開している株式会社である。原告は,その従業員であり,直営店の店長を務めている者である。被告の営業ラインは,①マネージャートレーニー,②セカンドアシスタントマネージャー,③ファーストアシスタントマネージャー,④店長,⑤オペレーションコンサルタント,⑥オペレーションマネージャー,⑦営業部長,⑧営業推進本部長からなり,店長以下の従業員が直営店での飲食物の製造,販売等の業務に従事しているが,被告の就業規則では,店長以上の職位の従業員を労働基準法41条2号の管理監督者として扱っているため,店長に対しては,法定労働時間を超える労働時間についても割増賃金は支払われていない。本件は,原告が,被告に対し,過去2年分の割増賃金の支払を求めるなどした事案であり,主たる争点は,店長である原告が管理監督者に該当するか否かである。

 管理監督者の範囲に関し,行政解釈は,「管理監督者とは,1般的には,部長,工場長等労働条件の決定その他労務管理について経営者と1体的な立場にある者の意であり,名称にとらわれず,実態に即して判断すベきである」とし,具体的には,労働時間等の規制を超えて活動することが要請されざるを得ない,重要な職務と責任を有し,現実の勤務態様も,労働時間等の規制になじまないような立場にある者に限られるとの基準を示している(昭和63.3.14基発150号)。

 また,公刊物に掲載された裁判例では,従業員の管理監督者性を肯定したものに,東京地判平9.1.28労判725号89頁〔印字制作会社の経営企画室のマネジメント・ディシジョン・サポート・スタッフ等の事例〕,東京地判昭63.4.27労判517号18頁〔会員制クラブの運営会社の総務局次長の事例〕,大阪地判昭62.3.31労判497号65頁〔医療法人の人事第2課長の事例〕があり,これを否定したものには,東京地判平18.8.7労判924号50頁〔飲食店の店舗マネージャーの事例〕,東京高判平17.3.30労判905号72頁〔個人経営の音楽院の事業部長等の事例〕,大阪地判平13.3.26労判810号41頁〔カラオケ店の店長の事例〕,大阪高判平12.6.30労判792号103頁〔株式会社の係長等の事例〕,大阪地判昭61.7.30労判481号51頁〔ファミリーレストランの店長の事例〕等がある。

 これらの裁判例では,管理監督者性の具体的な判断基準が確立されているとまではいえないものの,概ね,当該従業員の職務内容,権限,責任の重要性や,事業経営方針への関与の程度,労務管理への関与の程度,労働時間に関する裁量の有無,管理監督者に見合う待遇がされているか否かなどを判断要素とし,管理監督者として認定するためには,職務の内容,権限,責任の程度について,企業全体からみて相当重要なものであることを要するとの考え方に立って判断しているものと思われる。

 他方,本件において,被告は,管理監督者とは,基本的には,使用者のために他の労働者を指揮監督する者又は他の労働者の労務管理を職務とする者をいうと主張しているが,当該従業員の労務管理等の権限について,経営者との1体的な立場までは必要としていない点で,上記の行政解釈や裁判例よりも管理監督者の範囲を広く捉えるものであるといえる。

 本判決は,労働基準法に規定する労働時間等の労働条件は,最低基準を定めたものであるから,この規制の枠を超えて労働させる場合に同法所定の割増賃金を支払うべきことは,すべての労働者に共通する基本原則であり,管理監督者は,企業経営上の必要から,経営者との1体的な立場において,同法所定の労働時間等の枠を超えて事業活動することを要請されてもやむを得ないものといえるような重要な職務と権限を付与され,また,賃金等の待遇やその勤務態様において,他の1般労働者に比べて優遇措置が取られている者をいうと示し,そのうえで,被告における店長は,店舗のアルバイト従業員の採用やその育成,従業員の勤務シフトの決定等の権限を有し,店舗運営については重要な職責を負っているといえるものの,その権限は店舗内の事項に限られ,企業経営上の必要から,経営者との1体的な立場において,労働基準法の労働時間等の枠を超えて事業活動することを要請されてもやむを得ないものといえるような重要な職務と権限を付与されているとは認められず,その賃金も管理監督者に対する待遇として十分とはいえないとして,管理監督者に該当しないと判断した。

 本判決は,被告の企業規模が大きく,その直営店は2700店を超え,店長は1700人余りに及ぶという点に特徴がある事案であるが,管理監督者性に関する判断自体は,従来の多数の裁判例の考え方と異なるものではなく,これに1事例を加えるものであるといえよう。