労働組合法7条の「使用者」該当性(消極) | 法律大好きのブログ(弁護士村田英幸)

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東京地方裁判所判決/平成26年(行ウ)第489号

平成28年6月13日

不当労働行為再審査申立棄却命令取消請求事件

【判示事項】    労働組合法7条の「使用者」該当性(消極)

          ―国の機関から道路境界明示に関する業務を受託していた事業者に雇用され,同機関から直接の指揮命令を受けて受託業務に従事していた労働者が,受託終了に伴って当該事業者から雇止めされた事案において,当該労働者の雇用の継続等についての団体交渉に関し,国は労働組合法7条の「使用者」に当たらないとして,団交義務を否定した事例―

【参照条文】    労働組合法7

          労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律(平24法27号改正前)40の4

【掲載誌】     判例タイムズ1433号197頁

【解説】

 1 事案の概要

 国土交通省近畿地方整備局奈良国道事務所(以下「奈良国道事務所」という。)から道路境界明示に関する業務(以下「本件受託業務」という。)を受託していた事業者(以下「本件受託事業者」という。)に雇用され,奈良国道事務所において本件受託業務に従事していた労働者(以下「本件組合員」という。)が,受託終了に伴って雇止めされた。原告らは,本件組合員が所属する労働組合であるところ,近畿地方整備局に対して本件組合員の雇用の継続等について団体交渉の申入れを行ったが,同組合員との直接の雇用関係がないことを理由に同申入れが拒否された。そこで原告らは,被申立人を国(国土交通省)とし,大阪府労働委員会に対し,労働組合法(以下「労組法」という。)7条2号に該当することを理由に不当労働行為救済申立てを行ったが,同申立てを却下する決定がされ,中央労働委員会(以下「中労委」という。)に対する再審査申立てについても棄却する旨の命令(以下「本件命令」という。)がされたため,原告らが,本件命令の取消しを求めて提訴したのが本件である。

 2 前提事実及び争点

 本件受託事業者は,奈良国道事務所から本件受託業務を受託するに当たり,建設コンサルタントである事業者と社員出向契約を締結し,それに伴って同事業者の社員であった本件組合員と雇用契約を締結した上で,本件組合員を奈良国道事務所において本件受託業務に従事させていた。そうしたところ,大阪労働局長は,本件受託事業者に対し,建設コンサルタント等との間で出向契約を締結して行われている業務の実態が労働者供給事業に該当するとして,職業安定法44条に違反する旨指導した。また,同じ頃,大阪労働局長は,本件受託事業者に業務を委託していた近畿地方整備局の下部組織である大阪国道事務所及び近畿技術事務所に対しても,本件受託事業者に委託している業務の実施について,「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準を定める告示」(昭和61年労働省告示第37号)の要件を満たしていないため,労働者派遣事業に該当し,労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律(平成24年法27号改正前のもの。以下「労働者派遣法」という。)24条の2に違反するとして,是正指導をした。

 本件受託事業者は,大阪労働局長からの上記指導を受けて社員出向契約を解消する一方で,本件組合員が建設コンサルタントである事業者を退職し本件受託事業者と雇用契約を締結する形で,本件組合委員を従前通り本件受託業務に従事させることとした。かかる雇用形態の下,本件受託事業者は,本件組合員を2年間本件受託業務に従事させていたが,奈良国道事務所から業務の受託ができない見通しとなったことに伴い,本件組合員の契約更新を行わなかった(以下「本件雇止め」という。)。

 原告らは,本件雇止め後,近畿地方整備局に対し,同局が本件組合員に対し,長年にわたり「偽装請負」状態で働かせてきたことなどを指摘した上で,本件組合員の雇用継続又は雇用の安定をはかることを要求事項とする団体交渉の開催を3回にわたって申し入れたが,同局は,本件組合員との間に直接の雇用関係がないことを理由にいずれの申入れも拒否した。

 本件の争点は,国(国土交通省)が本件組合員について,労組法7条の「使用者」に当たり,団体交渉応諾義務を負うか否かである。

 3 本判決の判断

 (1) 本判決は,労組法7条の「使用者」の意義について,一般に労働契約上の雇用主をいうものであるが,雇用主以外の事業主であっても,雇用主から労働者の派遣を受けて自己の業務に従事させ,その労働者の基本的な労働条件等について,雇用主と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的に支配,決定することができる地位にある場合には,その限りにおいて,その事業主は同条の使用者にあたるものと解するのが相当であるとした。また,団体的労使関係が,労働契約関係又はそれに近似ないし隣接した関係を基盤として,労働者の労働契約上の諸利益についての交渉を行うものであることから,上記のほかに,近い将来において労働契約関係が成立する現実的かつ具体的な可能性が存する者も同条の使用者に該当するとした。

 (2) そして,本判決は,本件で原告らが国(国土交通省)に対して求めた団体交渉事項は,本件組合員の雇用継続又は雇用の安定を図るというものであり,国(国土交通省)が本件組合員を直接雇用し又は本件受託事業者に対し本件組合員の雇用継続を斡旋することを内容とするもので,まさに雇用そのものを問題とするものであるとした上で,このような事項との関係で国(国土交通省)が雇用主と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的に支配していたといえるためには,本件組合員を採用し,雇用を継続するか否かを中心とする雇用そのものについて,雇用主と同視できるような関係があったことが必要であると判断した。

 その上で,①本件受託事業者が出向契約の解消に伴って本件組合員を雇用することにした際に,その採用に国(国土交通省)が関与した事実は何ら認められないこと,②本件受託事業者が本件組合員との雇用契約を締結する際,更新条件として本件組合員が従事する業務が継続して受託されることが必要であるなどとされているが,このような雇用条件の策定に国(国土交通省)が関与した事実は何ら認められないこと,③本件組合員の就業上の身分や給与等の基本的な勤務条件についても本件受託事業者の判断でされたこと,④本件雇止めは,国(国土交通省)が本件受託事業者に委託しなかったことがその契機とはなっていても,本件雇止め自体は本件受託事業者の判断でされ,国(国道交通省)がその意思決定に関与した事実は認められないことなどを挙げ,本件組合員の採用及び雇用の終了を中心とする雇用そのものについて,現実的かつ具体的に支配していたのは雇用主である本件受託事業者であり,国(国土交通省)がこのような現実的かつ具体的な支配力を有していたと認めることはできないとした。

 (3) 他方,近い将来において労働契約関係が成立する現実的かつ具体的な可能性が存するか否かについては,本件が偽装請負に当たり,適法な派遣契約が締結されていたとすれば直接雇用申込義務が発生していた旨の原告らの主張に対し,仮にかかる義務が発生していたとすれば,その効果によっては,近い将来に労働契約が締結される可能性があったともいい得るとした上で,次のように判断した。まず,本件組合員の奈良国道事務所における就労については,業務委託(請負)の形式をとってはいたものの,本件組合員が奈良国道事務所の職員から具体的な指揮・命令を受けて業務に従事しており,労働者派遣の実態にある,いわゆる偽装請負の状態にあったとした。その上で,本件組合員についてかかる労働者派遣の実態にあった期間は4年間に及び,労働者派遣法上の派遣可能期間を超過しているが,一方で,原告らが主張する直接雇用申込義務は,労働者派遣法上の派遣元が,派遣先から労働者派遣法26条5項に基づき,労働者派遣法40条の2第1項に抵触する期間の起算点となる日(以下「抵触日」という。)の通知を受けたことを前提に,その後派遣元が派遣先に対して抵触日以降継続して労働者派遣を行わない旨の通知(以下「派遣停止通知」という。労働者派遣法35条の2第2項)を行うことを要件として生ずるものであるから,派遣停止通知がされていない本件において,労働者派遣法の定める手続的要件を無視して同じ義務を発生させることはできないとした。さらに,労働者派遣法上の直接雇用申込義務の法的効果についても,同義務は,あくまでも国の雇用政策として,派遣先に行政上の義務として課されているものであり,その効果としては行政指導上の措置等が予定されているのみであるから,私法上の雇用請求権や雇用義務といった効果を付与したものではないとし,これらを総合すれば,直接雇用申込義務の発生を根拠に,近い将来雇用契約が締結される現実的かつ具体的な可能性があるとして国(国土交通省)が労組法上の使用者に当たるとすることはできないとした。