最高裁判所第2小法廷判決/平成元年(オ)第6号
【判決日付】 平成5年9月10日
損害賠償請求上告事件
【判示事項】 所有者を装った訴外Aらと本件土地の売買契約を結び、代金を騙取されたX(原告・控訴人・被上告人)は、登記官は申請書を受領したときは遅滞なく申請に関するすべての事項を調査しなければならず、また、申請を却下すべき場合には、事前にその旨を申請人又は代理人に告げて取下げの機会を与えるべき義務があるところ、本件登記官は、申請書の保管に当たり十分な注意を払わなかったために添付書類の偽造発覚を防ぐことを目的としたAらの申請書類一式の抜取り、同再投函を許しており、右書類が偽造であることを発覚した後もXやその代理人に対して何ら告知しておらず、これらの過失とXが代金の一部として振り出した小切手の支払を停止できなかったために生じた本件損害には因果関係があるとする損害賠償請求につき、原審は、本件登記官の本件登記申請書類の保管を怠った過失を認定した上で、再投函日に受け付けられた登記申請総数が本件抜取日のそれより約43件多いにもかかわらず、再投函された本件申請について同日中に登記簿への記入まで終了したという事実から、本件申請書類が抜き取られなければ、遅くとも翌日の午前中には突合調査を終えることが可能であったという事実が推認される、本件偽造は右突合調査の段階で発見することが可能であったという事実が推認される、登記官は登記申請却下事由がある場合には直ちにこれを登記申請人又はその代理人に告知して申請の取下げ機会を与えるべき義務があるので、右告知がされていれば、Xは支払銀行に依頼して本件小切手の支払を停止し、それが、支払われることにより生じる損害の発生を未然に防ぐことができたはずであるとして、右過失とXの損害との間の因果関係を肯定したが、本件登記所の補正日の指定は申請日の登記申請件数のみならず、前日までに受け付けられ、その申請日に調査が持ち越された登記申請件数とその難易をも考慮した上で行われており、本件抜取日にされた登記申請の補正日は5日後に指定され、再投函日のそれは2日後と指定されていたのであるから、特別事情のない限り、当該登記申請について、申請日から補正日までの期間が長い場合ほど、申請から突合調査の終了までに長時間を要するものと推認するのが経験則上相当であり、原審が認定した事実関係のみから、本件書類の抜取りがなければ、その翌日の午前中には突合調査を終えることが可能であったという事実を認定することは、他に特別の事情がない限り経験則上相当でないとして、原審の判断を破棄し、右特別の事情の有無など因果関係の存否について更に審理を尽くさせるのが相当であるとして、上告敗訴部分を東京高等裁判所に差し戻した事例
【掲載誌】 登記先例解説集401号175頁