帳簿書類の提示拒否は、帳簿書類の備付け等の義務が果たされなかったものとして、所得税法150条1項 | 法律大好きのブログ(弁護士村田英幸)

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帳簿書類の提示拒否は、帳簿書類の備付け等の義務が果たされなかったものとして、所得税法150条1項の青色申告の承認の取消事由となると解すべきであるとされた事例

 

東京高等裁判所判決/平成6年(行コ)第33号

平成7年1月31日

所得税更正処分等取消請求控訴事件

【判示事項】    (1) 青色申告制度の趣旨・目的(原審判決引用)

          (2) 帳簿書類の提示拒否は、帳簿書類の備付け等の義務が果たされなかったものとして、所得税法150条1項の青色申告の承認の取消事由となると解すべきであるとされた事例(原審判決引用)

          (3) 備付け等が正しく行われているか確認できないとして帳簿書類の提示拒否を、所得税法150条1項の青色申告の承認の取消事由と解することは、青色申告制度に関する制度(同法143条以下)全体の統1的かつ合理的な理解のために不可欠なことであって、租税法律主義に反するものではないとされた事例(原審判決引用)

          (4) 納税者は税務職員の要求があったのに事業所得に関する帳簿書類を提示しなかったものであるとして、青色申告承認の取消処分には違法がないとされた事例(原審判決引用)

          (5) 納税者が、税務調査に協力せず、帳簿書類を提示しなかったことから、推計の必要性があったとされた事例(原審判決引用)

          (6) 昭和60年1月分の仕入金額には、前年からの繰越額が含まれているが、その額が不明であるため、昭和61年1月分の前年からの繰越額と昭和62年1月分の前年からの繰越額との平均額をもって、昭和60年1月分の前年からの繰越額を推計し、これを基礎として昭和60年分の仕入金額を算出したことには合理性があるとされた事例

          (7) 家電小売業及び電気配線工事業を営む納税者の所得金額について、各事業の仕入金額を基礎として、各事業の同業者5件ないし七件の平均売上原価率、平均1般経費率を適用して推計したことは、右同業者が納税者と類似性を有しており、その抽出過程においても恣意性が認められないことから、合理的であるとされた事例(原審判決引用)

          (8) 納税者の主張する電気配線工事業の収支に関する特殊事業は、不明確な点が多く、帳簿や青色申告書の記載も真実の取引経過を反映しているとは認められないから、同業者の業務形態や収益状況と比較して特段の差異があるとは、認められないとされた事例(原審判決引用)

          (9) 推計課税に対して納税者が主張する所得実額の立証の程度(原審判決引用)

          (10) 推計課税に対する納税者の実額の立証は、本証であるとされた事例(原審判決引用)

          (11) 推計課税に対する納税者の事業所得の実額に関する主張が、その立証がないとして排斥された事例(原審判決引用)

【判決要旨】    (1) 所得税法は、納税者の帳簿書類への記録やその保存を奨励するため、同法143条以下に青色申告制度を設け、所轄の税務署長から青色申告書提出の承認を受けた者に対し、帳簿書類の備付け、記録及び保存の義務を課し(同法148条1項)、その代償として、課税標準の計算において各種の特典を与えるほか、帳簿書類の調査を経て所得金額等の計算に誤りがあると認められる場合でなければ所得税の更正を受けることはなく(同法155条)、推計による所得税の更正を受けない(同法156条)という課税処分における1定の手続を保障しているのである。

          (2) 青色申告制度は、申告の基礎となった帳簿書類の状況が所得税法234条に規定する税務職員の質問検査により確認できる状態にあるのでなければ実行性のないものとなることが明らかであるから、同法148条1項が青色申告者に義務付ける帳簿書類の備付け等には、単に青色申告者において帳簿書類の備付け等を行っていれば足りるというものではなく、税務職員が調査のためにその閲覧を求めた場合にそれら帳簿書類が確認できるような状態に置いておくことを含むものと解すべきである。従って、青色申告者が、調査を行う税務職員の帳簿書類の提示要求に応じない場合には、右条項に従った帳簿書類の備付け等の義務が果たされなかったものとして同法150条1項の青色申告の承認の取消事由と解すべきである。

          (3)~(8) 省略

          (9) 納税者の各年の所得金額は、その年の総収入金額から総必要経費を控除するという所得税法所定の方法によって把握されるものであるから、納税者が課税庁のした推計による所得認定が過大であるとして所得実額を訴訟において立証しようとする場合には、右総収入金額相当の収入があり、1方右総必要経費額相当の支出のあることを立証しなければならないことになる。

          (10) 推計によって所得金額を算出した課税庁が主張する課税根拠事実は、それ自体は所得実額ではなく、これに近似する金額を推計するものとして合理性のある手法及びその基礎となった資料という事実に過ぎず、所得税法所定の所得実額の算定根拠事実とは異なるから、納税者がすべき所得実額の立証とは、右の推計による課税について、その根拠事実の存否を真偽不明なものとする反証に属するものではなく、所得実額の算定のための根拠事実に関する主張(総収入金額及び総必要経費)を本証として証明することのできるものでなければならない。

          (11) 省略

【掲載誌】     税務訴訟資料208号207頁