被害者側の落度が介在した場合につき因果関係が認められた事例(風邪治療事件) | 法律大好きのブログ(弁護士村田英幸)

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最高裁判所第1小法廷決定/昭和61年(あ)第960号

昭和63年5月11日

『昭和63年重要判例解説』刑法事件

業務上過失致死被告事件

【判示事項】    被害者側の落度が介在した場合につき因果関係が認められた事例(風邪治療事件)

【参照条文】    刑法211

          刑法1編7章〔因果関係〕

【掲載誌】     最高裁判所刑事判例集42巻5号807頁

          最高裁判所裁判集刑事249号575頁

          裁判所時報982号125頁

 本決定は、被害者側の落度が介在した場合につき、因果関係の存在を肯定した事例判例である。

被害者側の落度も相当大きいと思われる事案であるだけに、この種の判例に貴重な1事例を加えたものと言うことができるであろう。

 被告人は、医師の資格のない柔道整復師であるが、風邪の症状を訴える被害者(28歳の健康な男性)に対し、誤った治療法を繰り返し指示したところ、これに忠実に従った被害者は、病状を悪化させて死亡してしまった。

以上が本件の骨子であるが、事案の概要は、本決定自身が摘示しており、また、詳細な事実関係については、2審判決の判文中に示されている。

 本件においては、過失の存在や、その前提をなす事実関係も争いの対象となっているが、ここでは、最高裁が職権で取り上げた因果関係の問題を中心として、その訴訟経過を概観しておくこととする。

 被告人は、誤った治療法を指示した過失により被害者を死に致したものとして、業務上過失致死罪により起訴された。

 まず、1審判決は、被害者の容態が重くなった時点で被告人に施術中止義務違反があったことなどは認めたものの、被害者側が全く医師にかからず適切な療養・看護をしなかった点を重視し、施術中止義務違反と被害者の死亡との間には因果関係がないなどとして、無罪を言い渡した。

 これに対し、2審判決は、医師の診療治療を受けなかった被害者側の行動が異常であったことは認めながらも、そのような異常な行動は、被告人の誤った指示に基づくものであったから、因果関係が否定されるいわれはないとして、検察官の控訴を容れ、業務上過失致死罪の成立を肯定した(懲役1年・執行猶予3年)。

2審判決によると、本件における被告人の具体的な行為は、熱を上げること、食事や水分を控えること、閉め切った部屋で布団をしっかり掛け汗を出すこと等を再3にわたって指示したというものであるが、医学的には、右指示は、患者の体力を消耗させ、脱水症状を誘発する点で、極めて危険なものであったとされている。

 本決定は、被告人の行為がそれ自体において被害者の病状を悪化させ、ひいては死亡の結果をも引き起こしかねない危険性を有していたことを指摘した上、右2審判決の判断を是認したものである。

 なお、被告人は、医師法違反(無資格医業)の点も併せて起訴されていたが、1審判決は、主として事実認定上の理由でこれを無罪としており、この部分については、検察官が控訴を申し立てなかったので、右無罪の判断が1審段階で確定している。