東京地方裁判所判決昭和63年6月29日
商標権移転登録等請求事件、同反訴請求事件
『昭和63年重要判例解説』無体財産権法事件
【判示事項】 商標登録出願により生じた権利につき契約上の移転請求権を有する者が求め得る請求
【参照条文】 商標法13-2
商標法施行規則3の3
特許法33
特許法34
【掲載誌】 無体財産権関係民事・行政裁判例集20巻2号260頁
判例タイムズ680号211頁
判例時報1278号120頁
一、本件の事実は多岐にわたるが、必要な限度で要約すると次の通りである。
X(本訴原告、反訴被告)は、イタリアの会社であるが、日本の会社であるY(本訴被告、反訴原告)との間で、日本において「チェレーザ」なる商標を使用してハンドバッグ等の皮革製品を販売するため、YをXの独占的販売代理店にするなどの内容の契約を結んだ(その詳細については判決文を参照されたい)。
Yは、右契約に基づき皮革製品を販売するため、右商標を図案化した商標等について商標登録出願をし、そのうちの一部の商標について登録を得た(一部の商標については未登録)。
その後、X、Yの間に紛争が生じ、X、Yとも相手に債務不履行があるとして右契約を解除する旨の意思表示をした。
Xは、右契約の債務不履行に基づく損害賠償などを求めるとともに、右契約には、契約が終了した場合、登録済みの商標については移転登録手続をし、出願中の商標については出願人名義変更手続をする旨の趣旨が含まれていたと主張し、登録済みの商標について移転登録手続を、出願中の商標について出願人名義変更手続を求め、かつ予備的にXが商標登録出願により生じた権利を有することの確認を求めた。
他方Yは、Xの債務不履行により損害を被ったとしてその損害賠償を求めた。
二、商標登録出願をした者は、これが登録されるまでは商標登録出願により生じた権利を有し、これを移転することも可能であるが、右権利の移転は特許庁長官に届出ることにより効力が生じるとされている(商標法13条2項、特許法33条、34条)。
そして、右特許庁長官に対する届出は、商標登録出願により生じた権利を譲受けた者が、承継人であることを証明する書面を添付してすることとされている(商標法施行規則3条の3、様式第7。
なお、特許法施行規則12条、様式第7参照)。
すなわち、商標法においては、双方申請主義がとられている不動産登記法などの場合と異なり、出願人名義変更手続につき、その譲渡人の協力を予定していない。
したがって、商標登録出願により生じた権利を譲受けた者が、譲渡人に対して、出願人名義変更手続きをするよう請求することは意味がなく、このような請求は理由がないとされる(横浜地判昭60・3・29無体集17巻1号116頁)。
また、前記のとおり商標登録出願により生じた権利の移転の効力は、特許庁長官に届出ることによって始めて生じるから、右届出前にあっては、譲受人が権利を取得する余地はなく、この段階で譲受人に商標登録出願により生じた権利があることの確認を求めることはできないように思われる。
このような場合、譲受人としてはいかなる請求ができるかが問題となる。
本判決は、この点を問題とするものである。
三、本件判決は、X、Yの締結した契約には、契約が終了した場合、登録済みの商標については移転登録手続をし、出願中の商標については出願人名義変更手続をする旨の趣旨が含まれていたと認定したが、この点に関するXの請求について、右二のような問題点を指摘し、そのままの形ではこれを認容し得ないことを前提としたうえ、Xの請求は、要するに、商標法施行規則3条の3、様式第7所定の「承継人であることを証明する書面」に代わり得る内容の判決を求めるという趣旨であると解されるから、Xが、Yに対し、商標登録出願により生じた権利の移転請求権を有することの確認をすれば足りるとし、かつXの予備的請求中には右の趣旨が含まれているとして、その請求を右の限度で認容した。
四、わが国では、登記、登録が対抗要件とされている例が多く(民法177条等参照)、これらが効力要件とされている場合の研究は意外にされていないように思われる。
更に本件は、不動産登記法等の場合と異なり、双方申請主義をとらない出願人名義変更手続の場合であったため、請求の趣旨を如何なる形にすべきかが問題になったようである。