最高裁判所第2小法廷判決平成24年5月28日
預金返還請求事件
『平成24年重要判例解説』民事訴訟法10事件
【判示事項】 1 保証人が主たる債務者の破産手続開始前にその委託を受けないで締結した保証契約に基づき同手続開始後に弁済をした場合に保証人が取得する求償権の破産債権該当性
2 保証人が主たる債務者の破産手続開始前にその委託を受けないで締結した保証契約に基づき同手続開始後に弁済をした場合に保証人が取得する求償権を自働債権とする相殺の可否
【判決要旨】 1 保証人が主たる債務者の破産手続開始前にその委託を受けないで締結した保証契約に基づき同手続開始後に弁済をした場合において,保証人が主たる債務者である破産者に対して取得する求償権は,破産債権である。
2 保証人が主たる債務者の破産手続開始前にその委託を受けないで締結した保証契約に基づき同手続開始後に弁済をした場合において,保証人が取得する求償権を自働債権とし,主たる債務者である破産者が保証人に対して有する債権を受働債権とする相殺は,破産法72条1項1号の類推適用により許されない。
(補足意見がある。)
【参照条文】 民法462
破産法2-5
破産法67-1
破産法72-1
【掲載誌】 最高裁判所民事判例集66巻7号3123頁
判例タイムズ1375号97頁
金融・商事判例1397号20頁
金融・商事判例1393号14頁
判例時報2156号46頁
金融法務事情1954号100頁
金融法務事情1947号54頁
登記情報611号100頁
1 本件は,6名の破産者の各破産管財人である承継前上告人らが,それぞれ,被上告人に対し,各破産者と被上告人との間の当座勘定取引契約を解約したことに基づく払戻金及び遅延損害金の支払を求める事案である。被上告人は,各破産者の破産手続開始前に,その委託を受けないで,各破産者の債務について,その債権者との間において保証契約を締結し,破産手続開始後に同契約に基づき保証債務を履行して各破産者に対し求償権を取得したとして,同求償権を自働債権とする相殺を主張している。なお,原審口頭弁論終結後に,承継前上告人らは破産管財人をいずれも辞任し,新たに破産者の各破産管財人に選任された上告人らが本訴の訴訟手続を受継した。
2 事実関係の概要は,以下のとおりである。
Aらは,銀行業を営む被上告人との間で,それぞれ当座勘定取引契約を締結した。
一方,被上告人は,平成18年4月,Aらの委託を受けないで,Aらの取引先の株式会社との間で,Aらが取引先の株式会社に対して負担する買掛債務等につき,極度額を定めてそれぞれ保証する旨の保証契約を締結した。
ところが,Aらは,いずれも,平成18年8月,破産手続開始の決定を受け,承継前上告人らが,それぞれ,破産管財人に選任された。
一方,被上告人は,破産手続開始後の,平成19年3月,保証契約に基づく保証債務の履行として,Aらの取引先の株式会社に対し,債務を弁済した。
その後,承継前上告人らは,それぞれ,当座勘定取引契約に定められた手続により,本件各当座勘定取引契約を解約したが,被上告人は,承継前上告人らに対し,前記弁済により取得した求償権と当座勘定取引契約に基づきAらが被上告人に対して有する債権とをそれぞれ対当額において相殺する旨の意思表示をした。
この相殺が許されるかが,本件の争点である。
3 原審は,本件のように保証人が取得するに至った求償権は破産債権になるとし,かつ,本件の求償権を自働債権とする相殺は,破産法において禁止されていないとして,被上告人がした相殺を認め,承継前上告人らの請求をいずれも棄却すべきものとした。
4 これに対し,第二小法廷は,要旨1のとおり述べて,原審と同様,委託を受けない保証につき,保証契約の締結が破産手続開始前であれば,破産手続開始後に弁済した場合であっても,その求償権は,破産債権となることを示した。
他方,その求償権を自働債権とする相殺については,要旨2のとおり述べて,破産法72条1項1号の類推適用により,相殺は許されないとした。
要旨2を述べるに当たり,第二小法廷は,破産者に対して債務を負担する者が,破産手続開始前に債務者である破産者の委託を受けて保証契約を締結し,同手続開始後に弁済をして求償権を取得した場合,この求償権を自働債権とする相殺は,破産債権についての債権者の公平・平等な扱いを基本原則とする破産手続の下においても,他の破産債権者が容認すベきものであり,同相殺に対する期待は,破産法67条によって保護される合理的なものであること,これに対して,無委託保証人が破産者の破産手続開始前に締結した保証契約に基づき同手続開始後に弁済をして求償権を取得した場合に,この求償権を自働債権とする相殺を認めることは,破産者の意思や法定の原因とは無関係に破産手続において優先的に取り扱われる債権が作出されることを認めるに等しく,この場合の相殺に対する期待を,委託を受けて保証契約を締結した場合と同様に解することは困難であることを述べた。そして,そのような求償権を自働債権としてする相殺には,破産法72条1項1号が規定する相殺禁止の規定の場合と類似する状況があることを述べて,本件の相殺が破産法72条1項1号の類推適用により許されないとした。
本件には,須藤裁判官,千葉裁判官の補足意見が付されている。