第1 会社の全部を譲渡する場合 | 法律大好きのブログ(弁護士村田英幸)

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第1 会社の全部を譲渡する場合

1 株式譲渡

 合併では、法人としての会社を消滅させて、消滅会社の債権債務を包括的に存続会社に承継させるので、会社全体の譲渡といえます。そのような方法とは異なり、会社は存続させつつも会社の経営権の譲渡のみを行うM&Aの方法として、株式譲渡によるものがあります。

 株式には議決権があるのが原則であり(会社法10513号)、この議決権で会社に関するもっとも基本的で重要な事項を決定します(会社法2951項参照)。

 所有と経営が分離されている株式会社では(会社法3261項、3312項参照)、取締役が意思決定や業務執行を行いますが(会社法348123項)、その取締役を選任・解任するのは株式の議決権によるため(会社法3291項)、結局は株式さえ有していれば、その会社を支配できます。

 そこで、会社の支配権(経営権)の譲渡の方法として、その会社の株式を譲渡する、という方法が考えられます。

 株式譲渡は、当事者間の契約による取引行為にすぎません。つまり、売り手企業の株主の構成が替わるだけで、従業員等会社内部の関係や事業は何ら変わらず存続することになります。

 手続き的に最もシンプルです。すなわち、当該会社が譲渡制限会社の場合には、承認機関の承認手続が別途必要になりますが、そうでない限り、株主名簿の書換え(会社法130条)と株券発行会社であれば株券の交付(会社法1281項本文)が必要になるのみです。こうした手続き上の簡便性もあって実務上事業承継の手法として最も利用されています。

 他方、株式が複数の株主に分散している場合には、個々の株主との株式売買の交渉をして契約を結ぶことは煩雑です。また、買い手としては、当該会社の新株主となるため、当該会社の簿外債務や偶発債務をそのまま引き受けるという危険性があります。そこで、売買契約において表明保証条項を設ける等の手当てをするとよいでしょう。表明保証条項については、第5部第2章において詳しく説明しています。

【コラム】エスクロー条項

 エスクロー(escrow)とは、有効な契約を締結した当事者の合意に基づいて、譲渡人、約束者または債務者が、捺印証書、証券、金銭、株式、その他の文書を中立の第三者に寄託すること、またはこうして寄託された証書等をいいます(田中英夫「BASIC英米法辞典」(東京大学出版会)1995年)。

 エスクロー条項は譲渡代金の後払いを約するものですが、通常の後払いをする旨の条項とは異なり、買い手は契約時に代金を中立的な第三者に寄託することになります。そして、代金の支払期日において譲渡会社に損害賠償責任等が発生していた場合には、譲渡会社はかかる額を控除した金額しか受け取れず、譲受会社は残額を取り戻すことができます。エスクロー条項の利点は、譲渡代金の後払いをする旨の条項に比べて、買い手が売主の信用リスクをとらなくてよい点にあるとされています(西村総合法律事務所「M&A法大全」商事法務研究会2001958頁)。


(★税制 株式の譲渡対価が全額売却代金か一部を退職慰労金名目とするかにより課税関係が異なります。株式売却益に対する課税がありますが、一般的には他のM&Aのスキームに比べて税負担は軽いといえます。)

2 合併

 2つ以上の会社が契約によって1つの会社に合同することをいいます。その類型には、合併により消滅する会社が存続する会社に吸収される「吸収合併」(会社法227号)と、合併により新たな会社が設立される「新設合併」(会社法228号)とがあります。

 いずれの方法によったとしても、合併の効果として、消滅会社の権利義務はすべて存続会社もしくは新設会社(以下、存続会社等)に承継されます(会社法7521項、7562項)。これを「包括承継」といいます。すなわち、合併によれば、合併契約の内容の如何にかかわらず、法律上当然にすべての財産が包括的に承継されることになります。

 手続き的には、権利移転に個別の処理が不要になり、事業譲渡の場合と比べて簡便です。しかし、合併は、会社の組織運営の根本に著しい変更をもたらす手続であり株主や会社債権者に重大な影響を与えます。そこで、会社法では慎重な手続を経て合併を行います。すなわち、取締役会決議(会社法3624項)、株主総会の特別決議(会社法7831項、7951項、309212号)や会社債権者異議手続(会社法7891項)が必要になるうえ、反対株主には株式買取請求権があります(会社法785条、797条)。

【コラム】スクイーズ・アウト

 スクイーズ・アウトとは、少数派株主の承諾を得ることなく、当該少数派株主を排除することをいいます。具体的には、A社がB社を吸収合併する場合に、B社の株主に対して、A社は現金を交付することにより、あるいは、A社の親会社の株式を交付することにより、合併後の(新)A社から、少数派株主を排除することができるようになります。このように現金を交付することによってスクイーズ・アウトを実現する方法のことをキャッシュアウトマージャーと言ったりもします。会社の支配権を万全なものとすることに役立ちます。

 もっとも、そもそも正当な事業目的等のない合併や、特定の株主の排除のみを目的とする合併は株主総会の決議取消事由(会社法83113号参照)になると思われます。


3 株式交換・株式移転

 株式交換とは、既存の複数の会社間で株式の交換をすることにより、親子会社関係を構築する組織再編行為です。具体的には、親会社となることが予定される株式会社または合同会社(株式交換完全親会社)の株式やその他の財産と引換えに、子会社となることが予定されている株式会社(株式交換完全子会社)の発行済株式を、完全親会社に取得させることをいいます(会社法231号)。事業承継の場合、経営者等が保有していた自社株が交換先会社の株式に替わることになります。

 株式移転とは、1または2以上の株式会社がその発行済株式の全部を新たに設立する株式会社に取得させることをいいます(会社法232号)。これは、完全親会社となる株式会社へ、子会社となる株式会社の株式が全部移転し、その対価として、完全子会社の株主が完全親会社の株式を取得することで、親子会社関係を構築する組織再編行為です。

 株式交換・株式移転はどちらも、複数の会社間で、親子会社関係を構築する制度である点で共通します。しかし、株式交換は既存の会社相互間で、完全親子会社化を実現する制度であるのに対して、株式移転は、株式会社を新設して、既存の会社を完全子会社とする制度である点で異なります。

 いずれの方法も組織再編の際、現金の代わりに自社株で支払うことになりますので、買収資金の準備をしなくてよいというメリットがあります。

 もっとも、売り手企業の株主が対価として得るのは買い手企業の株式であるため、買い手企業が非上場企業である場合には、換金することが困難であり、創業者利益の確保の観点からは有用な手法とはいえないでしょう。

 手続き的にも、合併に準じた規制に服します。すなわち、各会社において、取締役会決議(会社法3624項)、株主総会の特別決議が必要になるうえ(会社法7831項、7951項、309212号)、反対株主の株式買取請求権(会社法785条、797条)があります。会社債権者異議手続については、新株予約権付社債の承継をする場合および株式交換で完全親会社となる会社の株式以外のものを対価として交付する場合に限り必要になります(会社法78913号、81013号、79913号)。なお、株式被交換企業(特定子会社) にとっては株主の変更が起こったに過ぎず、特に課税関係は発生しません。