第5 特別受益 | 法律大好きのブログ(弁護士村田英幸)

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5 特別受益

1 特別受益概説

 特別受益制度とは、生前贈与や遺贈を受けた相続人がいる場合に、相続人間の公平のために、相続分算定の際に考慮する制度です(民法9031項)。具体的には、「被相続人が相続開始の時において有した財産の価額」に「贈与の価額」を加えたものを相続財産とみなし(みなし相続財産といいます。)、この価額に各相続人の法定相続分を乗じ、その算出された価額から「遺贈又は贈与の額」を控除した残額が特別受益を受けた者の相続分となります。

これを計算式にすると、以下のようになります。

具体的相続分額

=(「被相続人が相続開始の時において有した財産の価額」+「贈与の価額」)×各相続人の法定相続分-「遺贈又は生前贈与の額」

 なお、遺贈は、「被相続人が相続開始時において有した財産の価額」に加算されません。遺贈は相続開始時に現存する相続財産の中から支弁されるものであるからです。


2 特別受益の評価方法

 特別受益と評価されるか否かついては、特別受益制度の趣旨が、生前贈与や遺贈による「遺産の前渡し」により、相続人間の公平が害されることを防止することにありますから、「遺産の前渡し」と評価できるかによって判断されます。同じ額でも当事者によって、特別受益と評価される場合や評価されない場合があります。

 特別受益となる財産の価額の評価基準時は、相続開始時か遺産分割時かについて争いがありましたが、「遺産の前渡し」としての意義を有する特別受益の価額を相続財産の価額に加算することにより、共同相続人間の公平を維持することを目的とする特別受益制度の趣旨から、相続開始時説が確定した解釈となっています(最判昭和51318民集302111頁は、贈与された金銭について、相続開始時の貨幣価値に換算した価額をもって評価すべきであるとしています)。

【事例】における被相続人甲が、後継者とした長男丙に対して、生前に自社株を贈与していた場合に、これが特別受益と評価されれば、この贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、これに各相続人の法定相続分を乗じ、そこから贈与の価額を差し引くことにより、具体的相続分が算出されることになります。

 そして、贈与時に3千万円の価値があった株式が、甲の死亡時に1億円に上昇していた場合、贈与時(3千万円)ではなく、相続開始時(1億円)の評価で持戻しが行われることになります。

【事例】における「被相続人が相続開始の時において有した財産の価額」を3億円とした場合、長男丙の具体的相続分額は以下のようになります。

具体的相続分額=(3億円+1億円)×1/2×1/2-1億円

       =0円





しかし、特別受益となる財産の価額の評価基準時を相続開始時とすると、長男丙は経営努力によって贈与時3千万円の株価を1億円まで上昇させたにもかかわらず、具体的相続分は、その企業努力により減少することになり、後継者の意欲を阻害することになりかねません。

 そこで、後述する「持戻しの免除」の方法や中小企業円滑化法の固定合意の制度が認められています。

  

3 持戻しの免除

 特別受益の制度を回避するには、「持戻しの免除」という方法があります(民法9033項)。

 この方法は、被相続人の意思で、相続人が被相続人から生前贈与により取得した財産をみなし相続財産に合算しないことを認めるものであり、後継者が遺産分割の際に取得できる財産が増えます。

 特別受益の制度は、共同相続人間の公平を図ろうとするものではありますが、それは、あくまで被相続人の意思に反しない限りにおいてであると考えられています。

 そこで、被相続人の意思が、後継者である特定の相続人を特別扱いするというものであれば、その意思が尊重されます。すなわち、被相続人のそのような意思が明らかであるならば、生前贈与を考慮せず、また、遺贈を除外した残りの財産を対象に、遺産分割を行うことも可能になります。


【持戻しの免除の遺言文例】

 遺言者は、長男丙(生年月日)に対し平成○○年に現在A社に賃貸している土地を贈与してあるところ、相続分は右贈与がなかったものとして算定すべきものとする(持戻しの免除)。

4 遺留分制度との関係

 特別受益は、相続開始1年前であるか否かを問わず、遺留分算定の基礎となる財産に算入され(民法1044条・903条)、遺留分減殺請求を受ける相続人に酷である等の特段の事情のないかぎり、遺留分減殺請求の対象となります(最判平成10324民集522433頁)。

 また、「持戻しの免除」は「遺留分に関する規定に違反しない範囲内で」(民法9033項)認められるものですから、遺留分に違反する特別受益は「持戻しの免除」の意思表示があってもすべて遺留分算定の基礎となる財産に算入されることになります(大阪高判平成1168高裁民集521頁)。