第3 相続財産の共有
1 遺産共有の性質
相続人が数人あるときは、相続財産は、その相続分に応じて、相続人の共有状態となります(民法898条)。
この相続財産の共有も通常の共有(民法249条以下)と同じであり(最判昭和30・5・31民集9巻6号793頁)、実務もこれに沿って運用されています。
この遺産共有を解消するための裁判は、遺産分割審判であって、民法258条に基づく共有物分割訴訟ではありません(最判昭和62・9・4家裁月報40巻1号161頁)。ただし、相続人の一人が遺産分割前に自己の持分を第三者に譲渡してしまうと、その譲受人である第三者との関係では、共有関係の解消は、民法258条に基づく共有物分割訴訟によらなければなりません(最判昭和50・11・7民集29巻10号1525頁)。
2 債権の共同相続
(1)可分債権
貸金債権・普通預金債権・定期預金債権等の金銭債権は給付が可分である債権(可分債権)です。相続財産中に可分債権がある場合、複数の相続人間では、その可分債権は法律上当然分割され、各共同相続人が、その相続分に応じて権利を承継するのが原則です(最判昭和29・4・8民集8巻4号819頁)。
ア 貸付債権
【事例】において被相続人甲が会社に対して有する貸付債権は当然に分割され、妻乙が500万円、長男丙と次男丁がそれぞれ250万円を取得します。被相続人甲が、1000万円の貸付債権を会社から回収するつもりがなくとも、相続人それぞれが会社に請求すれば、会社は支払わざるをえません。
イ 預貯金の取扱い
【事例】において被相続人甲が有している1000万円の預貯金は、妻乙が500万円、長男丙と次男丁がそれぞれ250万円ずつ預貯金債権を取得します。被相続人甲が、この預貯金を会社の事業資金とするつもりでいたとしても、各共同相続人は銀行に払い戻しを請求することができてしまいます。
この点、銀行は遺産分割協議書または共同相続人全員が捺印した同意書と印鑑証明書の提出がなければ払い戻しに応じていませんが、これは銀行の実務であって、相続人が銀行を相手に預金の払い戻しを求める裁判を起こせば、銀行は支払わざるをえません(東京高判平成7・12・21判タ922号271頁、東京地判平成9・10・20判タ999号283頁)。
ウ 賃料債権
共有不動産から生じる賃料債権も各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得するものとされ、分割単独債権として確定的に取得した賃料債権の帰属は、後にされた遺産分割の影響を受けません(最判平成17・9・8民集59巻7号1931頁)。遺産は、相続人が数人あるときは、相続開始から遺産分割までの間、共同相続人の共有に属するものですから、この間に遺産である不動産を使用管理した結果生ずる金銭債権たる賃料債権は、遺産とは別個の財産というべきであって、各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得するものと解されるためです(前掲最判平成17・9・8民集59巻7号1931頁)。
【事例】において被相続人甲が有している、共有不動産から生じる賃料債権は相続が開始した時点で分割債権とされてしまうので、遺産分割手続を経ることなく、妻乙が50万円、長男丙と二男丁がそれぞれ25万円ずつを取得します。被相続人甲がこの賃料債権を直ちに会社から回収するつもりがなかったとしても、各共同相続人が会社に請求すれば、会社はこれを拒むことはできません。
(2)不可分債権
動産や不動産の引渡請求権は、その給付が性質上分割できない債権(不可分債権)です。相続財産中に不可分債権が含まれる場合、共同相続人全員に債権が帰属することになります。そして、共同相続人全員で共同して行使することもできますが、各共同相続人がそれぞれ他の共同相続人のために履行を請求することができます(民法428条、429条)。
3 債務の共同相続
(1)可分債務
債務は債権を裏から説明したものですから、可分債権と同様に考えられ、金銭債務のような可分債務については、各共同相続人の相続分に応じて分割して帰属することになります(大決昭和5・12・4民集9巻12号1118頁)。
(2)不可分債務
不動産引渡債務のような不可分債務については、共同相続人に不可分的に帰属することになりますから、各共同相続人はその全部につき履行の責任を負うことになります(大判昭和10・11・22裁判例9巻民288頁)
(3)連帯債務
連帯債務については、それが単純な金銭債務のような可分債務は、分割承継され、各自その承継した範囲において、本来の債務者と連帯して債務を負担することになります(最判昭和34・6・19民集13巻6号757頁)。
この点、連帯債務の担保的機能が損なわれるとして、これに反対する学説もありますが、各共同相続人が全額について連帯債務を承継するとなると、相続人の数だけ連帯債務者が増えることになり、連帯債務の担保的機能が過度に強化されることになってしまいます。元の連帯債務者(被相続人)の財産の範囲で担保されていれば債権者の保護としては十分であり、判例の解釈は妥当であるといえます(内田貴『民法Ⅳ補訂版』408頁)。
【事例】において被相続人甲が1000万円の連帯債務を負っていた場合には、妻乙に500万円、長男丙と次男丁に250万円ずつ分割承継され、その限度で連帯債務者となります。
4 その他の共同相続
(1)株式
株式が相続財産に含まれる場合、その株式は、共同相続人間で、その相続分に応じて、当然には分割されません。すなわち、株式はすべて、その相続分に応じて、相続人の共有となります。最判昭和45・1・22民集24巻1号1頁も株式を相続人が共有することを前提としています。
【事例】における被相続人甲が保有していた700株の株式はすべて妻乙、長男丙、次男丁の共有となります。
そして、共有株式の議決権の行使をするためには、共同相続人間で権利を行使する者を一人選定し、会社に対し、その者の氏名または名称を通知しなければなりません(会社法106条)。
この権利を行使する者の選定方法についてですが、共有持分者の持分による多数決で決することができるとされています(最判平成9・1・28判時1599号139頁)。
【事例】において被相続人甲が長男丙を後継者にしようと考えていたとしても、次男丁が被相続人の妻乙と手を組むことによって、持分の3/4を占めることができますから、これらの共有株式を自由に行使されてしまいます。
なお、権利を行使する者の選定を欠く場合には、共有者全員が議決権を共同して行使する場合(最判平成11・12・14判時1699号156頁)、または、議決権の不統一行使、一部の者による訴権の行使等、会社がその他の形の権利行使に同意した場合(会社法106条但書)を除き、誰も権利行使することができなくなります。
(2)金銭
金銭については、相続人は、遺産分割までの間は、相続開始時に存した金銭を相続財産として保管している他の相続人に対して、自己の相続分に相当する金銭の支払を求めることはできません(最判平成4・4・10家裁月報44巻8号16頁)。この判決には理由づけが示されていないため、判例がかかる結論に至った根拠は必ずしも明らかではありません(金融・商事判例896号13頁)。私見によれば、動産と同様に遺産共有の状態にあると考えたようです。有力説によれば、金銭が当然に分割帰属すると、遺産分割で金銭を調整に使うことができなくなり不便であるとされます(内田貴『民法Ⅳ補訂版』404頁)。【事例】において被相続人甲が自宅の金庫に保管している現金500万円について、相続人は、遺産分割までの間、その支払を求めることはできません。
なお、遺産管理人名義で銀行に預金されたとしても、相続開始時にさかのぼって金銭債権になるわけではありません(前掲最判平成4・4・10)
(3)不動産
ア 処分行為
不動産については、相続分に従った共有状態になります(民法898条)。そして、共有物となった不動産を処分する行為(売却や抵当権設定等)には、共有者全員の同意が必要になります(民法251条)。
ただし、共有物そのものの処分ではなく、各相続人が有する共有持分については、各相続人が自由に処分することができます(最判昭和38・2・22民集17巻1号235頁)。
イ 管理行為
管理行為(賃貸借契約の締結・解除等)については、各共有者の持分の価格に従って、その過半数で決定することができます(民法252条本文)。
相続財産の管理に要する費用は、「相続財産に関する費用」として相続財産から支弁するものとされています(民法885条1項)。
ウ 保存行為
保存行為(家屋の修繕や税金の納入等)については、各共有者が単独ですることができます(民法252条但書)。
エ 会社の事業用不動産の場合
【事例】のように、被相続人甲が会社に土地を賃貸していて、会社の事業用資産になっている場合には、その不動産は相続人の共有不動産となります。したがって、その管理行為については、持分の過半数により決せられます。後継者がその持分の過半数を取得できるような状態での共有であれば、問題は生じにくいですが、【事例】のように後継者である長男丙が1/4の持分しか取得できないと、次男丁が被相続人の妻乙と手を組み、土地の賃貸借契約を解除されたくなければ、自己の共有持分を買い取るよう、後継者である長男丙に迫ってくることも予想されます。
そこで、被相続人は、遺言を利用することによって(相続分の指定、遺贈、遺産分割方法の指定等)、会社の事業用不動産が安定的に利用できる状態を保つ必要があるのです。
□遺産共有か当然分割か
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