記憶に残るスケーター達(2) | マイクと michi のブログ

マイクと michi のブログ

マイクはアメリカン・ショート・シルバー・タビーのメタボ猫。michi はマイクの「飼い主」兼「婆や」。大事なマイクを忘れて、イチローや高橋大輔に夢中になることがよくある。マイクの名前はマイケル・ジョーダンから。ネコとネコ的な男性アスリートに胸アツ。

4月20日

飼い主の michi、スケートについての掲載を続けたいらしい
残念ですが、ブログ主の猫は今日も睡眠休業中ネコぐぅぐぅ マイクは出ませんm(_ _ )m


☆☆☆☆彡

2.スケートで魅せる:パトリック・チャン、小塚崇彦、高橋大輔

競技会のスコアの中で、スケーティング・スキルの点数ほど不可解なものはない。定義されている要件は簡潔で、上手か下手かは会場で見ていれば一目瞭然にもかかわらず。スピード、スピードのコントロール、深いエッジ、巧みなエッジさばき。ジャッジはジャッジ席で何をしているのだろう。予め決められた点数を打ち込んでいるだけなのだろか。

パトリック・チャン小塚崇彦の演技を見る時、上体の腕、首、頭の動きから自然と目をそらしてしている時がある。見たくないというより、ウエストより下の部分の動きを見逃がしたくないから。緩急のついた滑り、あっという間にトップスピードに達する爽快感、これがスケートの魅力の基本にあるもの。

パトリック

スポーツであるという原点に立てば、パトリックの滑りは別格である。グイーンと弧を描きながら加速していく時の力強さは他の追随を許さない。深い傾斜とぶれない体の軸。これを見せてくれるだけで満腹、もうデザートはいらないくらい。
なぜ倒れないのだろう、なぜ加速できるのだろうと、人体の構造の限界を超えた技への驚きはスリリングでもある。たゆまぬ練習で磨き上げたスキルと筋力を、ほら凄いだろうと得意そうに見せるパトリック。滑る時にガシガシと氷を削る音が聞こえてくるが、これも効果音か、と思えるほど。

崇彦のスケーティングはパトリックに比べれば薄味になる。それだけ洗練されていると言えるかもしれない。よくツルツルという言葉で形容されるが、氷の表面を鋭利な刃物で削っていくような、制御する者の優越感が伝わる滑りである。バランスもエッジの角度も、計算通りに滑らせているからねと、こちらも得意げなスケーティング。さすがにサラブレッド、滑りに職人技が伝わっている。
振付師は自己満足のためでなく、崇彦の滑りために振付けて欲しい。音楽やリズムの方を彼のスケートに合わせて欲しい。ゲーム感覚と言ったらいいのだろうか。うまく支配できた達成感のような喜びを感じる滑りである。

パトリックも崇彦も北米型のスケーティングと言われている。驀進力と職人芸。受ける印象は異なるが、確かにカート・ブラウニングの姿が浮かんでくる。
勝者になり切れなかったパトリックの滑りに、憂い、哀愁のようなものが加わっていくかと思うと、心が躍る。勝者でなく覇者の滑りを。

崇彦、カート、ジェフ

史上最高の滑りの技術を持つと言われるカート・ブラウニング、さらにジェフリー・バトル。アイスショーではあるが、この2人とグループナンバーを滑り、スケーティングの技術の高さを見せた崇彦。玄人(くろうと)受けのする滑りと評されることが多いが、専門家であるはずのジャッジには分からないらしい。

パトリックと崇彦、共に腕、肩、首の動きにぎごちなさが見られたが、ここ1,2シーズンは素晴らしく良くなった。大変な努力を重ねただろうと思う。天性のリズム感に欠け、柔らかな手の動きに難があり、プログラムの表現の部分で不消化な感覚が残っていたはず。20代の大人になり感性に磨きをかけた成果なのかもしれない。拍手を送りたい。

記憶に残る滑りは、パトリックの『タンゴ・デ・ロス・エクシラドス』。バンクーバー五輪のシーズンに滑っていたので、まだまだ上体の動きがギクシャクしていた頃。ジョニー・ウィアーがパトリックの手はヒトデみたいと評していた時代のプログラム。でも、滑りの上手さは強烈な印象を残した。

崇彦

崇彦の滑りでは2012-2013シーズンの『栄光への脱出のテーマ』。上体の動きが格段に良くなったこのプログラムで、心安らかに彼の滑りを楽しんだ。スコアはもっと出るべきだった。

そして、高橋大輔。ここでも彼の才能は異なっている。エッジと氷の接触を巧みにコントロールするパトリックと崇彦の滑りでは、抵抗する対象を制御するといったテクニックを楽しめる。しかし、大輔の滑りでは氷と一体になり、対象物との境界が消えてしまっている。氷から浮いているようだと形容されることも多いが、時には熱いトーストにバターを塗るようにとか、ここでは氷が変質すらしてしまう。
高い技術があるからこそ到達したレベルと理解していても、彼には技術とは異なる何か特殊な能力があるのだろうか。音との一体感、氷との一体感。西洋音楽中心でありながら、日本的なものが潜んでいるのを感じる。道端の石にまで神を宿してしまう渾然一体の世界感。他者とは次元が異なる滑り。上手下手を論じるのは浅はかな行為かもしれない。

氷を削る音がしないのも大輔の滑りの特徴。「音をたてたら、氷のささやきが聞こえなくなるから。ほら、耳を澄まして!」とポエムりたくなるので自重、自重。

バッククロスで滑る時のフリーレッグの置き方も柔らかく氷に優しい。乱暴に踏んだら氷の花を傷つけてしまうから。あ、再度、自重。

大輔のチャイコン

虜になった大輔のプログラムは2005年の『ロクサーヌ』。手の動きが”やばかった”。スケーティングにみとれたのは次のシーズン『チャイコフスキー/ヴァイオリンコンチェルト』。氷面との接点が霞んでいる。20歳でこのエッジワークを見せるのは反則。滑りのスピードが速いとフェンスの広告が飛んで見えにくい。CM撮りには向かないかもと思ったのは余談。


パトリック、崇彦、大輔の滑りを同時に楽しむ機会はあまり多くない。ショーのフィナーレで、派手な腕の動きがないままスケーターが列をなして滑る時がある。そのような時、この3人の滑りは鮮やかに際立つ。ぼんやりした色の世界に、赤、青、オレンジの光がともっているようで。

モスクワワールド

画像は2011年モスクワワールド。フリー前の6分間練習。手前の2人が大輔と崇彦。奥にパトリックがいる。何と贅沢な時間。

提案がある。3人で6分間練習というのはどうだろう。スターズ・オン・アイスでいいかな、後半が開始する製氷直後のリンクで彼らが自由に滑るのをただ見ていたい。ライバル視線をチラチラ飛ばしながら、3人でその滑りを見せびらかして欲しい。至福の6分間になること間違いなし。
タイトルは「力と技と氷のささやき」。ダメだ、やっぱりポエムが出てくる。