ゆとり大学5年生 -8ページ目

ゆとり大学5年生

自分探しという名の現実逃避

このまま果てなく続くかと思われた金子の話は意外にも時間にして10分程で終わり、次にまた会う約束をとりつけて別れた。


社会人になって月日が経ったが、わからないことはまだ解決されない。

特に大手というわけでもなく、景気の波に左右されるため将来が決して保証されるわけではない職場。

社長の気分ひとつで人生が決まる不条理。

恐らく増えることのない給料。



こんな中でなぜ、みんな働いていけるのだろうか。


周りになんて怖くて聞けないこの疑問が久しぶりに胸につきささる夜となった。



こうした日の次の朝は決まって体が起きることを拒否するのが常である。

会社では5ヵ月前から一応、一人前として扱われている。

とはいっても、まだ何がわからないのかわからない状態で誰に何を聞けばいいのかもわからずそのままにすることが多々ありその度に怒られてばかりいる毎日だ。

同期はといえば、会社あがりの合コンにしか興味を持たず何を言われてもちっともこたえない今時珍しい肉食系男子と上司お気に入りの仕事一直線君の2人しかいない。

まぁ間に自分が入ってちょうどいいのかもしれないなんて思っていたが、この日でその認識は少し変わることとなる。



「おい相田、今ちょっといいか?」

こういう形で自分が呼ばれた後、いい思いをしたことがある新入社員は日本にどれだけいるだろう。

とはいっても感覚がほぼマヒしていた僕は何も考えずに上司のもとに向かった。


「この前、お前に修正かけさせたプロジェクトの行程表だけどあれから俺に見せないで回したの?」

あぁ、きたきた。もう何回も確認してもらって最終的に誤字をいくつか修正するだけのレベルまでになったから昨日の夜、取引先に渡したものだが何か間違いがあったらしい。

それからはどこかで聞いたことのあるような台詞が羅列されていく。

「俺、お前に言ったよな。」とかなんとか。


そして最後に「人と比べるのもあれだけど、お前の同期の越谷や関口は少なくともお前よりは責任感を持ってやってるぞ。」

と言われて今回のお説教は終わった。お説教は終わってもミスの回収作業はこれからである。

越谷はともかく関口よりも責任感が無いと評価されてることは、ミスをしたこと自体よりも僕の心に影を落とすこととなった。


ただそれも無理のない話であることは自分でも重々承知しているところである。

この環境でなぜみんな働いていけるのだろうか、なんて疑問を感じながら会社に入った新入社員にまともな仕事

が務まるわけながない。


自分が変わらないと何も変わらない。

月並みな言葉だが、日々それを痛感しながら変わるきっかけを探し続けているだけの哀れな生活を過ごしているのが今の僕である。

とは言っても、今の会社で腰を据えて仕事に取り組むという結論にはどうしてもたどり着けない思考回路を搭載しているのが僕のブレインであるらしい。


ただしこの日の上司の言葉はこんな僕を動かすに足るエネルギーを持っていたらしい。それが意図したベクトルかどうかは別の話だが。


僕は金子から来ていたメールに返信することにした。

「次の日曜の3時からなら空いてる」と。

そしてその勢いのままにパソコンのアドレスを開くと例のメールで来ていたなんとかビジネス塾とかいうところに電話をかけていたのだ。

携帯を耳にあてながら、入れていた予定をどう動かすか考えていた僕の耳に聞こえてきたのは気だるそうな中年男性の声だった。