ゆとり大学5年生 -10ページ目

ゆとり大学5年生

自分探しという名の現実逃避

学生の頃は何の苦もなかったものが社会人になると嫌になるのはよくあること。


メールやら飲み会やら数えるとキリがない。

その中の一つに繁華街がある。


あんな人ばっかりでうるさくて疲れる場所に、あの頃は何をどうして楽しさを感じていたのだろうか。

甚だ疑問である。


とはいえ、あの頃遊んでいた仲間と一緒にいると楽しかった思い出が蘇る点ではそう捨てたものではない。

大学のサークルで仲の良かった奴らと集まるのもこれでもう何回目だろうか。


最初は月1回、次第に2ヵ月に一回、最後にやったのはもう去年の10月のことだから・・・

なんて考えてもすぐにやめてしまう。全く意味のないことだから。


一応大学には野球サークルで通していたが、やっていたことは大学近くのファミレスでダラダラしたくらい。

実際に野球をした回数なんて、2年の頃ちょっとしたブームになったフットサルよりも少ないぐらいだ。


まぁそんなモラトリアムを画に描いたようなサークルで後に何か残ったかと聞かれても何も答えられない4年間だったが、社会人になってもまだ会える友人がいるだけまだ僕はマシかもしれない。

いつもどおりの近況報告、後輩の痴話話などで終わる同窓会。

ただその日がいつもと違ったのはその後である。


「なぁ弘樹、この後ちょっといい・・・?」

何気ない口調で僕にそっと話しかけてきたのは、メンバーの中でも比較的マジメキャラで通っていた金子であった。

マジメキャラと言ってもノリが悪いわけではなく、授業をサボる時も飲みに行くときも率先するわけではないが大体一緒についてくるような奴で、サークル内でもいわゆる良心的存在みたいになっていた。

決して顔は良いというわけではないが、そのお人よしに魅せられた(かどうかは知らないが)1つ下の後輩と付き合っていてもう1年と半年だったような気がする。


やることも特になく、時間の多くをファミレスで過ごしてきた僕は金子とよく会っていた。

それもあって僕に声をかけてきたのだろう。


せっかくだということで、いつも一緒に時間を過ごしてきたファミレスに入る僕らだったが店員が席を案内し終わるや否や金子が吐いた言葉は衝撃だった。

「俺さ、今の会社辞めようと思うんだ。」



確かに金子と僕は自分の勤めている会社の悪口で盛り上がることは多かったが、まさか本当に辞めるとは・・・。

金子の勤めている会社は中規模の印刷会社で、彼は営業をしていた。

とはいっても、仕事の内容について具体的に聞くなんて野暮な真似はしていなかったので彼が実際にどんなことをしていたのかは知らなかった。


「まだ一年しか働いてないから何もわかっていないって言われてもしょうがないけど、どうしても今の仕事場で働き続けても幸せになれる気がしなくてね。」

と言ったのを皮切りに語りだす金子の口ぶりは何故か軽やかだった。


「前にも話したけど、世の中ってサラリーマンと社長だけじゃないんだよ。派遣とかフリーターじゃなくてね。サラリーマンも社長も、何でお金が入ってると思う?自分が働いた価値に対してだよね。でも働いた価値って消耗品なんだ。それ自体が商品で会社や顧客に売られているんだよ。それで社会が成り立っていると学校では習っていたよね。」


「でも、それだけじゃないんだ。世の中には例え自分が働くことがなくてもお金が入ってくる人がいるんだよ。それもテレビで見るような人じゃなくてもっと身近に。僕もつい最近そういう人に会えて考え方が変わったんだ。別に宗教とかじゃないよ笑」


かつて何度も冗談を言って笑いあってたあの頃のように彼は笑顔だった。

ただ社会人として自分の意見を持っている彼が少し大人に見えたような気がその時はしていた。