ホラー、日向坂、2022 | 脚本家そごまさし(十川誠志)がゆく

脚本家そごまさし(十川誠志)がゆく

テレビアニメ、ドラマ、映画と何でも書くシナリオライターです。
24年7月テレビ東京系で放送開始の「FAIRYTAIL」新シーズンに脚本で参加しています。
みんな観てねー。

 

 今年の年末は寒い。

 大雪に見舞われている地域の皆様、どうぞお気を付けください。

 

 さて。

 今年2022年の私は、とにかく「忙しい」の一言に尽きた。

「デジモンゴーストゲーム」のシリーズ構成の仕事が、おそらくこれまで経験した事のないハードさで、実は一年を振り返ろうにも、仕事(と、その合間の模型作り)を除いてはほとんど記憶がないほどである。

 ホラーが最大の売りのシリーズなので、監督やプロデューサー陣と怖いネタをああでもないこうでもないと延々と考え続け、ようやく一話分のネタが決まると今度は「そのネタにふさわしいデジモンはどれか」と、今度はデジモン探しが始まり、膨大な既成デジモンの資料の中からぴったりなモノを見つけ出すのにこれまた時間がかかる。

 かててくわえて、その双方が揃って「じゃあようやく第××話の構成案(ごくざっくりとしたストーリー案)を文章化しましょう」という事になり私がそれを書くと、今度はその構成案についてまたも諸説紛々、各話ライター(私以外の参加脚本家の皆さん)に発注するまでにはまたもその構成案を練りに練り、なかなか発注まで至らない。そうして四苦八苦して何話分かの構成案をようやく完成させ、数人の脚本家に発注してホッとしたのも束の間、またすぐ次の数話分の構成案に取りかからねばならず、振り出しに戻って「第××話はどんなネタにするか」から始まり、以後上記の作業がまるで無限ループのように延々と続く。

 どなたかがSNSだったかブログだったかで、「今回のデジモンはシリーズ構成が自ら脚本を担当している回が少ない」とご指摘されていたが、その通りで、このような状況なので自分の担当回を書く時間がほとんど取れないのである。その代わりといっては何だか、全話について、私も含め監督やプロデューサー陣のストーリー作りはガチで反映されているから、私の直接の脚本担当回は少ないものの「ゴーストゲームの仕事はがっつりやってます」と胸を張って言い切れる自信は、ある。

 

 そして、仕事以外の事をほとんど覚えていないのにはこの「私たちの意思を全話にの細部に至るまで100%反映させる膨大な作業」が大きく影響していて、私がいつの間にか歳を取り、こうした過酷な作業に耐え得るだけの体力を既に持ち合わせていないという事。

 「ゴーストゲーム」を引き受けた時はその自覚がなかったのが大誤算で、血糖値のチェックで通っている医院で常に健康状態は確認しているから病気ではないものの、とにかく体力がついていかず、構成案を書き終えると倒れるように寝、起きてはまた書くの繰り返しを続けるのがキツい事この上ない。

 かつてはこの程度のキツさは根っからの「脚本書き大好き」故に全然苦にならなかったのだが、今では頭は冴えていて「次のシーンはこうだ」とちゃんと動いているのに身体がついていかず、途中思わず、「ええい、この際動く指先だけ残っていれば残りの身体パーツは要らない!」と思ったほどだった。

 

 一口にアニメの構成案といっても様々なタイプがあり、各話の内容をごく簡単な数行で書いたものもあれば、かなり詳しく書かれているものもあり様々である。これといった定型はない。

 私はいつもは「ほどほどに詳しい」程度に書くタイプなのだが、「ゴーストゲーム」に関してはそうはいかず、基本、既成のデジモンを使う以外は完全オリジナルで、しかもそれぞれの話の季節感も放送時期に合わせてある。「春のこれくらいの時期の放送だからこうしたホラー現象が起きると描写はこうなる。それをストーリーの展開に生かしてこうする」、「ゲストキャラの性格や行動原理はこうでこうだからこういう展開になる」という具合に、各話ライターに発注するまでに微に入り細にわたり詰めに詰める。それも、第一話から延々と続く全話に渡ってである。

 お陰で意表を突く展開の回の連続になり、比較的好評はいただいている様子でホッとはしているが、文字通り「身(体力)を削って構成案を作る」状態になっていて、これは今年還暦を迎えた老ライターとしては、さすがに体力の限界を超えた作業といえる。

 

 そんな私を助けてくれたのは同居女子と日向坂46の楽曲の数々だった。

 同居女子は、私が料理など全く作るヒマも体力もないので率先して作ってくれたり、せめて栄養がつくようにとあれこれ買ってきてくれたり、つまり、これまでは二人で分業していた家事を、彼女が一手に引き受けてくれた。そうでなければ、我が家は今年一年で崩壊していたかもしれない(大袈裟ではなく、本当にそんな状態だった)。

 もう一つは日向坂46の曲の数々で、これは前にも記事に同様の事を書いたのだが、私は俳優かイタコの如く各キャラになりきらないと脚本がすらすら進まないタイプで、しかもすらすら進まないと説対に面白い脚本が書けない。

 これは構成案を書く時も変わらない。たいていは何とかなるのだが、今回の「ゴーストゲーム」では、ヒロインにしてワルデジモンたちとのバトルにも及ぶ、中学1年生~2年生の月夜野瑠璃(つきよのるりと読む。物語が季節に合わせてあるので、第1話では1年生だった彼女は途中で2年生に進級する)というキャラの台詞が、どうも周囲に中学生の女子がおらず、彼女らが自然体でどうしゃべるのか実感がないために出てきづらい。

 そうした時、日向坂46の様々な曲をヘッドフォン内に大音量で流しっ放しにして書いていると、瑠璃が耳元でしゃべってくれているような錯覚に陥り、彼女が物語の中でどう動くか、どうしゃべるかが自然とすらすら書けるのである。

 「デジモンゴーストゲーム」はご存じの如くホラーだから、「ホラーを書くのに日向坂?合うの?大丈夫?」と思う方もいるかと思うが、曲調の明るい暗いは関係なく、私はこの、瑠璃の台詞が事前に湧き出てくる状態を作り出すためだけにひたすら聴き続けながら書いた。これも前に書いたかもしれないが、構成案や脚本を書く時は私にとってはリズム、テンポが最も大切で、途中で台詞が出てこずつっかえてしまう事態はどうしても避けたい。そうするとそこから途端に調子が悪くなってしまうからだ。それを避けるには、「自然に出て来づらい中学生女子の台詞問題」を克服せねばならず、日向坂46の楽曲はその意味で私を最大限に助けてくれた。

 

 この場をお借りして、日向坂46のメンバーの皆さん、彼女らのアルバム作りに携わった全てのスタッフの皆さんに最大限の感謝を申し上げる次第。これらのアルバムがなければ「デジモンゴーストゲーム」は一話たりとも完成しなかったと言えるほど助けになった。

 本当に、ありがとうございました。

 

 という内容の話を、忙しい仕事の合間に同居女子と食事をしながらしたら、彼女が言った。

「ふーん……って事は、わたしもアイドルと同じなんだ。やったー」

 相変わらず、予想の斜め上をいく反応をする人である。

 

 と、こんな具合に今年は過ぎていった。

 来年はどんな年になるか想像もつかないが、相変わらず私は脚本を書き続け、同居女子とともに何だかんだと難局を乗り切っていくのだろうと思う。体力が衰えていくのは避けられないから、これからますますそうならざるを得ないな、などとも思いつつ。

 

 このブログをご愛読していただいている皆様。

 今年も相変わらず更新が少なく申し訳ありませんでしたが、何しろ上記の如き状況の一年でしたのでどうぞご容赦ください。

 仕事が一段落したら、もう少し更新を増やしていきたいと思っています。

 

 それでは皆様、どうぞよいお年をお迎えください。