The summertime of an old man | 脚本家そごまさし(十川誠志)がゆく

脚本家そごまさし(十川誠志)がゆく

テレビアニメ、ドラマ、映画と何でも書くシナリオライターです。
24年7月テレビ東京系で放送開始の「FAIRYTAIL」新シーズンに脚本で参加しています。
みんな観てねー。

 

 お盆休みを間近に控え、皆さん、いかがお過ごしだろうか。

 

 私は相も変わらず毎日忙しく、仕事の合間のごく短い時間に模型を作ってストレス解消をする日々である。最近気づいたのだが、模型の小さなパーツをいじっている間は仕事の事をまるで考えていない様子で、それは裏返せば模型でも作っていないと仕事がハードで精神的均衡が崩れる、という状況を意味する。

 我ながら、この歳にしてなかなかにハードな仕事を引き受けたものだ。

 

 「この歳」といえば。

 私は今年の10月、あと二ヶ月弱で60歳になる。世に言う「還暦を迎える」というやつだ。自分ではおじいさんになった気分は全然しないのだが、子供の頃に持っていた「還暦」という言葉の響きは、イメージとして明らかに「おじいさんのイメージ」だったのも確かだ。

 人間、いつの間にか歳を取るものだと、実感している。

 

 世の中はどうかといえば、感染者数が高止まりしてしまい、連日記録的な猛暑が続き(これは世界的にそうらしい)、ロシアがウクライナに侵攻して既に五ヶ月が経ち、にも関わらず停戦の道筋は未だ立っていない。

 未来予測ほど困難なものはないと常々思っているのだが、子供の頃と言わずとも、ごく数年前まで、2022年の夏がこんな状況になっているとは夢にも思わなかった。それは皆さんも同様だと思う。

 

 年齢に関して、今、一つ悩ましい事がある。

 先週末に新宿区役所から、四回目のワクチン接種券が届いた。

 同封の説明によれば、新宿区の場合、60歳以上の人、60歳以下でも基礎疾患のある人、医師が「この人は感染すると重症化する恐れがある」と判断した人は四回目の接種を今すぐ予約して受けられる事になっている。

 ところが、その説明にはこうもある。

「これらの条件に当てはまらないと判断された人は、四回目の接種はできません」

 私は思わず「……」と沈黙してしまった。

 

 区の説明によれば、とりあえず三回目の接種を終えて五ヶ月以上過ぎた人には、この四回目の接種券を全員に送った、よって、条件に該当しない人も出てくる可能性があると書かれている。

 私は今年の二月に三回目の接種をしたから、「五ヶ月以上」の条件は満たしている。だが、ぎりぎり60歳手前で、後二ヶ月弱、晴れて還暦になるのを待たないと接種の申し込みができない。

 さらに、以前からこのブログに「血糖値が上がりやすく、抑制する薬を飲んでいる」と書いているが、この薬は今年の初めにとっくに卒業していて、つまり、血糖値が上昇する事なく安定し、普通の人と同じ基準が維持できるようになったので、もう薬は飲んでいない。だが、念のため再発を警戒して、まだ月に二回通院はしていて、血液検査で血糖値のチェックはしている。

 担当医師(この先生は糖尿病が専門の医師)によれば、

「十川さんは、もう問題ないですね。あとは、しばらく定期的に血液検査をしていれば大丈夫でしょう」との事だ。

 だとすると、「60歳以下でも、基礎疾患のある人」にも微妙に当てはまらない。

 よって、連日感染者数が増え続けるこの夏、仕事が忙しくてほとんど外出しないからいいようなものの(もし感染がなくてもあまり外出はしないのだが)、「あと二ヶ月は四回目の接種を待たなければならない」という、何とも悩ましい状況に置かれている。めったやたらと外出好きの同居女子が、いわゆる「マン防」終了後、「それっ」とばかりにあちこちに行っているので、彼女が無症状のままおみやげと一緒にウイルスを持ちかえらないとも限らない。

 

 そんな、どことなく割り切れないような、「あと二ヶ月なんだからおまけして接種して下さいよ~」なる気分になり、しかしどうも無理っぽいので、仕事の合間にその何とも微妙な気分のまま、上の写真のような強烈な暑さの空を眺めたりしている。

 相変わらず毎日近所(マンションの真ん前なので徒歩一分以内)のスーパーに食材を買いに行くは行くが、このスーパー、24時間営業で歌舞伎町の隣のブロックにあるせいなのかどうか、昼間は極端にお客さんが少なく、あれではマスクや消毒さえ怠らなければ感染はまずしないだろうなと思う。

 しかしそう思った途端、今度は「あと二ヶ月先か……」と、接種券が届いているにも関わらずギリギリ条件を満たせず予約ができないもどかしさも感じ、スーパーでカートを押しながら、知らず知らずのうちに一人で「うーむ」と唸ってしまっている瞬間もある。知らない人が見たら、さぞ怪しい人物に見えるに違いない。

 

 かと思えばそんな「うーむ」な気分の最中に、去年から始めたインスタに外国人フォロワーからのDMが結構きて、つたない英語でやりとりをしていると、最後には必ず「あなたのLINEを教えてほしい。インスタのDMだと会話がしづらいから」と言われる。

 ところが私はLINEをやっていないので(ダウンロードすらしていない)、そう正直に返事をすると、「日本人なのにLINEやってないなんてありえない!」とか、「じゃ、TikTokは?」とか、SNSツールのうち何を使えるのか質問攻めにあったりする。「Facebookとインスタだけです。私は昔から必要と感じない物は使わない主義ですので。ごめんなさいね」と英語で送ると、ほぼ100%、その人からは二度と連絡は来なくなる。中には詐欺や怪しい人物からのDMがあるのだろうから、ブロックしたりして注意はしているが(今のところ変な被害にはあっていない)、それにしても「日本人なのにLINEやってないなんてありえない!アンビリーバボー!」という英語には笑ってしまった。

 世の中が、というか世界中が、SNSに浸食されている証なのだろうなぁと、これも仕事場の窓からいかにも暑そうな夏空を見上げながら考え込む。

 

 知り合いの中国人に前に聞いたところによれば、中国では60歳以上は一般的に「老人」と見なされるそうなので、もし私が中国人なら、二ヶ月後には中国基準では「おじいさん」という事になる。

 別に嫌な気はしないが、さりとてあまりいい気分でもない。近頃仕事ちゅうに目に見えて体力が落ちてきているのだけはわかっているので、なおさらである。

 

 そんな、暑くて、かつ微妙に(私にとっては)鬱陶しい夏が毎日通り過ぎていく。

 

 案外こんな気分が、60代を間近に控えた今の平均的な日本人の抱く平均的な感覚なのではなかろうか、と思うがどうだろう。

 

 それにしても、私のインスタにDMを送ってくる外国人の皆さん。

 私がLINEをやっていないからといって、過剰に驚くのはやめてくださいね。

 

 あれは衣食住と違って、なければないで済んでしまうものなのですから。苦笑。