ヒロN式! -118ページ目

ヒロN式!

「メイド喫茶元オーナーが書いた女の子の取扱い説明書」
の著者・ヒロNが綴る毎日のよしなしごとです。

第41話「ブルーデイ・ブルース」



ヒロN式!

窓際の席は空いていなかった。

日曜日の昼過ぎはどの喫茶店も混んでいた。

彼も彼女も、二回の壁一面がガラス張りになった、

その喫茶店の窓際の席が好きだった、

二人で二日酔いの朝を迎えた日などは、一杯のコーヒーで

午前中の半日を飽かず、外の人波を見ながら過ごしたりした。

残念なことに、その日は、昨晩、お互いに用があったので、

正午に駅で待ち合わせる破目になった。

朝、うつ伏せに眠っているところに、彼女が電話をかけてきて

無理やり約束をさせられたのだ。

駅で待っていた彼を見ても、彼女は、さしてうれしそうな顔をしなかった。

何か用があったの?と訊いても、別に。と答えただけだった。



窓際が空いてない、と言うと、彼女は、表情を硬くした。

若いウェイターは、すまなそうに、中側の席でしたら、と言い、

手を擦り合わせた。

彼は、彼女の顔を覗き込んだ。

彼女は、こわばった表情のまま、かぶりを振った。

彼は、ため息をつき、店を出た。

次の店は、やはり満員で、相席しか空いていなかった。

少しお待ちいただければ、という店員の言葉に、彼女は、首を振った。

その次の店では、テーブルがテレビゲーム仕掛けになっているのが

気に入らないと言った。

映画を観ようというと、観たい映画がない。と言った。

マンハッタンが上映されていると言うと、

きっと混んでいるからいやだ、と言った。

さほど混んでいないようだ、と映画館の入り口を指差すと、

とにかく映画は観たくないのだ。と駄々っ子のように言って、

彼女は、さっさと先を歩き続けた。

結局、彼は、彼女に一日付き合わされた。

彼は、疲れ果てて、公園の並木道のベンチに腰掛けた。

彼女は、立ったまま、彼を見下ろしていた。

体調が悪い日なんだろう、というと、彼女は、困ったような

顔をして、目をそらせた。

彼は、来ていた薄いコートを脱いで、すっぽりと、頭から、

彼女を包んだ。

そんな顔を見せると、後で後悔するよ。というと、

彼女は、小声で、ごめんと呟いた。



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第38話「ピーカブー」



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デスクの引き出しをひっくり返すと、いろいろな小物でデスクの上がいっぱいになった。

彼は、あまりそういうことが好きではなかったのだが、ある日、とうとうデスクの引き出しが物で詰まって開かなくなってしまったのだった。

小物をぶちまけると、会社の女の子が、物珍しそうに寄ってきた。

彼は、構わず、全ての段の引き出しの中身を、順にひっくり返していった。

デスクの上は、山になり、鉛筆やガラクタが転がった。

彼は、手をはたき、雑多なものから、必要なものと必要でないものを選り分けた。

ガラクタの山から、面白いものが出てくると、そこで手が止まってしまうので、

整理は、なかなか終わらなかった。

彼は、ガラクタの中から、小さな自転車のおもちゃを見つけた。

ブリキの丸っこいぜんまい仕掛けのおもちゃだった。

なぜ、そこに入っていたのか、彼には見当もつかなかった。

彼は、それを握り締めてみた。丸っこい冷たい感触が快かった。

彼はぜんまいを巻いてみた。

ぜんまいは、うまく巻けず、無理をして、力を込めると、途中で、鋭い音がして

切れた。

彼は、急に夢から醒めたような気分になり、それを引き出しの奥にしまいこんだ。

彼は、しばらくして、一年前も同じことをした、と気がついた。





第39話「ラスト・タイフーン」



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窓を開けたまま眠っていたら、急に風が頬をなぶり、彼は目を覚ました。

レースのカーテンがはためき、突風が吹き、部屋の中のこまごましたものが

バタバタと倒れた。

彼は、起き上がり、窓を閉めた。

閉めるか閉めないかのうちに激しい雨が、ガラス窓を叩き始めた。

一息ついて、ラジオのスイッチを入れると、男のアナウンサーが、台風の

上陸を告げていた。

台風は、八丈島の北から、房総半島と東京を直撃する格好になっていた。

すざましい雨音が休みなく続き、ラジオの音量も大きくしなければならない

ほどだった。

アナウンサーは、今度の台風がいかに強力かを長々と説明していたが、

なによりも、外の雨音が、それを雄弁に物語っていた。

彼は、アルミサッシの窓にロックをかけながら、部屋を暗くして、外を

見つめた。

雨滴は滝のようにガラス窓を伝い、流れ、外の景色をひどく無邪気にデフォルメ

していた。

何も見えない。と彼は思った。

いつも、この窓から外を見るときに、目に入る赤いネオンの広告も、今は、

ぼんやりと見えるだけだった。

雨足が間歇的に弱くなると、風が強く吹いた。ゴウという音がアルミサッシ

を震わせた。

彼は煙草に火をつけ、ベッドの上で、あぐらを掻き、寝酒のウイスキーを取り出し、

口をつけて、ラッパのみした。

彼は、もう今夜は、目が冴えて、眠れないだろうと思った。

彼は、ゆっくりと十月の台風を楽しむ気になっていた。


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メイド喫茶をやるまでは、全然そんなふうに

思わなかったのだが、今の若い女の子って

いうのは、「何になりたい」とか「こうなりたい」

っていう意欲がとても高い。


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男子の方が、ちょっといじけ気味で、

「まあ、今の生活が維持できればいいんです」

とか言っているのに対して、女の子は、

「あたし、今のままではダメなんです」

「あたし、将来こうなるために頑張っているんです!」

って目をきらきらさせて言う子が多かったな。

実際、自分の夢の実現のために、

一生懸命努力している子も多かった。


頼もしいぞ!女の子!


だから、僕は、今度仕事をやる時には、

男子じゃなくて、女の子と仕事がしたいな。

変な意味じゃなくてね。


女の子は、「自分の夢の実現のために

今、頑張ってるんだ!」と思うと、

本当、すごく一途に頑張るしね。

ほんと感心してします。


逆に、そういう女の子達の意欲に応える、

女の子のやる気を引き出す!

そういう大人でなくちゃならないな、

と思う。


今、僕は、ちょっとお休み中だけど。


そのうち頑張るよ。僕も。


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ルフィは、オレは海賊王になる!

と言った。

ルフィは、グランドラインを超えて、

海賊王になれるのか?


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ワンピースがなぜ面白いのか?

それは、いろいろな要素があるが、

僕は、ルフィが海賊王になると、

明快に目標を掲げている点が

大きいと思う。

いまどき、明快に、なんとかになる!

とか、かんとかを実現する!

とか胸を張って言えるケースは少ない。

だから、ルフィは、それだけで、

なんかスカッとするのだ。


で、海賊王ではなく、失敗王の僕は、

いろいろ失敗を重ねてきて、

この体たらくである。



しかし、僕も、ただ失敗を重ねてきた

訳ではない。

そこから学ぶことも多い。

そして、僕が、掴んだ人生における

失敗の原因、輝ける第1位を発表します。



それは、「信じてはいけない人を信じて、

信じなくてはいけない人を信じなかった」

ということ。

これに尽きる。

人間は、実に、この点でよく失敗をしている。

偉いヒトでも、実によく失敗しているなあ。



人の判別は、実に難しい。

さらに、ヒトは心変わりしてしまう。

最初は、信じるに足る人物が、

いつの間にか、信じてはいけない人物に

変わってしまうこともある。

(その逆は、あまりないけど)



僕も、信じてはいけない人を信用して、

よく失敗したもんだ。

今も、そういうヒトの見分けについては、

自信ないなあ。



だから、そういう失敗をしないためには、

ヒトを信じなきゃいいって発想もある。

でも、なかなかそれに徹することは、

難しいんだな。

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第37話「セプテンバー」



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頭だけを海面に出すと、波は思いのほか強かった。

彼は岸の方を見た。

岸には、色とりどりの服を着た釣り人たちがいた。

波に揺れながら、ダイビングウォッチを見ると、2時半を回っていた。

タンクのエアは、もう30気圧を切っていた。

潜り足りなかったが、帰るしかないと思った。

彼は、もう一度、岩だらけの磯を眺め、ため息をついて、レギュレーターの

マウスピースを咥えなおした。

息を吐きながら、手であおると、徐々に頭が潜っていた。

8メートルほど、降下していくと、灰白色の砂浜の上に赤いウェットスーツが

見えた。長い髪が、潮で踊っていた。

彼は砂煙を立てないようにフィンの動きを止めて降下した。

赤いウェットスーツの腕に、彼のフィンの先が当たった。

彼女は、驚いて、身体を震わせて、マスクをつけた顔を巡らせた。

彼女の脅えた眼と彼の視線が合った。

彼は、彼女の二の腕を取った。

彼女は、彼に抱きついてきた。彼も彼女を抱きしめ返そうとしたが、背中や胸に

ついた装備が邪魔をして上手く行かなかった。

彼はマウスピースを咥えたまま、彼女の二の腕を取り、頬をつけた。

彼女は、やや落ち着きを取り戻した。

向き合った姿勢で静かに上昇した。

泡より早くならないように、そればかりを気にした。

彼女の顔は、マスクのガラスが反射して、よく見えなかった。

見上げると、水面越しに傾いた太陽の力を失くした輝きと、淡い空の色が広がっていた。

秋の空だ。と、彼は上昇しながら思った。


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