第41話「ブルーデイ・ブルース」
窓際の席は空いていなかった。
日曜日の昼過ぎはどの喫茶店も混んでいた。
彼も彼女も、二回の壁一面がガラス張りになった、
その喫茶店の窓際の席が好きだった、
二人で二日酔いの朝を迎えた日などは、一杯のコーヒーで
午前中の半日を飽かず、外の人波を見ながら過ごしたりした。
残念なことに、その日は、昨晩、お互いに用があったので、
正午に駅で待ち合わせる破目になった。
朝、うつ伏せに眠っているところに、彼女が電話をかけてきて
無理やり約束をさせられたのだ。
駅で待っていた彼を見ても、彼女は、さしてうれしそうな顔をしなかった。
何か用があったの?と訊いても、別に。と答えただけだった。
窓際が空いてない、と言うと、彼女は、表情を硬くした。
若いウェイターは、すまなそうに、中側の席でしたら、と言い、
手を擦り合わせた。
彼は、彼女の顔を覗き込んだ。
彼女は、こわばった表情のまま、かぶりを振った。
彼は、ため息をつき、店を出た。
次の店は、やはり満員で、相席しか空いていなかった。
少しお待ちいただければ、という店員の言葉に、彼女は、首を振った。
その次の店では、テーブルがテレビゲーム仕掛けになっているのが
気に入らないと言った。
映画を観ようというと、観たい映画がない。と言った。
マンハッタンが上映されていると言うと、
きっと混んでいるからいやだ、と言った。
さほど混んでいないようだ、と映画館の入り口を指差すと、
とにかく映画は観たくないのだ。と駄々っ子のように言って、
彼女は、さっさと先を歩き続けた。
結局、彼は、彼女に一日付き合わされた。
彼は、疲れ果てて、公園の並木道のベンチに腰掛けた。
彼女は、立ったまま、彼を見下ろしていた。
体調が悪い日なんだろう、というと、彼女は、困ったような
顔をして、目をそらせた。
彼は、来ていた薄いコートを脱いで、すっぽりと、頭から、
彼女を包んだ。
そんな顔を見せると、後で後悔するよ。というと、
彼女は、小声で、ごめんと呟いた。
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