連載掌編小説「彼のコンセプト」⑯ | ヒロN式!

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「メイド喫茶元オーナーが書いた女の子の取扱い説明書」
の著者・ヒロNが綴る毎日のよしなしごとです。

第37話「セプテンバー」



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頭だけを海面に出すと、波は思いのほか強かった。

彼は岸の方を見た。

岸には、色とりどりの服を着た釣り人たちがいた。

波に揺れながら、ダイビングウォッチを見ると、2時半を回っていた。

タンクのエアは、もう30気圧を切っていた。

潜り足りなかったが、帰るしかないと思った。

彼は、もう一度、岩だらけの磯を眺め、ため息をついて、レギュレーターの

マウスピースを咥えなおした。

息を吐きながら、手であおると、徐々に頭が潜っていた。

8メートルほど、降下していくと、灰白色の砂浜の上に赤いウェットスーツが

見えた。長い髪が、潮で踊っていた。

彼は砂煙を立てないようにフィンの動きを止めて降下した。

赤いウェットスーツの腕に、彼のフィンの先が当たった。

彼女は、驚いて、身体を震わせて、マスクをつけた顔を巡らせた。

彼女の脅えた眼と彼の視線が合った。

彼は、彼女の二の腕を取った。

彼女は、彼に抱きついてきた。彼も彼女を抱きしめ返そうとしたが、背中や胸に

ついた装備が邪魔をして上手く行かなかった。

彼はマウスピースを咥えたまま、彼女の二の腕を取り、頬をつけた。

彼女は、やや落ち着きを取り戻した。

向き合った姿勢で静かに上昇した。

泡より早くならないように、そればかりを気にした。

彼女の顔は、マスクのガラスが反射して、よく見えなかった。

見上げると、水面越しに傾いた太陽の力を失くした輝きと、淡い空の色が広がっていた。

秋の空だ。と、彼は上昇しながら思った。


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