「人生成り行き」 | リズム & ブルース・リー

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雨音も、グラウンドを転がっていくボールも、心臓の鼓動も
一定のリズムを刻んではやがて終息する
リズムは儚く、狂おしく、時に切ない
また「甘美」とは、そういうものなのだろうと私は思う

小学生高学年の時、登校した直後に算数の宿題を忘れたことに気づいた

 

スパルタ式で名高い進学塾に通っていて、クラスで一番勉強が出来るAくんに‘ボク、宿題忘れちゃった。Aくんはやってきたよね?見せてくれる?’とお願いした

 

Aくんは‘ちょっと待っててね’と言い、しばらくすると私が座っている席に宿題の答えが書かれたノートの切れ端を持って来てくれた

 

何だか難しい計算式だなぁ~と思いつつ、一生懸命その宿題を自分のノートに書き写して私の宿題は完成した

 

後日、私は担任の女性教師に呼び止められた

 

「カッツくん、この前カッツくんが提出した宿題なんだけど、あれはAくんの宿題を写したよね?

 

あの計算式はまだ授業で教えてなくてね、同じ計算式を使って答えを出したのはカッツくんとAくんだけなの

 

ただ・・・Aくんの答えは合っててカッツくんの答えは間違ってたけどね(笑」

 

驚愕したびっくり

 

当然‘どういうこと?’とAくんに詰め寄ったブ~・・・(車)。

 

Aくんの返答はこうだ

 

 

「宿題は自分でやらなきゃダメだろ?そういうことをカッツくんにわかって貰うために、自分はああしたんだよ」

 

つまりAくんは色々なことを見越した上で私に宿題を写させた、と言うのだ

 

しかもわざと間違った答えを・・・

(計算式が初見なんだから答えが違うってこともわかるはずないよね?笑)

 

Aくんの言うことは正論過ぎて、その場で何も言い返すことが出来なかった

 

今でもあの時のことを思い出すと、私は小っ恥ずしくて顔が赤らんでしまうえー

 

11月21日、噺家の立川談志さんが亡くなった

 

談志さんの十八番(おはこ)は‘芝浜’だと言うファンの人は多い

 

私の場合、談志さんの演目の中で一番好きなのは‘鼠穴’だ

 

‘鼠穴’、ご存知だろうか?

 

簡単にあらすじを説明すると・・・

 

 

親の遺産を分け合った兄弟のうち、兄は江戸へ出て商人コインたちとして成功したが

弟・竹次郎は博打、酒日本酒、女お母さんで遺産を散財してしまう

 

困り果て、兄を頼って江戸へ出て来た弟・竹次郎に兄は商売をすることを勧め、商売の元手となる金を貸す

 

しかし・・・兄が竹次郎に貸した金はわずか3文のみ(現代の30円くらい)ガーン

 

一度は兄の‘ケチ具合’に激怒ムカムカした竹次郎だったが怒りを力に替えて奮闘しブ~・・・(車)。

 

10年後には深川蛤町に蔵を3つ持つ立派な商人になる

 

ある風の強い夜、竹次郎は兄に借りた3文と5両(利息&謝礼)を持って兄の家に向かう

 

風が強いので火事を警戒しつつ、蔵の鼠穴のことを気にしながら・・・

 

10年ぶりに顔を合わせた兄は、10年前にどうして3文を渡したのか?

 

そのことを竹次郎に説いて聞かせるブ~・・・(車)。

 

‘あの時、3文の銭さえ貸しても無駄だ。仮に元手を5両貸すとしよう

 

腹に酒が浸み込んでるお前に5両貸しても、あと3両あればいいだろう、あと2両、1両あればいいだろう

 

そう言って使い込むに決まってる、ザルに水だあせる

 

だから3文貸した、あとからまた借りに来たらそれはそれで考えようと思って見ていた

 

だが来ないな、いい度胸してるな、10年だ、深川蛤町に間口6軒半、蔵が三戸前(3つ)ブ~・・・(車)。

 

見事ビックリマーク

 

そういうワケだブ~・・・(車)。

 

だが竹、許せるもんなら兄貴を許さないか?’と

 

竹次郎は兄の話を聞いて感極まる

 

酒が用意され、酒宴となった日本酒

 

強い風、火事、鼠穴が気になって泊まることを拒否する竹次郎に、兄は‘火事で焼けたってどうってことない、焼けたらオレの財産をすべてやる、オレが番頭になって商売すればいい’

 

その言葉に安心して寝付いた深夜、深川蛤町の竹次郎の家が焼けてしまう炎(Θ_Θ)

 

蔵も鼠穴から火が入って3つとも焼け落ちた炎

 

また商売をしよう、やり直そうと思った竹次郎は再び兄の元を訪ねるが、兄は竹次郎を冷たく突き放すブ~・・・(車)。

 

憤慨、憤怒、腹わたが煮えくり返る思い、そんな竹次郎の気持ちを見越したかのように、竹次郎の幼い娘が言う

 

‘吉原ってとこに私が行けば、ご商売の元のお金が出来るんでしょ?

 

私がほんとの女郎さんになる前に、おとっつぁんが迎えに来ればいいんでしょ?’

 

50両だブ~・・・(車)。

 

竹次郎の娘は50両の金に代わった

 

だが・・・

 

その大切なお金を竹次郎は吉原大門を出た直後にスリにすられてしまう

 

絶望した竹次郎は松の枝に着物の腰紐を掛け、首を吊る

 

苦しい、唸る、( ゚д゚)ハッ!と目が覚める

 

酒宴の後、寝入った兄の家だ

 

夢か現実かまだ半信半疑な竹次郎は、今まで見ていた夢を兄に話す

 

「おお、いいよ、火事の夢は燃え盛るって言って春から身代大きくなるよ」

 

「俺はあんまり鼠穴が気になってたから・・・」

 

「おお、夢は‘土蔵’の疲れだ」


(もちろん、この噺は夢オチなどではなく、‘夢は土蔵(五臓)の疲れ’が下げだ)

 

生前、立川談志さんは「落語とはイリュージョンである。落語とは人間の‘業’の肯定である。」とおっしゃっていた

 

また、鼠穴の枕では「‘成り行き’なんじゃないですかねぇ~人間はあとから意味を付けたがるもんですから」ともおっしゃっている

 

 

1 3 5 7 9 10 13

 

この数字は何?と問うと、大体の人は2づつ増えていき・・・とか

 

奇数が・・・とか、隣の数字との間に法則性を見出そうとするらしい

 

‘右にいくに従って数が増していく’が正解だそうだ(笑

 

意味を付けたがる、それが人間の業なのだろう

 

竹次郎の兄は本当に竹次郎のことを考えて3文を渡したのか?

 

単にケチだから大金を渡すことが嫌だっただけなのではないか?

 

Aくんは本当に私のことを考えて間違った答えを書かせたのか?

 

宿題を忘れた私に対して、少し意地悪なことをしてやろうと思っただけではないのか?

 

竹次郎の兄はケチでAくんは意地悪だった

 

うん、確かに、人間の業とはそういうものだよ、と理解してしまった方が私にはシックリとくる(笑

 

また大きな存在を失ってしまった

 

そのことは落語ファンにとってと言うより、私にとってと言うより

 

日本人にとって大きな痛手で損失だと思う

 

ちなみに‘人生成り行き’とは立川談志さんの座右の銘だ

 

人生には最善を尽くした後、成り行きに任せなければならない場面がある

 

そうしないと上手くいかないからだ

 

落語を通じて、談志さんの人生を通じて、今までたくさんのことを教えて頂きましてどうもありがとうございました

 

 

立川談志大師匠のご冥福を心からお祈り申し上げます。