1月から入院していた母親なんだけどね
食事が食べられなくなってからは
点滴だけで命を繋いできたんだけどね
とうとう
体が点滴すら受け付けなくなってね
点滴は止めた方が
母親は楽になるって
そう思っていたからね
先生にそれでいいですって即答したの。
ずっとこれまでも
母親に優しく丁寧に接してきてくれて
本当に感謝していますって
心からお礼をしてきたの。
周りにいた看護師さんたちも
神妙に聞いてくれていたの。
ぼくはね
母親に
苦しまずに穏やかに最後を迎えてもらいたいんだ。
ぼくはね、
お母さんが大好きなんだよね。
母親は88歳。ぼくは62歳。
あれ…改めて数字で見ると歳を重ねているんだなぁ…あははは〜汗。
ぼくは中学生の時に部活で剣道をやっていたの。
ま、結局大学まで剣道を続けたんだけどね。
でね、中学3年で最後の地区の中体連があったのね。
団体戦の決勝で、勝負がつかなくてね、ぼくが代表戦に出たの。そして負けた。
ぼくが負けたせいで
優勝出来なかったの。
誰もぼくを責めなかったのが
またつらかった。
どうやって家に帰ったのか覚えてない。
家に帰ると母親がいたの。
「おれね、今日ね、負けてしまったよ…。」
すると母親が
「知ってるよ。」
って言うの。驚いた。
「え?なんで知ってるの?」
「だって
見に行ったから。
わからないようにそっと隠れて
見ていたの。」
ぼくが中学生の頃ってね、今と全く違って、親が応援に来るなんてなかったんだよね。
ぼくがね
「負けた姿を見られてしまったか…。」
って呟いたの。
そしたらね、母親がね
正道が
凛とした姿で
一生懸命に
戦っている姿を見てね
母さんは
鳥肌が立ったよ。
かっこよかったよ!
って言うの。
これまでもずっと寝たきりで
体をほとんど動かすことができないのに
意識はしっかりあって…
ぼくらの話しかけに頷いたりしていたの。
体が動かないまま
目を閉じて話せない状態で
でも意識だけはしっかりしていて…
こんな状態だとね…
ぼくだったならね…
もう早く死んでしまいたいって
そう思ってしまうかもしれない。
それでも母親は
どんな状態であろうとも
最後まで見事に生き切ろうとしている。
そんな母親の姿に
ぼくはものすごく胸が熱くなるんだ。
素晴らしい生き方を
見せてもらっている。
やっぱりね
ただただ生きるってことが
そのことだけで
本当に素晴らしいことだって
母親は見せてくれている。
がんばって生きてくれているから
ぼくたちは
親孝行チックなことを
させてもらえている。
ぼくなんか
跳ねっ返りな息子だったから
母親にかなり大変な思いをさせたので
その罪滅ぼしもさせてもらえている。
弟と妹とぼくは
兄弟仲がとっても良いけど
今、
母親の面会やら何やらで
さらに仲良く信頼し合うようになっている。
これも
最後の母親の愛だよね。
最後の最後まで
明るく楽しい人らしく
ぼくたちに
あったかいものを伝え残してくれている。