忘れられた誕生日 

噛み合わない会話

 おもしろい返し


ロマンス詐欺



そんな世にもくだらない現実が

アラフィフの恋愛事情には

多分に含まれるということである。




ホワイト・デイとは

クッキーを返すものだと

思っていた



それが、

ショコラをクッキーだと思い込んだ理由なのだと彼は言う。


俺だけじゃない。」


そうも言うけど

私は彼から、一度たりとも

クッキーをもらったこと記憶はない。


ドンックラッカー爆弾爆弾音譜


「昨年、何をくれたか
覚えている?」とラインで聞きながら
圧をかけないように

チョッパーまで入れて差し上げたが
いまだ未読である。


いろいろな意味で都合が悪い
のかもしれない。

「試されるのは嫌いなんだ」

そんなおもしろくない返信がきたとき
私達は、また互いに

恋人のいないアラフィフに戻る。



会話の流れを絶たないように気をつけながら、私は切り出した。


「昨年、なにをくれたか覚えている?」


あぁ、う〜ん。

それは、


ラインのあとも考えていたんだけど


「クッキーじゃなかったってことだよね?」


慎重に、彼はそう答えた。


文脈を読む


基本的なコミュニケーション力に

問題はないのだろう。




なんだったかなぁ。

思い出せないんだ。


予想があたった。。。


思案する彼の前に

もう、チョッパーは現れない。






人類の進化は一度きり 今いる猿たちがニンゲンになるわけではない。



山極寿一は

「ゴリラの本」のあとがきで、そう言った。



チョッパーが現れるのも

イチドキリ



「いやぁ、なんだったかなぁ。」


幼き頃の長男やりくのように一生懸命に考える彼に、私が出したヒントは


「とても喜ばれるものだよ。」

「クッキーよりもオシャレなもの」

「職場で配れば人気者」


そういう私の脳裏に

二重3歳だった長男の

名言が浮かんだ。







する側にとっては些細なことが 

される側にとって 

たまたま

助けになったとき 

それは、親切という行為になる。 

 二重3歳 長男



あれは、たまたまだったのだろう。


ショコラをくれる数日前に

振る舞ってくれた

手作りケーキのようなもの


「子どもらに、もういらんって

言われちゃって」




気前の良い私は

男気のある男性を真似て、さらに

「ケーキセットもいかがですか?」


ヒントを出した。



「すごく、身近なものだよ。」

「地元では密かに有名なものだよ」


わかった!!


顔を輝かせて、彼は言った。


〇〇いも

!!






私の地元には

こういう見た目の銘菓がある。


昭和のお茶請け


それは

昭和時代に生まれた人の、という意味ではなくて


昭和時代にすでに

おばあちゃんだった人たちの 

という意味である。



「あれ、おしゃれ?」


と私が聞いたら


おしゃれではないかもしれないけど、地元のっていうからさ。

だったら、『〇〇いも』しかないかなって。



文脈を読んではいない。


基本的なコミュニケーション力に

問題があるほうが

おもしろい場合もある。



おしゃれなものかぁ。


再び彼は考え出し

私は何度めかのヒントを出した。


「若い子にすっごく喜ばれる、すっごく美味しいものだよ」



若い子?

うちの娘くらいの?


「そうそう!そこいらへん!」

 

娘??

ケーキ?


「それは、おととし!」

「この間、食べさせてくれたのは余り物の手作りケーキだったけど、おととしは」



〇〇屋の、ケー。。。!!!叫び


わかった!!








マカロンだ!!





マカロン、それは
あなたは特別な存在という意味なのだと
私は数日前に知ったが

彼は、いまだに知らない。

というところから

私が彼にラインで送った添付画像は見ていない。

という自信が確信に変わった。



あのマカロンなぁ。
あれね、娘が買ってきてさぁ。
パパも食べる?とか言って、くれたから食べてみたらさ。

びっくりするほどうまいよねぇ。
そうだった、そうだった!!

でさぁ、箱入りでって頼んだんだよ。娘に。

ホワイト・デイにちょうどいいなぁと思って。

人にあげたいから、買ってきてって。

まこちゃんも、
喜んでたよねぇ。

あぁ〜思い出したぁ。
よかったよかった!!!


で、そう、その前年が
あの店のケーキなぁ。

意外だよなぁ。あの店。
あんな小ぢんまりしてスーパーの隅にいるのにさぁ。


驚くよねぇ。あの味は。


やっと、噛み合った。


「うん。私もあまりの意外さにびっくりしたけど、知る人はみんな知っていて結構よそからも買いに来るんだって」


「このあたりの老舗のお菓子屋さんって、跡取りさんがいないからどんどん閉店して、この十年くらいは御使い物とか、ほにゃらんまで行かないとだめって思ってたけど。」


「うちの母もね、お友達にお見舞いのお礼をするって言っていたから、私があの店で買ってきてあげるって言ったら、最初あんまりいい反応しなかったの。」


「でも、最近ではすっかりなじみ客だよ。」


「灯台下暗しよねぇ。」



振り返れば

会話が盛り上がり始めた


と私が思うとき


彼の声は相槌に変わるが



「あのお店のアップルパイが、とくに有名なんだって!」

「夕方以降に行くと、もうないことも多いんだけどね。


 と付け加えておいたが、あれから数日

もう覚えてはいないだろう。












お互いの関係性を踏まえて

贈るかどうかを考慮してみると

良いかもしれません。