褒めるならば、天真爛漫 

無難に言えば、破天荒

こきおろすなら、ろくでなし



そんな、魅力ある長男は

18歳まで母親に溺愛されたあと


大学進学を機に

海の向こうに飛び立った。



魅力とは

信頼と愛情に起因する錯覚


まこ辞典





あれから5年

大人への急階段を

数段飛ばしで駆け上がり


昨年春 就職した。




「年末年始は、職場の待機メンバーに入りたい。」


「子どものいる先輩方は、待機番じゃないほうが、いいと思うから。」




そんな話も出ていたけれど

帰省を促されたという。


「今年の正月は、君が就職してから、最初の正月。」


「実家で過ごしなさい。」


社長からの、直々のお言葉なのだと言う。





最初の正月

「なるほど。」と、私は思った。


結婚してから、最初の正月

子供が生まれて、最初の正月



子どもの「就職」はたしかに

家族という集団の、変化の局面である。



一年前、学生最後の年末は

りくが彼女からプレゼントされたトレーナーを一年近く借りパクした挙げ句に


「おまえが言ってたやつ、これだろ?」と、欲しがっていたものをお土産に買ってきたかのように差し出した長男であるが




社会人初の年末は


「柿の葉寿司」を差し出して、「社長から、ご家族みなさまでどうぞ、ということで。」と言った。




元旦


お雑煮を食べて片付けを終え

リビングに戻ったとき


長男が、私の前で

座礼した。



剣道で鍛えられた

その美しい座礼をみたのは

何年ぶりであろう。


と思ったら


「ほんっとに、これまで

大変なお世話になりました。」と


まるで、これから嫁に行く娘のように言って


差し出したのは



お年玉

弟のりくの分だけではなく

祖母、母、叔母の分を

用意していたのだ。



miffyが金色の桜の中で踊る赤い袋


Miffy 我が家での別名は

「かあさんの好きなうさぎ」




大人から初めてもらったお年玉の記憶を、すでに、失っている私であるが

 

子どもから、初めてもらったこのお年玉のことは、一生忘れまいと、心に誓い、ここに記す。




「給与を得たら

やろうと思っていた」


ことなのだそうだ。



お年玉を家族に渡した長男は、

「焼き鳥屋にも、

行こうと思う。」


そう言った。


老舗の焼き鳥屋


それは、

長男が高校3年生の夏

学校祭で露天商になるために

門を叩いた、あの焼き鳥屋さんである。






結果、それはまだ実現していない。






子どものころは

勉強以外は

なんでもやれる子



そんな信頼厚い長男が

「大人になったらやろうと思っていたこと」は、「実現できないこと」に、なっていた。




これから先も、ずっと

実現できないのだろうと 


私は今、思いながら


まだ長男には言っていない。