遠く離れたある街で
坂の上のアパートに住む 大学2年生
次男りく
はじめての帰省でもないのに
空港から自宅までの接続バスの運行が、とうに終了した時間に到着する便を予約するという
重大なミスを犯した。
しかしながら、年末の空港往復バスには、特別運行便があることを知った。
予約便の予定到着時刻から、
年末最終バス出発時刻までは10分
その便の降り口は、バス停から一番近いところなのだという。
さまざまな好条件が揃えば
なんとか間に合う
と、一瞬思ったものの
離陸が、予定時刻より15分ほど遅れた時点で概ね諦めた。
降り立った地元空港から普通列車を乗り継いで、生まれ育った地元駅に到着したのは23時
成人式用スーツとコートに身を包み
普通のナイキ冬靴を履いたりくが
雪景色の駅の外階段を降りてきて
「遅くなったのに、車での迎え、ありがとう。お金は、思ったよりもかからなかったよ😁
JRはもっと高いと思っていたけど、バスと同じくらいだった。」
と嬉しい誤算のように話しながら、車に乗り込んできた。
運転席で、私は少し、複雑な気持ちにはなったけれど、
「良かったね。
この時間は、普通列車しかないものね。」
と、無事に帰省できたことへの
喜びを表した。
「おかえりなさい。りくくん。」
いつもであれば、すでに就寝しているはずの祖母にも迎えられ
遅すぎる夕食を終え、
入浴をすませて就寝した。
翌日のリビング
テレビの前のソファを、電気ひざ掛けを広げた祖母が占領していた。
そんな、いつもの光景のなかにある
りくの存在が、不自然に映るのはなぜだろう?
我が家のリビングの絨毯の上に、りくが直接座ろうとするのは、そう珍しいことではないし、なにより彼は20歳の大人である。
口煩い注意は、慎むべき
それでも、その姿勢が気になった私は、つい声をかけた。
「りく、座るならきちんと座らないと、足が痛くなるよ。」
祖母がぬくぬくと座るソファの横で
孫のりくは、中腰だった。
いつもどおりの穏やかな口調で、りくが言った。
「いま、
トレーニング中なんだ。」
自転車立ちこぎで、アパートへ帰る
坂道 チャリ 立ちこぎ
これを 彼のなかでは
トレーニングというのだそうだ。
↑
これは、昨年の年明け
遠く離れた大学の地に帰っていくりくが、深夜、一人暮らしのアパートまでの坂道を登る様子を思い憂う
母心から書いたものである。
そうだった。
彼の日常には‘’トレーニング‘’があった。
母親の余計な言動にも
決して声を荒げることはない、穏やかな気質の彼であるが
トレーニングへの助言コメントには
ときとして厳しさが混じることもある。
ワンダーコア腹筋
これ、試してみたら
全然負荷がかからない気がするんだけど
効果はあるの?
うん、たまにやると翌日には
腹筋が痛いことがあるから、
効果はあるんだと思う。
腕立て伏せもね、意外と
お母さんできるの。
見てみて、ね?
できてるかどうかって言ったら
できてるよ。
だけど、顎がつくくらいまで、もっと肘を曲げて胸を下げてから持ち上げたほうが、より効果があるとおもうよ🙂