日誌を書き終わる頃、準備室の外が騒がしくなる



恐らく寮生達が○○を探してココまでやってきたんだろうな



龍海「おい!由紀!いるんだろ!?」



扉の向こうで龍海の怒った声



榊「電気がついてるからいると思ったんだけどなぁ~」



水瀬「いないのか?」



ガタガタと扉を揺らす音



鍵をかけといて正解だったな



○○「皆が来ちゃったからそろそろ帰りますね…」



書き終わった日誌を閉じると鞄を持って立ち上がる



扉に向かって歩き出す○○の腕を咄嗟に握り締めてしまった



俺とした事が…考えるより先に体が動いちまった…



○○「…センセ…?」



不思議そうに俺を見つめる瞳になにも言葉が出てこなかった



"もう少し一緒にいたい"そんな簡単な事が言えない



"他の男の所に行かせたくない"それが言えたら…ちったぁ楽になんだろうがな…



「悪い…なんでもねぇ…」



握り締めていた細い腕を離すとペコリと頭を下げて扉を明けた



龍海「○○!!」



扉が開いた瞬間龍海に引き寄せられアイツらに一斉に取り囲まれる



榊「由紀ちゃん、鍵閉めてなにしてたの~?」



普段の口調と変わらない榊だが、目が笑ってねぇ



水瀬と藤堂が前に出て俺を睨みつけている



「ガキには関係ねぇよ」



フフンと鼻を鳴らしてポケットからタバコを取り出すと誰も反論する事無く○○を取り囲んだまま準備室を後にした



揺れる煙の向こうで俺を振り返る○○が見えた



まぁ、目的は果たしたからな



俺の家で補習…か



チャンスは広げられたが、アイツらは寮でずっと一緒なんだからな…こうしてる間にも先を越されてるかもしれねぇ



気が気じゃねぇなんて…



俺らしくもねぇな…





日誌を書く○○の前に座り、小さな机に無理矢理押し入るように頬杖をつく



一生懸命日誌を書いてるところを上から覗き込むと…



「お前…」



○○「な…なんですか?」



距離が近くて緊張しているのか○○の声が少し上ずっている



日誌を書いていた手がピタリと止まった…



「本当にドン臭えな」



そう言いながら今書いている所を指でトントンと指す



「一行ずつズレてるぞ」



○○「…あ…」



慌てて消しゴムで消してパッパと消しカスを払いのける



「お前…ココに俺がいること忘れてるだろう…」



思いっきり俺の方へ払いやがって



○○「あ…!ご、ごめんなさい…」



消しカスを払っていたその手を咄嗟に握り締める



遊園地でずっと握っていた小さな手



アイツらと一緒にいさせないように…俺らしくもねぇが、コイツを独占したかったんだよなぁ…アイツらの前で…



○○「あ…あの…先生…」



手を握られただけで顔を真っ赤にしている



頬杖をついたまま、そんな○○を横目でチラリとみると慌てて俺から目をそらした



まーったくコイツは鈍感だよなぁ



遊園地でアレだけ俺と一緒にいて俺の気持ちに気づかねぇし



キスしてもまだ…分かってなさそうだもんよ



寮生も苦労するわな



アイツらのあんなアピールの仕方じゃ永遠に気づかなさそうだ、コイツは



○○「あ…あの…」



手を離して欲しいのか…小さな声で俺に話し掛けてくるが、そんな小さな声じゃ聞こえねぇな



「さっさと書いちまえよ」



あえて○○を見ない



握り締めた手に視線を落として…その手の甲に軽くキスをする



○○「先生…ッ!!」



「書き終わるまで離さねぇぞ」



そう言うと急にシャーペンを握り締め日誌を書き出した



その様子を見ながら何度も手にキスを落す



クク…急いじまって…



だいぶ慌てているのが分かる



何度もシャーペンのシンが折れる音がした



さて…このチャンスを有意義に使わねぇとな…



あたかも今思いついたような事を言葉にしていく



「そういやお前」



○○「え?」



「今度のテストで前回みたいな点取ったらヤバイぞ」



○○「ええ!?本当ですか!?」



ガバッと上げた顔が赤から見る見るうちに青くなっていく



何を今更ビックリしてやがる。中間テストで俺もビックリするような点を取りやがったヤツが!



今度の期末テストで同じような点を取ったら…追試と補習で補えるか?なんとかしてやりたいがコレ以上どうしてやる事もできねぇしな…そう思っていたのはもちろん本音



だから



「これから試験まで俺がお前の勉強を見てやる」



チュッとリップ音を発してキスをした手を開放してやる



○○「本当ですか!?」



急に笑顔を見せる○○



本当にコイツは可愛いヤツだな



「ただし、他のヤツらには絶対に言うんじゃねぇぞ?」



○○「え?どうしてですか?」



「他のヤツらの勉強まで見てたら授業と同じじゃねぇか。お前がついて来れるならそれでもいいぞ」



なんていうのはただのこじ付けだ



それでもその言葉をまっすぐに受け止める○○は



○○「い…言いません…ついてけないし…」



そう言うと思ったぜ



「んじゃ、とりあえず明日の土曜日、昼過ぎに俺ん家な」



場所は後でメールするというと大きな声で返事をしやがった



たく



純粋すぎるんだよ、お前は



危なっかしくて見てらんねぇな…




そんなにすぐチャンスがやってくるとは思ってもねぇが…



休み時間に昼休み…とにかく○○が1人になることはなかった



放課後になるとまるでボディーガードのように前後左右を取り囲むようにして教室を出て行った



たく…廊下で俺の姿を見ただけで慌てて○○の側に走り寄るアイツらはナイト気取りなのかもしれねぇが、お前らが束になっても俺にはかなわねぇよ



いちいち俺に反応するアイツらをみてると面白くてしょうがねぇ



こうなったらHR中にわざと○○を準備室に呼び出してやろうか



それとも、アイツらが○○を守ってる所強引に押し入ってアイツを連れて行っちまおうか…



ボーっとそんな事を考えながら準備室に戻る廊下を歩いていると後ろからパタパタと誰かが走る足音



って、こんな体重の乗ってない走り方をするのはアイツしかいねぇな



顔だけで後ろを振り返ると、やっぱりアイツが俺に向かって走ってきていた



○○「先生…」



どこから走ってきたのか髪も乱れてハァハァと息を乱している



コイツから俺の所にやってくるとは思わなかったな



コイツは鈍いから…なんて理由じゃ片付かないような気もするがまぁいい



せっかくのチャンスだからな



「どうした?」



○○が隣に来るのを待ってまた準備室に向かって歩き出した



並んで準備室に向かう途中○○が鞄から日誌を取り出す



○○「すいません…日誌を持ってきたんですが…まだ書いてないんです…」



申し訳なさそうに謝る○○だが…1日中アイツらが張り付いてたんだ、書けるわけもねぇよな



準備室の鍵を開け先に○○を中に入れる



チラリと廊下を確認すると誰も来ていない



そのまま俺も室内に入ると○○に気づかれないように鍵を掛けた…



「お前どこから走ってきたんだ?」



○○の頭に手を伸ばし乱れた髪を手櫛で整えてやる…無意識だった



「や…その…」



急に真っ赤になって下を向いちまう○○



「その辺に座ってさっさと日誌書いちまえ」



髪から手を離し気のないフリ…



昨日の事を意識させないように…あえて今まで通りを装った



だが、コイツはどうだろうな



きっと…なーんにも考えてねぇな



「お前アイツらはどうした?今日は随分とはべらしてたじゃねぇか」



○○「はべらしてただなんて…そんなつもりありません!」



コーヒーを受け取りながらキッと俺を睨むが…そんな可愛い顔で睨まれたところで俺を喜ばせてるだけだって気がつかねぇだろうな



○○「今日の皆なんか変だったんですよね…どこに行くにも着いてくるからちょっと落ち着かなくて…コッソリ逃げてきちゃいました」



「そうかそうか、そんなに俺に会いたかったか」



からかうようにそう言ってやると顔を真っ赤にして反論してきやがる



○○「ち…違います!!」



慌てて日誌に取り掛かる○○



髪を耳にかけてシャーペンを握るがその耳までが真っ赤



クク…思い出したな?



昨日の事をよ



まぁ、昨日はさすがにやりすぎた…



もう少し…



ゆっくり…じっくり責めていかねぇと



それに、コイツが超がつくほど鈍感なヤツだって事を忘れてた



ちゃんとわかるようにしてやらねぇとな