冴島「この前から俺を意識してんじゃねぇか?」



背後で先生がニヤリと笑っているのが見なくてもわかる



クク…と笑う小さな声も聞こえた…



先生はこの前の準備室でのキスの事を言ってるのかもしれないけど



意識なんてとっくにしちゃってる…



準備室のキスよりもずっと前から…その私の気持ちにはきっと気づいてない…あのキスからの事を先生は言っているんだ…



少しホッとした



だって"そんなに前から俺の事意識してたのか?"って先生なら絶対からかってくるもん



冴島「俺がなにも知らないと思うなよ?」



まるで私の頭の中を見てきたような言葉



ドキリと跳ね上がる心臓…



今の言葉…一体どういう意味なんだろう…もしかして気づかれてたのかな?



変わらず黙ったまま背中に神経を集中させているとゆっくり背後の空気が動いた…



「・・・」



一瞬タバコの香りがしたかと思うと真横に先生が腰を下ろす



テーブルに肩肘をついて…体ごと私の方を見ている…



…後ろに座られるより緊張する…私の方見てるし…



恥ずかしくて顔を上げられないでいると先生の長い指がトントン…と先ほどの問題用紙を叩いた



冴島「なんでできねぇんだよ」



そう言う先生の顔をチラリと見ると、ジーッと私の顔を見て呆れている



冴島「コレができねぇって事は俺の説明を聞いてなかったんだな?」



なにも言い訳ができず、コクリとうなずくと先生の指先が私の方へ伸びてきて思わず肩をすくめた…



てっきりデコピンとか鷲掴みとか…なにかされるんだろうなって思っていたら優しく私の髪をすくって指先で弄んでいる



耳元で聞こえるサラサラと髪が流れる音



何も言わない先生に視線を向けると、それに気づいてパッと離される指先に一瞬戸惑ったような表情…



・・・先生・・・?



冴島「お前今日はみっちり補習してやるからな!わかったか!!」



場の空気が一瞬にして変わるような先生の一言



慌ててノートと教科書を開くとまた補習が始まった…



でも…なんか今日の先生変だな…



さっきまではあんなにピッタリくっついていて…何食わぬ感じで唇を舐めたりしてきたのに…



今は髪を触っただけなのに少し戸惑ったような顔…してた…



どうしたんだろう…



どっちの先生も初めて見る先生でやっぱり私は戸惑ってしまう



私の気持ちに気づいてからかっているだけなのか…



それとも期待してもいいのか…



先生の考えてる事がちっともわからない。



簡単に告白できるような関係じゃないから、どうやって先生との距離を縮めていいのかわからない



もし告白できるような関係だったとしても…きっと先生は私の事なんとも思ってないんだろうなぁ…



先生…?



私はもうずっと先生の事が好き



気づいてるかもしれないけど…だからもうからかわないで?



今日ココに来てから先生にはドキドキさせられっぱなしで…それがただの遊びだったとしたら…私きっと立ち直れないから…



私の事…好きでもなんでもないならもう…からかわないで下さい…



ズシリと重くなる心に…



開かれたノートが真っ白なまま時間だけが過ぎていく…






先生の声にカラダが熱くなりボーっとしていると先生が小さく舌打ちした



冴島「たく、ボーっとすんじゃねぇ!!なんのための補習だ!!」



頬をむぎゅっとして私の唇に唇を寄せて…あまりの近さに先生の吐息が唇に触れる…



冴島「集中しねぇと無理やりキスするぞ」



そう言って先生の舌先がペロリと上唇をなぞるように舐めあげる…



「!?」



冴島「オラ、さっさと集中しろ!」



ぱっと手を離されると先生の視線は私から教科書に移ってしまった…



こんな事されて…余計に集中するなんて出来ないよ…



なんでこんな簡単にあんな事が出来るの?



私がこんなにドキドキしてるの…先生はちっとも気づいてないだろうし…きっと先生はドキドキどころか、なんとも思ってないんだろうな…



後ろから聞こえる先生が公式を読み上げる声



その声にすらドキドキしてしまう私



これ以上ここにいたら私の心臓が持たないよ…もう帰りたい…



相変わらず進まないノートに先生がパタン、と教科書を閉じた



冴島「んじゃ、小テストするぞ」



「え!?」



小テスト!?



冴島「今の俺の説明を聞いていたなら簡単だ」



そう言って先生が私の後ろから両腕を伸ばしノートも片付けてしまう



そして1枚切り取った紙に手書きでテスト問題を書いてくれる



先生の大きな手に似合わないピンクのシャーペン



スラスラと滑る様に書かれていく先生の字って、なんだかすごく綺麗…黒板に書く字はやる気のなさそうな字なのに…



紙の上に書かれていく先生の字は読みやすくて意外にも綺麗な字だった



「先生、本当は字が綺麗だったんですね」



思わずそう口にすると空いた方の手が私の頭を鷲掴みにした



冴島「黒板は書きにくいんだよ!つーか読みやすく書かねぇとお前問題すら理解しなさそうだしな」



って…そんな風に先生が気を使ってくれた事がなんか嬉しい



まぁ確かに問題の意味を理解していないことが多いんだけど…



…んだけど…その前に今の先生の説明全く聞いてなかったから簡単どころかきっと全然分からない



先生が書く問題をチラリと見ると案の定全く分からなかった



どうしよう…



全然分からない…



これはきっと怒られる!!



緊張で固まっているとカタン、とシャーペンを置く音、そして…



冴島「制限時間は30分だ」



そう言って私に手書きの問題を渡すと私からカラダを離しベランダに行ってしまった



ようやく開放されてホッとしていると、ベランダの柵に寄りかかりながらこちらを見てタバコを挟んだ指でテーブルの上を指差していた



「はい…すぐやります…」



声は聞こえていないはずなのに"さっさとやれ!"っていう声が聞こえた気がしてつい返事をしてしまう



慌ててテーブルの上の問題に視線を落とすけれど…やっぱり分からない



でも元はといえば先生が悪いんだもん…



先生があんなにくっついたり…唇舐めたりするから!!



だからなにも頭に入ってこなかったんだもん…



白紙のままのテスト問題を前に開き直っていると先生が戻ってくる



冴島「ちったぁ出来たか?」



言いながら覗き込んだ問題用紙



背後で先生の機嫌が悪くなるのがヒシヒシと伝わってくる…



…まずい…すっごく怒ってる…



怖くて振り返られずにいると先生の低い声が静まり返った室内に響いた





化学の教科書片手に先生が耳元で公式を読み上げていく



先生の声以外なにも音のない室内が余計に私の心臓の音を煩くさせた



冴島「おい、聞いてるのか?」



フイにかけられた一言に動揺が隠せない



先生の声しか聞こえないはずなのに、その声も緊張で耳に届かない



変わりに盛大なため息が聞こえた



冴島「お前なぁ…どこがわからないんだ?」



どこからか取り出した眼鏡をかけて全然進まないノートの上を覗き込み、指先で私の書いた文字の上をなぞる



わからない、というより何も頭に入ってこない



頭の中は真後ろにいる先生の事でいっぱいで、他の何かを詰め込むなんて到底無理



冴島「ここか?」



書きかけになっていたところを指しもう一度説明をしてくれる先生だけど…



もう心臓がもたないよ…



少し先生から身体を離すように身体を移動させようとすると



公式を読み上げながら先生の腕が私の腰に絡み付いてソレを許さなかった…



そしてその腕が私の腰を抱いたまま"わかったか?"なんて聞いてくる



離れようとしたのに余計に近づいてしまって動揺が隠せない私と、あくまで補習を進める先生…



背中から伝わる先生の体温に、この前のキスを思い出してしまう



先生は…



どういうつもりで私にキスしてきたんだろう…ただの遊び?気まぐれ?



いつもみたいに私をからかって遊んでるの?



初めてのキスだったのに…からかってあんな事するなんてヒドイ…



大人だからって…私が子供だからって…初めてのキスを遊びでするなんて…!



私が先生を好きって気持ちきっと気づいててあんな事したんだ、だって先生はなんでもお見通しって感じだもん



だからあんな簡単にキスして私の反応をみて楽しんでるんだ!



先生ヒドイ!!



さっきまではドキドキしてなにも頭に入らなかったのに今度は悲しみが沸いて出てきて勉強が手につかない



冴島「…おい…」



だいたい先生には彼女さんがいるかもしれないし…しかも彼女さん以外の人とも間単にキスとかしちゃいそうだしね



冴島「おい…」



すっごく綺麗な彼女なんだろうな…



先生と並んで歩いても引けを取らない、大人の女の人…



きっと2人でいるときはこんなにドSな先生も優しいんだろうな



他の女の人にもキスとかしてても彼女さんの事は大事にしていそう…そういうのバレないように上手くやってそうだし…



もう先生に彼女がいる事前提で頭の中でどんどん妄想が膨らんでいく



あーあ…私も先生と同じ年に産まれたかったな…



すっかり先生が後ろにいることを忘れてため息なんてついていると



腰に回されていた手が上に伸びてきてガシッと顎を掴まれた



「うえ?」



そのまま引っ張られ先生の胸に背中を預けると



顎を持ち上げるように乱暴に顔を上に向かせられると、後ろから覆いかぶさるように先生が私の顔をのぞきこんできた



冴島「おい!聞いてんのか!?」



目と鼻の先に眼鏡姿の先生の顔



レンズの奥の瞳はイラついているのか鋭い目つきで私を睨んでいる



「す…すみま…せん…」



全然聞いてなかったし…それどころか先生がいることすら忘れてため息までついちゃった…



冴島「どこから聞いてなかった?」



低い声が妙に心地いい…



教室でクラス全体に話しかけるような声じゃなくて、私だけに発せられた声



先生の声に身体が熱くなるのを感じた…