衝撃的に美味い海鮮丼を食べた後僕は、大事な事を思い出した。
「輪行」
についてである。
輪行とは、自転車を分解して小さくまとめ、輪行袋にしまいそれ
を持って電車で移動する技術である。これを覚えることによって
サイクリストの行動範囲は一気に広がることになる。
しかし僕は、正直北海道まで来れるとは思ってもみなかったし、
水戸あたりで引き返して走って買えればいいやと思っていたの
でこの輪行の技術を覚えないままに出発してしまったのである・
・・・・。ああ、行き当たりばったり。
宅急便で送れば2万円以上かかると言うから、何としても輪行せ
ねばならない。まあ函館ほどの都会なら何とかなるだろう・・・、
そう思い再び観光案内所を訪れた。
「この辺に自転車屋はありますか?」
と聞くと、伊達君子似さんは僕を覚えてくれていたらしくニコッと
笑い、また親切に教えてくれた。
僕は早速最寄の自転車やに向かった。おじいさんが一人でやっ
ているような小さな自転車屋である。
「あの、輪行袋って売ってます?」
と聞くと、
「あ~、輪行袋はないね」
と寂しい答えが返ってくる。さらに
「函館で売ってるところありますかね」
と聞くと
「いや~、函館には売ってないんじゃないかな」
と絶望的な事を言い出した。夢もチボーもないとはまさにこの事
である。それじゃ困るんだ、何とかして見つけないと・・・・・。
その後観光案内で聞いた3軒をあたったが、やはりないとの事。
こうなったら自分で探すしかない。携帯で検索していると、かなり
遠くに大手のスポーツショップがあることが分かった。藁にも縋る
気持ちで電話をかけると、何とひとつ置いてあるという。
助かった!!
30分ほど離れた場所にあるスポーツショップに置いてあった「そ
れ」はしかし、折りたたみ自転車専用の輪行袋であった。
少しちっちゃいなぁ・・・・・・。
まあ仕方ない。少しはみ出たって・・・・・・。
一応これで何とかなるな、という思いで町の自転車屋へ向かっ
た。自転車分解を手伝ってもらう為である(情けない)。
だが、一安心していた僕は再びどん底へつき返された。自転車
のおやじ、僕の自転車を見て一言、
「これは輪行できないよ~」
と言い放ったのだ。そ、そんな・・・・根本的な問題じゃないですか
。僕はダイクマで買ったこの16500円のマウンテンバイクに、深
い愛着が湧いていた。共に1000キロを超える道のりを走ってき
たのだ。雨の日も風の日も・・・・・・・・・。
函館に置いて帰るのかと思うと、涙がこぼれそうになった。(まあ
計画性のない俺が悪いんだけど)
絶望感の中僕は函館の町をふらふらと走った。
どうしたものか・・・・・・。
こんな結末は哀しすぎるな・・・・・・。
のんのんの熊さんにもらってもらうか・・・・・・・。
いつしか最初に入った自転車屋の前に来ていた。駄目もとで頼
んでみよう・・・・、最後の望みだ。
僕が熱心に頼み込むと熱意が伝わったのか、おじいさんは
「じゃあやってみようか」
と言ってくれた。
ここから僕とおじいさんは力を合わせ、自転車を分解し始めた。
物珍しいのか、中からおばあさんが出てきてじっと見守っていた。
おじいさんの技術は確かなもので、とても頼もしかった。僕は殆ど
自転車を押さえる事くらいしか出来なかったのだが、その前でお
じいさんはどんどん自転車を分解していく。ギアなどデリケートな
器具には、ビニールを巻いて保護する。
へ~っ、そうなってるんだ・・・。
しかし確かな腕前だなぁ、頼もしい。
この人は、この技術で今人の役に立っている。
それは、単純だけどとても素晴らしいことだ・・・・・・。
ハンドルもタイヤも全て外しバラバラになった自転車は、輪行袋に詰め
込まれた。案の定少しはみだしていたが、そこは紐で縛りつけ固定した。
よかった・・・・・。
僕は深く感動していた。これで自転車と一緒に帰ることが出来るのだ・・・。
おじいさんは2000円以上受け取ろうとはしなかった。僕は何度も
礼を言うと、ずっしりした輪行袋を持って外へでた。
僕には、感謝すべき人がまた一人増えたのだった。


