モラトリアムな日々 -12ページ目

モラトリアムな日々

隙あらば壁に張りつき、酒あらば飲んでしまう。そんな日常です。

遂に僕と自転車は函館の大地に降り立った。目標は達成された。

後は函館観光を楽しむのみである。さしあたって・・・・、函館で野宿

は嫌なので宿を探すことにした。


携帯で検索していると素泊まり2900円という宿が目に入った。その

名も「手作り民宿のんのん」。店員10人って少なくないかい?何か

怪しいなぁ・・・・・。

まあしかし、今回の旅で僕は宿に恵まれている。ツキもあるような気

がした。何より一級の観光地である函館で2900円は破格である。

ここに決めてみるか、と早速電話をかける


「もしもし、今日泊まりたいのですが。一人で大丈夫ですか?」


「あ~、大丈夫だよ。今どこにいるの?」


「函館駅です」


「そう。じゃあ来なよ」


えらくざっくばらんな対応だな~。ますます怪しいぞ。

「のんのん」は函館朝市にあるらしく、函館駅から徒歩5分であるとい

う。場所は素晴らしいな・・・・。

初めて見る函館朝市は思ったより活気がなく、閑散としていた。店の

半分はシャッターを降ろしている。う~ん、まあ朝市っていうし朝来な

いといけないのかな。もう夕方近いし。

そんな朝市を「のんのん」を探しながらゆっくり走っていく。



・・・・・・・・ないぞ「のんのん」なんて民宿。



すでに自転車で5分以上走っている。徒歩5分ならもっと手前にある

はずだ。Uターンし、今度は前よりゆっくり走る。


国際ホテルに・・・・・・


カニを売ってる店に・・・・・・


宅配便屋に・・・・・・・・・・・・



うわっ、怪しい店があるぞ。なんだコリャ?


アイヌ系の木彫りの置物に、訳分からないものがごちゃごちゃ一杯置

いてある。


怪しいなぁ・・・・・・・。




ふと見上げた看板を見て僕は愕然とした。

そこには



のんのん



と書いてあったのだ。


フェリーというものに乗ったことがない(乗ったとしても記憶にない)

僕にはフェリー乗り場というものがどういう物かあまり想像できなか

ったが、目の前に現れた青森フェリー港は


え、そんな感じなんだ。


と少し意外に思わせるほどシンプルなものであった。

まず手続きをする建物があり、こちらは3階建てで休憩所などがあ

る。これはまあ予想通りなのだが、肝心のフェリーは簡素なゲート

にポツン、と簡単にロープで繋がれているだけに見えた。

何より、フェリーへ続く広大な駐車場は何かの仕切りや入場管理な

どがあるわけでもなく非常に開放的である。



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僕は思った。


誰でもフェリーに乗れちゃうよ?


と。

待合室は平日のためか人もまばらで(あるいは今時フェリーで函館

に渡る人が少ないのか?)、僕は椅子に座ってのんびりくつろぐこと

が出来た。観光案内のパンフが多種置かれていて、それを眺めつつ

函館に思いを巡らせる。



函館っちゃあ、やっぱり海鮮丼だよな。


あのウニとかイクラがたくさん乗った奴・・・・・・・。


値段は張るのだろうけど、一度は絶対食べよう!!



哀しいことに旅を続けるうち、僕はいわゆる観光名所というものに興

味を失っていた。実際今回の旅で僕が一番気に入ったのは、およそ

観光地とは言えないような小さな漁師町「松川浦」であった。(龍泉洞

はちょっと見たかったが・・・・)

函館といえば五稜郭や西洋風の町並みとか他にもいろいろあるだろ

うに、僕の脳は海鮮丼で一杯になっていたのである。


そう、観光地に失われていった興味は、食べ物へ向かったのだ・・・。


楽しい想像をしながらウトウトしていると、出航30分前の11時になっ

た。自転車は最初に搬入するため早めに来るように言われていた。

自転車を押して、フェリーの前まで歩く。ゲートが開くのを待っている

と、緩やかな潮風が吹いてくる。いよいよ、北海道なんだなと思う。


係員がゲートを開けると、自転車の僕が最初に入ることになった。

大きく口を開けたフェリーの中は薄暗く、意外なまでの広さである。

係員に従い自転車を壁に寄せてロープで固定すると、僕は自転車に

しばしの別れを告げ(愛着湧いてるから)、客船に移った。

客室はちょっとした広さがあり、青い床では寝転がれるようになってい

た。乗客も全部で10人ほどであったし、ゆとりがあった。

しばらくパンフなどを眺めているとエンジン音が聞こえ、船は振動と共

に青森港を出た。嬉しくなって甲板に出て行く。

甲板に立っているとかなり強い風を浴びる事になる。フェリーとはこん

な速さで進むものであったか。青森が徐々に遠ざかっていく。



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               さらば青森


結構な時間そうして甲板で外を眺めていたが、風のおかげで寒くなっ

てきたのと、意外と変わらない景色に飽きてしまったのとで、客室に

戻ることにした。

函館到着には3時間以上かかるとの事。パンフを見たり地図を見て時

間をつぶす。

午後3時過ぎ、ようやく函館が見え始めた。


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             こんにちは函館


15時30分、函館に到着。フェリーは厳かに回転し、ロープでしっかり

と函館の大地に結び付けられた。

フェリーが再び大きな口を開けると、暗い貨物場に光が差し込む。

ガタガタとした橋渡しを越え、ついに僕と自転車は函館の地に立った。   




ゴ~~~ル!!




これで完全なゴールである。

やったぜ。初めての北海道は、自転車で来ました、ってね。


あとは観光だ。もう辛いことはない。楽しいだけだ。


僕はウキウキで自転車を漕ぎ出した。

旅に出てから今日で10日目。

今日青森港まで50キロあまりの道のりを走れば、後はフェリーが函館

まで連れて行ってくれる。ゴールを目指し走るのは、今日が最後という

ことになる。


午前4時に玉勝温泉を出発した僕の気持ちは、なぜか焦っていた。

今日はたったの50キロしか走らないというのに。11時30分のフェリー

に間に合うには十分すぎる時間があるというのに・・・・・。


県道八号線に入ると、陸奥湾に面する野辺地町まではそのまま直進す

ることになる。昨日は疲労と暑さと車の多さに苦しめられたこの道だが、

まだ夜が明けぬこの時間には全く車が通らず、思っていたより順調に走

ることが出来た。

この辺りには外灯も殆どなく、自転車についた小さなライトの光を頼りに

進むことになる。真っ暗な田んぼ道は不気味で、時折湿った生ぬるい風

が体を撫ぜ、この旅で初めて「怖い」と思った。野宿を重ねているうちに

図太くなり、そういう感覚は磨耗されていってしまうのだが、ここだけは別

であった。

怖いと思うと余計に怖くなってくるのが人の常というもので、次第に影が

人型に見えたり、自転車のライトに寄ってきた虫に激突され


ひゃっ!!


と間抜けな声を上げることもあった。

仏のような太陽様が東から現れ、あぜ道を2時間あまりも走ると、野辺

地町に出た。ここからの眺めがまた壮観。眼前には陸奥湾の青い海、

右から奥にかけては下北半島、左には津軽半島が見渡せるのだ。

俺は今面白い地理にいるのだなぁ。



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               記念撮影


陸奥湾を眺めていると、何となく気持ちが落ち着いてきた。

そして、僕の心の中の妙な焦りの正体もわかってくる気がした。


それは恐らく、11時30分に出航してしまうフェリーに間に合うた

めではない。

きっと僕は、早く青森まで走りついて、旅を終わらせたかったのだ。

不安だらけで出発したこの旅を、二日くらいで沈没するだろうと思

っていたこの道のりを、最後まで走りきったという証を早く手に入れ

たいという焦りだったのだろう。

そして、パンクや事故、天候不良、体調不良など、旅を足止めして

しまう多分な要素のプッレシャーから早く開放されたかったという思

いもあったに違いない。

海を見ていると、そういう焦りが溶け出していくような気がした。



そうだ、もう後30キロで終わりなんだ。


恐らく俺は函館から先に進むことはないのだろうから


これで本当にお終いだ。



ここから先は、かつてないほどゆっくりと走っていった。旅もいよいよ

終わりかと思うと、今度は逆に惜しい気さえしてきた。青森に向かう車

が多かったが、歩道を走る僕には気にならないのであった。



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           旅も終わりに差し掛かる


午前9時に青森市外に入った。

さすが青森、都会である。青森といい、八戸といい、全く予想を裏切

る都会っぷりだ。青森銀行でお金を下ろし、街のはずれにあるフェリ

ー港までぶらぶら走る。

青森ベイブリッジを渡りしばらくいくと、フェリー会社の建物に着いた。

僕の旅は、ここにて一応の終わりをみたのである。


その日泊まる場所を確保してから町をぶらぶらするというのは

、この上ない楽しみであった。まして今日は玉勝温泉という素敵

な宿に泊まれるのだ。

宿からすぐのところに、大型スーパーがあった。上北町は本当に

こじんまりした町で、まだまだ開拓の手が伸びていない昔ながら

の雰囲気を残していた。それだけに、このスーパーの存在は際立

って見えた。

こんな便利なものができたら、町の人には助かる反面地元のお店

は大打撃だろうな・・・・・・。

店は、地元の人がみんな集まったんじゃないかと思うほどの盛況

ぶり。店の前では出張焼き鳥屋がいい匂いの煙を漂わせている。

今日は余裕もあるし、これで一杯やっちゃおうかな。

素敵な提案である。まだ四時前だし。焼き鳥を3本、ビールを2本

買い、道の駅のベンチに座って飲むことにした。

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         う~ん、たまらん。

道の駅は先ほどより混雑している。道路は帰る車で大渋滞。

皆様、ご苦労様です・・・・・・・。

そう、普通の人は明日仕事だから、せっかく観光に来ても頑張って

帰らなければならない。ぐったりしながら子供の手を引いて車に乗

り込むお父さんたち・・・・・・・・・・・。

僕は、今日はここにのんびり出来るんだという優越感を感じつつも、

こんな勝手気ままな旅をしている事への、僅かな罪悪感を感じない

ではなかった。実家でのんびり暮らして、留年までして学生を続け

ている・・・・・・・。

お父さんたち、僕も来年からはそちらに行きますから・・・。

まあそんな事を言ってはみたものの、そんな心境とは関係なしにビ

ールはとても美味かった。焼き鳥にビールなんてもうたまりません

ね。コッテリしたタレの味がビールに合うこと合うこと・・・・・・。

1時間ほどのんびりした後、スーパーによって帰ることにした。買っ

て帰った食材は、焼肉セットという野菜の詰め合わせ、とりもも肉、

チキンコンソメの素、ロールパン。


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            作りまっせ~!!     



今日はこの旅初めてのお料理である。

たまねぎ、椎茸なんかは食べやすい大きさにカットする。

コッヘルにカップ一杯分の湯を沸かし、火の通りにくい食材から入れ

ていく。お湯を少なくしたのは、野菜から出る水分を利用するため。

あくが浮いてきたら取る。最後にコンソメを2つ入れ少し煮込んだら

完成。超簡単。


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               完成っ!!

見た目はいまいちだったが、なかなか美味しく出来た。味は立派な

野菜と鶏肉のコンソメ煮である。ロールパンをスープに浸して食べれ

ば、これもまたいい感じに。

野菜をたくさん摂れたことと、料理をしたことで、何だか身も心も満た

された。コッヘルと食器を洗い部屋に戻る。布団に横になりながらテ

レビを見ていると、

今日夜半に雨が降るが、明日は晴れる。明日は青森県から南は全

国的に雨が降る模様。

との事であった。いやー、青森から上だけ晴れるなんて、完全に俺の

為じゃん。旅の神は俺に微笑んだ。

夜の9時頃から強い雨が降り始めた。もしかしたら今日はテントを打

つ雨音の中寝ていたのかもしれない、と思うと僕は玉勝温泉に出会

えた幸運に感謝した。

今日は温かい布団の中だ。いくらでも降ればいい。

そう思い、僕はニンマリしながら眠りについた。

午後3時過ぎ、ハードな行程を走りきり、グテグテになりながら観光客

でごった返す道の駅に入る。ここ上北町は温泉街であるらしく、付近の

温泉10件ほどが簡潔にまとめられた紙が置いてあった。

その中の1件である、「玉勝温泉」はなんと素泊まり2500円であると

いう。これはヘタに小川原湖のテントサイトを使うより安いかもな。(大

洗のテントサイトは2500円であった)

早速電話を掛けてみる。


「あの、本日宿泊したいのですが。素泊まりで一人です」


「え~とっ・・・・うちは素泊まりしかやってないですよ。

 ・・・・・・・・はい、お一人で大丈夫ですよ」


「チェックインはありますか?」


「ええ~、もう大丈夫ですよ。お名前と電話番号を」


「~~~です。ではすぐに向かいます」


電話に出たのは青森訛りのあるおばさんであった。結構デンとした対

応だったな。大衆的な宿なんだろうな・・・・・・・。


玉勝温泉は道の駅から僅か5分ほどの場所にあった。建物は意外と

大きく、駐車場もしっかりしている。「玉勝温泉」と赤い字で書かれてい

る。ここだ。

中に入ると、僕はタイムスリップした様な感覚に襲われた。

床も柱も木造で、かなり使い込まれているのか独特の艶が出ている。

テレビとマッサージ機が置かれ、おじさんが2~3人くつろいでいる。

受付もまた年季の入ったものであった。先ほどの電話のおばさんと思

える人が対応してくれる。宿泊客リストは、ノートに手書き。


うわぁ・・・・、メッチャ雰囲気あるわぁ・・・・・・。


本当に素泊まりは2500円であった。受付をした本館の他に別館があ

るらしく、僕が明朝早くに発つことを伝えると、人の少ない別館の方が

いいだろうと、気を利かしてくれた。

別館は本館の向かいにあり、ややこじんまりしていた。僕が入るとおば

さんが待っていてくれ、すぐ近くの部屋に案内してくれた。部屋は6畳

ほどの畳張り。布団がすでに敷いてあり、小さな机と、テレビが置いて

ある。古めかしい感はあるが、とても清潔な印象を受けた。


穴場だぁ・・・・・。


俺は本当についているなぁ。今日一日辛かったけど、最後の最後に大

当たりを引く事が出来た。

8部屋ほどある別館は、僕を入れて3部屋ほどしか使われていない様

であった。別館には洗濯機や調理場もある。もちろん温泉も。


どうやら、ここは湯治客が主に利用していく宿である。料金表には湯治

客は素泊まり2000円と書いてある。すげえ・・・・・・。

穴場的温泉宿を見つけたことで僕は疲れも忘れ興奮していた。早速温

泉に入る。もちろん貸切。

浴槽はやや小さめで、お湯は少し黄色味がかっている。匂いはあまり

ない。肌をこすると、ツルっとする。いい感じだ。

湯船にゆっくり浸かりながら、この旅を思う。




明日40キロも走れば、いよいよフェリーに乗って函館だ。


明日にはゴールを向かえることになるのか。


よく頑張ったな、というのは確かにあるが・・・・・・・・・・。


正直つらいというよりは楽しい事の方が多かったな。


そして何より多くの人の親切を受けた。


何も大きな親切だけでなくとも、例えば僕をいちいち大きく避けて


走ってくれたドライバー達だって、僕の旅の支えになったんだ。


そう考えると感謝だよなぁ・・・・・。みんなに感謝だ。


そして、僕のこの変わり様は何だろう?


今じゃ人見知りの「ひ」の字も感じられない。


困難があっても頭と体をフル活用して解決してきた。


もちろんまわりに助けを求める事もあった。


いろんな意味で、この行動力はすごいな。


旅が終った後も是非継続していきたい・・・・・・・・。


ああ、最後にいい宿にも泊まれたし・・・・・・・・。


本当に旅に出てよかった・・・・・・・。




僕は、大きな満足感に浸っていた。

温泉を出ると洗濯をすませ、明日のフェリーの予約をした。

11時30分発    青森~函館    2000円。

自転車込みの値段にしては安いと思った。やっぱり青森まで頑

張って進む価値はあったようだ。(八戸からだともっと高い)


今日はせっかく自炊所もあるんだし何か料理でも作るか、という気

分になった。食材を買いに、ブラっと外へ出た。


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       この部屋なら十分だ


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        割とこじんまりした浴槽


    玉勝

           洗濯機と自炊場


たまかつ2

          脅威の料金体系