Masumin quest Ⅱ 〜夏が来た〜 | 夢の終わりに・・・

夢の終わりに・・・

哀しいほどの切なさとときめきを

 

羽田深夜発のコナ国際空港直行便。

ファーストクラスの設定がない路線のため、俺とマヤはビジネスクラスの最前列に乗っていた。

後方ドアからエコノミーの乗客が乗り込む間に、チーフパーサーが挨拶に来た。

「速水様、本日もご搭乗いただき、ありがとうございます。

わたくしチーフパーサーの渡邊と申します。

フライト中、何かございましたらご遠慮なくお申し付けくださいませ。」

そしてウエルカムドリンクのオーダーを尋ねてきた。

俺はシャンパーニュ、マヤには同じものをオレンジジュースで割ったミモザを頼んだ。

マヤはもう眠いばかりで、目を離すとすぐに船を漕ぎ始める。

まるで年端のいかない子供みたいだ。

仮にも大都の看板女優が口をポカンと開けてうたた寝しているのを人前に晒すわけにもいかず、CPがドリンクを運んで来たため、俺はマヤが膝に置いていたパナマ帽をマヤの頭に目深く乗せてやる。

「お疲れのようですね。

テイクオフ後にシートベルトランプが消えましたら、リクライニングでお休みになってくださいませ。」

「ありがとう。」

CPは丁寧に頭を下げ、下がっていった。

やがて機は一路ハワイ島に向けて疾走し、夜の上空へ飛び立った。

マヤは本格的に眠ってしまったため、俺も早々に仮眠をする事にした。

 

フライトは終始安定していて、着陸の2時間前くらいに機内食でランチが出された。

短くても熟睡できたのか、マヤも俺も目覚めはスッキリとしていた。

シェードを開けると窓の外はもうすっかり朝だ。

空港に着く頃は現地はもう昼になっている。

マヤは寝起きでも旺盛な食欲を見せた。

前菜は鮪のスモークやコールドミートの盛り合わせ、そしてカボチャの冷製スープに、メインは牛フィレ肉のポワレのパイナップルソース。

デザートはタロイモとハウピアのタルト。

皿の上はもうすっかりハワイだ。

空港からはレンタカーで移動するため、俺はアルコールは控え、CPオススメのトロピカルフレーバーのアイスティーで食事を済ませた。

食事を終えて間も無くすると、早くも機は着陸態勢に入った。

窓の外を覗き込めば、眼下にはエメラルドグリーンの海が見える。

そして徐々に高度を下げていった機はそのままコナ国際空港に無事ランディングした。

ホノルルの様にターミナルビルのないコナ空港はでは、オープンエアのタラップで飛行機から降りる。

飛行機から降りるとすぐに南国の太陽が燦々と降り注ぐ。

そして爽やかな風がハワイ島の地に着いた俺たちを出迎えてくれた。

 

バゲージをピックアップしてゲートを通過すると、現地スタッフが俺たちの到着を待ち構えており、そのまま彼に導かれて俺たちの車まで案内された。

スタッフから軽く説明を受けると、そのままキーを渡された。

「良いバカンスを!」

彼はにこやかに笑って、俺たちを見送ってくれた。

 

「さて、行こうか、マヤ。帽子飛ばされるなよ。」

俺はエンジンをかけアクセルを踏む。

車はメルセデスSクラスのガブリオレ・・・どうやらこれはマヤのご希望だったらしい。

マヤが言うには、オープンカーに乗って青い空の下を俺とドライブしたかったとのことだ。

それを叶えるため、わざわざ水城君はトップが開閉できるガブリオレを選んでくれたに違いない。

コナ空港からワイコロアに向かう道はほぼ一直線で、海が遠くに微かに見えるラバー(溶岩)だらけの荒野の中に造られた道をこれからひた走る。

青い空の下、遮るものなど何もない中を風を感じながら車を走らせるのは確かに気持ちがいいだろう。

マヤがバッグの中から愛用のiPod touchを取り出し、車のフロントパネルを操作し始めた。

彼女にはとても珍しいことなのだが、とても慣れた手つきだ。

東京でも俺のメルセデスに乗っているから、不思議ではないのだけれど。

どうやらBGMをかけようとしているようだ。

俺は進行方向を向いたまま、スピーカーから音が流れてくるのを待つ。

そして聞こえてきたのは少しだけ低めのchorus。

♪Ah〜 Ah〜 Ah〜 Ah〜

出だしを聴いただけで、俺は “なるほどね” と納得する。

そしてそのコーラスの溜めに期待していると、間もなく聴こえてくるのはこの青空を突き刺すかのようなハイトーンヴォイスだ。

それはまさに夏を感じさせる The Rubettes の 『Sugar Baby Love ←click』 だった。

マヤが待ってましたとばかりに一緒になって、高い声で歌っている。

それがたまらなく可笑しいけど・・・可愛い。

「私、これがやりたかったのー!」

マヤが俺に満面の笑みで教えてくれた。

俺はジャケットの胸ポケットからサングラスを出して掛ける・・・胸の中から沸き起こる興奮・・・これから俺とマヤの夏物語が始まるんだ。

 

 

〜Fin〜