Masumin quest Ⅲ 〜夏を抱きしめて〜 | 夢の終わりに・・・

夢の終わりに・・・

哀しいほどの切なさとときめきを

 

久し振りにゆっくりと広いベッドで眠った。

だが、眠った時にはあったはずの温もりがなくなっている事に気づいて不安になった俺は目を覚ました。

目が覚めた視線の先にマヤはいなくて・・・いつのまにか彼女は起きてしまったのか。

俺が昨夜脱がしたナイティだけがマヤの抜け殻のように、ベッドに残っていた。

「・・・なんだよ・・・マヤ・・・」

俺はひとり愚痴をこぼした。

マヤの抜け殻のナイティを手に取りそっと口づける。

せっかくこんなリゾートのヴィラに来て、独りで目覚めるなんて。

ベッドルームのレースのカーテン越しには、青い空に椰子の木が風にそよいでいるのが見える。

窓際にはレッドジンジャーの花が咲き乱れていた。

 

「・・・どこに行ったんだ・・・マヤ・・・」

置き去りにされた子供のように不安になる・・・俺は堪らずベッドを降りた。

裸のままリビングに続くドアのノブに手をかけようとした時、マヤが少しの差で俺よりも早くそのドアを開けた。

「速水さん、目が覚めた?」

マヤは驚く様子もなく、にこやかに微笑みを湛えているだけだ。

まるで俺の気持ちも知らないで。

俺は一歩踏み出して、マヤを思い切り抱きしめた。

「・・・いなくなったのかと思った・・・」

マヤは、そんな訳ないと笑った。

「・・・目覚める時には側にいて欲しいんだ・・・」

この非日常な空間が、俺に素顔を曝け出させる。

もうマヤと俺の間を引き裂くものなど何も無いはずなのに、心の何処かでまだ怯えている自分がいる。

今が幸せであればあるほど、それは時折頭を擡げてくるのだ。

慣れない場所で独り目覚めただけで、こんなにもセンチメンタルになる弱い俺・・・でも、それも本当の俺なんだ。

マヤにはわかって欲しい・・・。

「ごめんね・・・速水さん。

あまりにも空が青かったから・・・」

早朝からストレッチや発声など、舞台人としての研鑽を怠らないマヤだから、きっと気持ちの良い朝で思わず外に行きたくなってしまったんだろう。

それを責めるのは間違っている。

でも俺は・・・。

「この旅行の間だけでいい・・・芝居や仕事のことは忘れて、俺だけを見ていて欲しいんだ・・・我儘なことはわかってる・・・わかってるけど・・・」

それ以上は言葉にできなくて、マヤを抱いた腕に力を込める。

マヤはそんな俺の気持ちをわかってくれたのか、微笑んで優しく腕を回した背中をポンポンと叩いた。

「・・・お風呂・・・準備しておいたの。

一緒に入ろ?」

マスターベッドルームには、カーテンだけで仕切られた続きのフロアに大きなオーバルのバスタブがあった。

そこにたっぷりと溜められた湯からは南国の花の香りがした。

マヤがヴィラの庭で採ってきたプルメリアが何輪も浮かべられていた。

二人が入っても十分な広さがあるバスタブに俺が先に浸かり、マヤを迎え入れる。

「ここにおいで・・・」

俺に手を引かれたマヤは俺に凭れるようにして、身体を傾けた。

朝のストレッチで汗をかいたのか、マヤの匂いが湯の香りとともに俺の鼻腔を擽った。

クリップで無造作に髪を上げて見えるマヤの頸から肩に手で湯を掬ってはかけてやる。

適温の湯で身体が温まってくると、不安定だった俺の気持ちも落ち着きを取り戻していった。

背後から俺はそっとマヤに腕を回した。

「・・・マヤが俺の腕の中にいてくれるだけで、俺はとても安心できるんだよ・・・」

両腕でマヤを抱きしめて頰を寄せる。

「私もよ・・・速水さんに抱きしめられると、すごく護られてる気がするの・・・」

マヤの言葉が心にストンと落ちておさまった。

俺の腕の中(ここ)がマヤの居場所になったんだな・・・。

「・・・何があっても俺は君を守る・・・だから・・・マヤ・・・何処にもいくなよ・・・」

 

バスに浸かって、心も身体もリフレッシュした俺とマヤは、ブランチに出かけた。

今日は一日何もしないで、のんびりして明日からの予定に備えるつもりだ。

TDLがすっぽりと収まってしまいそうな広大な敷地を持ったリゾート内をゆっくりと散策する。

 

俺とマヤはオープンテラスのカフェで軽く食事をして、他愛もない会話をしながらゆったりとした時間を過ごした。

「明日は現地のツアーコンダクターに島内を一周してもらうの。」

明日の予定をマヤが俺に説明してくれる。

「珈琲が好きな速水さんのために、美味しいコナコーヒーの豆を買わなきゃ。

農園の直販所も案内してもらうように頼んであるのよ。

朝は作り立てのmalasadaを食べて、お昼はloco moco発祥のドライブインでloco moco食べて。

それから、ビッグアイランドキャンディーズでショートブレッドを買って、アメリカ最南端のベーカリーで焼き立てのパンを買って・・・。」

俺は可笑しくて、思わず吹き出してしまった。

「・・・っ、マヤ・・・さっきから食べる事ばかりだな・・・」

マヤは無意識だったのか、俺のツッコミに真っ赤になる。

「・・・た、確かに。

で、でも、ちゃんと観光もするんです!

ラバーチューブ見たり、渓谷行ったり、夜はキラウエアの火口も観に行くのよ。

あ、あと、黒砂海岸って所で、運が良ければウミガメも見えるんですって。」

「そっか・・・それは盛りだくさんの予定だな。

・・・ククッ。」

含笑いが止まらない俺にマヤが膨れっ面をする。

そうだ・・・俺はこのマヤの顔が大好きなんだ。

「酷いじゃない、速水さん! Boo〜!」

「その怒った顔が可愛くて、大好きだよ、マヤ♡」

俺はマヤの顎をスッと指先で引き寄せ、尖った唇にChuッとキスする。

益々マヤの顔が赤くなった。

「な、何すんですかっ、・・・こ、公衆の面前で!」

「そんな事言っても、人は疎らだし、欧米人なら愛情表現はもっと大胆になるんじゃないか?」

俺の切返しにマヤが益々唇を尖らせる。

ホントにわかってないな・・・この子は。

そんな唇をして・・・キスしてくれって言ってるようなものじゃないか。

俺の悪戯な流し目にマヤもやっと気付いたのか、尖らせた唇を手でスッと隠した。

「ははっ・・・マヤは本当に面白いな。

君といると飽きないよ・・・」

 

午後の昼下がりは、プールサイドで昼寝をする事にした。

泳ぐ事は目的じゃないけど水着は必須だ・・・少なくともマヤは、、、な。

そういえば、いつか買い物帰りのマヤに見せてもらった水着を持ってきたのかな。

真っ白なビキニでトップスはストラップレスのハーフカップで胸を大きなリボンで結んだようなデザインで一見可愛らしいのだが、胸の露出はそれなりにありそうだった。

ボトムも両サイドがリボンで結ぶタイプの可愛らしさはあったが、結構エグいラインだった気がする。

マヤは小柄だし、あの天然キャラで一見想像はしにくいかもしれないが、その肉体はかなりグラマーなんだ。

もちろん他人に想像などしてもらいたくはないけれども・・・だ。

胸は適度に膨よかで、ツンと澄まし顔に上がっているバスト・・・腰からヒップにかけてのラインもかなりメリハリが効いている。

多分あの水着はそんなマヤの魅惑のボディをより際立たせるに違いない。

今は彼女は寝室で着替えているはずだ。

「折角着た水着も直ぐに脱がせる事になってしまいそうだな・・・。」

俺は思わず顔の筋肉が緩んでしまいそうになるのを必死に引き上げるのに苦労する。

マヤに脂の下がった顔は見せられない。

「お待たせ〜♡」

マヤが現れた。

しばらく言葉に窮する俺。

あまりにも他愛もなく耐性のない己のlibidoが悲鳴をあげた。

腰に巻かれた白いシースルーのパレオが逆に悩ましい程にセクシーだった。

「どう?速水さん、似合ってる?」

「あ、ああ・・・完璧だよ、マヤ。

・・・完璧過ぎてヤバイ・・・」

「へっ?何がヤバイの?」

とびきり可愛くて、天然な恋人を持つと、男は大変なんだ。

ちょっとした悪戯心が湧き上がった俺はマヤをリビングのソファに押し倒してやった。

「・・・こういう事さ。」

マヤの両手首を掴んで頭の上あたりでソファに押し付け、彼女が息がつけないほどの、深くて長い接吻をしかけた。

最初は驚きで全身が硬直していたのに、やがてマヤの身体が俺を受け入れるかのように柔らかくなった。

「・・・今は、ダメ・・・」

だが、寸前のところでマヤに理性が戻った。

「・・・残念・・・」

ほんの悪戯のつもりだったのに、俺はもう少しで本当に引き返せなくなるところだった。

俺はマヤから離れた。

「さあ、速水さんも着替えて。

貴方の水着も私が選んだのよ・・・お揃いなんだから♡」

ペアルック・・・か。

俺の水着も白なんだな。

「わかった・・・ここで待ってろ。」

俺はマヤの頬に軽くキスして、寝室に入った。

 

綺麗にメイキングされたベッドの上に置かれた水着に俺は目が点になった。

「・・・コレ・・・を・・・俺が?

・・・コレを、あの子が・・・選んだ?」

俺は思わず額に手を当てて、頭を抱えた。

ドアの向こうから、まだ〜?と急かすマヤの声がする。

俺は意を決して着ていたものを全て脱ぎ捨て、水着を身につけた。

そしてマヤの前に立つ。

「君がこんなに好戦的な肉食系女子になってるとは思わなかったよ。」

恥ずかしさを隠す為、世馴れた男を演じてみせるしかない。

マヤが俺の為に選んだ水着は、ボディービルダー顔負けのセクシーな水着だった。

マヤがお揃いと言った通りに色は白。

日本人離れしたモデル並みの己のスタイルにはそれなりに自信はあるつもりだ。

けれども、流石に自らこんな挑発的なものを着る勇気はない。

裸体を晒すよりも寧ろ恥ずかしさがある。

「キャーっ♡ 私の予想通りに凄〜く素敵〜!」

マヤがムンクの叫びのように両手を頬に当てて、興奮気味にはしゃいでいる。

あまりにもあっけらかんとした、健康的なマヤの反応に俺も満更な気持ちではなくなってきた。

俺は上に真っ白なlinenの少し裾が長めのシャツを羽織ってマヤと外に出た。

 

静かなプールサイド。会員専用でかつアダルト専用エリアのため、ほとんど人はいない。

聞こえてくるのは微かなハワイアンのBGMと、風に椰子の木の葉が擦れる音だけだ。

俺とマヤは大きなパラソルの下のデッキチェアに二人並んで横たわる。

「マヤ、日焼けはするなよ・・・」

マヤの身体に陽射しが当たらないよう、足元にバスタオルを二つに折りたたんでかけてやる。

同じハワイでもワイキキとは大違いだ。

ハイシーズンでありながらこんなにも静かだなんて。

まるでプライベート空間のようだった。

そんな開放感が心地良く、知らず知らずのうちに俺もマヤも眠ってしまった。

マヤは俺の胸板にぴったりくっついたまま眠っている。

水着姿のマヤを見たときは半ば本気で俺はマヤをベッドに連れて行き、部屋から一歩も出ないでおこうかと思ったが、こうした時間もとても貴重で幸せだと改めて知った。

俺はマヤよりも早く目が覚めたが、マヤが起きるまでじっとしていることにした。

ホテルのスタッフが、クラッシュアイスをいっぱいに入れたグラスに注いだ飲み物を運んできてくれた。

綺麗に飾り切りされたフルーツと蘭の花が飾られている。

マヤが喜びそうだ。

「・・・マヤ、喉、渇いただろう?

甘くて、冷たいよ・・・。」

俺の声にマヤがスッと目を覚ます。

「・・・美味しそうね・・・」

でもマヤには起き上がる様子はない。

「・・・どうした?」

どこか具合でも悪いのだろうか、俺はマヤの顔をじっと見た。

マヤの視線が俺に訴えてくる・・・。

俺はグラスの中身を口に含んで、そのままマヤに覆い被さるようにして、口移しで飲ませた。

「・・・甘い?・・・もっと・・・欲しい?」

俺はマヤに囁く。

このシチュエーションにまるでマヤは臆することはない。

マヤがもっと・・・唇の動きだけで俺に強請る。

今日のマヤはいつもと違うみたいだ・・・でも、これもマヤの素顔のひとつなのかもしれない。

俺の方がこの甘い時間に溶かされてしまいそうになっている。

何度かマヤにドリンクを飲ませるが、飲ませるたびに唇が触れ合う時間が長くなり、離れがたくなっていった。

しばらくしてマヤがパラソルを飛び出し、目の前のプールに飛び込む。

サバーン!というスプラッシュの音。

甘い蜜を滴らせる花に誘われる虫達のように、俺もまたマヤという花に吸い寄せられ、彼女の待つ水の中へダイブした。

現実から夢に誘われる境界がそこにあった。

まるでイルカのように気持良さげに水中を舞うマヤを追いかける。

そして俺はマヤをプールのエッジに追い詰めた。

「・・・マヤ・・・部屋に・・・戻りたい・・・」

切羽詰まる俺の声・・・今のマヤならば分かってくれるだろう・・・マヤの身体に触れている俺の身体の変化と限界とその慟哭を。

「・・・貴方の身体・・・冷えてる・・・」

マヤが魅惑的な笑みを浮かべ、俺の胸を指でなぞる。

こんな風に女に弄ばれて焦らされた事など、俺の経験には一度もない。

マヤだからだ・・・マヤの前では俺はただの無力で憐れな牡に成り果ててしまう。

けれどそれは、苦痛でも屈辱でもない。

僅かに残った羞恥心だけが俺を苦しめるが、それさえも陶酔の彼方に消え去ってしまう。

「・・・温めて・・・下さい・・・」

おれはマヤの胸の高さまで身体を水中に沈めて、彼女の胸に抱きついた。

 

やがてシーツの白い波に攫われた俺たちは、サンセットを待つことさえせずに、水の中の浮遊感そのままに、抱いて抱かれてを繰り返す。

 

 

陽は沈み、月が満ち、星も流れる・・・

 

そんな宇宙の営みさえ分からなくなるほど

 

マヤに愛される悦びに打ち震え

 

俺は溺れ落ちてゆく・・・

 

 

〜Fin〜