ビートルズの「Come Together」を聴くと、中学生の頃のラジオの記憶がよみがえります。


当時、「みのもんたのカム・トゥゲザー」というラジオ番組がありました。

番組タイトルからして、もうそのままです。


そして、そのオープニングに流れていたのが、当然のようにビートルズの「Come Together」。

番組の内容は、正直なところ、ほとんど覚えていません。


何を話していたのか。

どんなコーナーがあったのか。

誰が出ていたのか。

まったくと言っていいほど、記憶に残っていない。


でも、オープニングで「Come Together」が流れていたことだけは覚えています。

つまり私は、番組を聴いていたというより、ほぼ「Come Together」を聴くためにラジオの前にいたのです。

今思えば、なかなか偏った聴き方です。

普通は番組を楽しむためにラジオをつけるのでしょう。


ところが、こちらはオープニング曲が目当て。

本編は、まあ、ついで。

番組制作者の方には申し訳ないけれど、中学生の自分にとっては、それくらい「Come Together」の出だしが強かったのです。


あの低くうねるようなベース。

ドラムの湿ったような響き。

そして、ジョン・レノンの少し怪しげな声。


明るく始まる曲ではありません。

爽やかな青春ソングでもありません。

むしろ、少し暗い。

少し不気味。


でも、妙にかっこいい。

中学生には、その「意味はよくわからないけれど、何かすごいものを聴いている感じ」がたまらなかったのだと思います。

当時の私は、歌詞の意味などほとんどわかっていませんでした。

英語力の問題もあります。


それ以上に、この曲の歌詞は、そもそも日本語にしにくい。

いや、日本語どころか、英語として読んでもかなり不思議です。

言葉が並んでいるのに、普通の物語にならない。


人物描写のようでもあり、呪文のようでもあり、悪ふざけのようでもあり、意味ありげなのに、つかもうとするとするりと逃げていく。

そこが面白いのです。


ビートルズの曲には、きれいに訳せるものもあります。

「Yesterday」のように、感情の芯がまっすぐ届いてくる曲もあります。

「Let It Be」のように、言葉の意味が比較的つかみやすい曲もあります。


でも「Come Together」は違います。

訳そうとすると、急に曲の魅力が逃げてしまう。

日本語にした瞬間、あの怪しさやリズムの粘りが薄くなる。


これは、意味で聴く曲というより、音の肌ざわりで聴く曲なのかもしれません。

だから中学生の自分にも届いたのでしょう。

意味がわからなくても、かっこよさはわかる。

理屈はわからなくても、音の重さはわかる。

ラジオからあのイントロが流れてくるだけで、少し大人の世界をのぞいているような気がしました。


しかも、この曲には後から知った話もあります。

「Come Together」は、チャック・ベリーの「You Can’t Catch Me」との類似をめぐって、著作権侵害の申し立てを受けたことがあります。

Big Seven Music側との問題は、最終的にジョン・レノンが同社の管理する楽曲を録音する形で和解したとされています。

この話を知った時、少し驚きました。


あれほど独特で、ビートルズそのもののように聞こえる曲にも、元になった匂いや、影響を受けた音楽があったのか、と。

でも、よく考えれば、ロックンロールはそうやってつながってきた音楽でもあります。

チャック・ベリーがいて、リトル・リチャードがいて、エルヴィスがいて、その上にビートルズがいる。

ビートルズも突然、真空の中から現れたわけではありません。


彼らもまた、先人たちの音を聴き、吸収し、真似し、崩し、自分たちのものにしていった。

「Come Together」は、その境界線の危うさまで含めて、ロックンロールらしい曲なのかもしれません。

もちろん、盗作問題は軽い話ではありません。

でも、聴き手として面白いのは、そこに「音楽の血筋」が見えることです。

チャック・ベリーのロックンロールの言葉が、ジョン・レノンの声を通ると、まったく別の怪しい生き物のようになる。


同じ素材が、時代と人を通ることで、別の顔になる。

その変化の面白さがあります。


それにしても、中学生の頃の自分は、そんな事情を何も知りませんでした。

裁判の話も知らない。

チャック・ベリーとの関係も知らない。

歌詞の意味もわからない。


ただ、ラジオから流れてくる「Come Together」がかっこよかった。

それだけです。

でも、音楽との出会いは、それで十分なのかもしれません。

最初から正しく理解する必要はない。


背景を知ってから好きになる曲もありますが、背景を知らないまま、ただ音に持っていかれる曲もあります。

「Come Together」は、私にとって後者でした。

番組の内容は覚えていない。


でも、オープニング曲だけは覚えている。

これは番組としてはどうなのか、という気もします。

でも、逆に言えば、それだけ曲の力が強かったということです。

あのイントロが流れると、時間の感覚が少し変わる。

部屋の空気が変わる。


ラジオの向こうに、まだ知らない世界が広がっているように感じる。

中学生の自分にとって、「Come Together」は、そういう曲でした。


ちなみに「Come Together」は、1969年のアルバム『Abbey Road』に収録された曲です。『Abbey Road』は1969年9月26日にリリースされ、ビートルズが最後に録音したアルバムとしても知られています。


今聴いても、この曲はやはり不思議です。

かっこいい。

でも、説明しにくい。

歌詞もわかるようで、わからない。


訳せるようで、訳しきれない。

まとまっているようで、どこかバラバラ。

それなのに、曲としては圧倒的にまとまっている。

まさに「Come Together」。


バラバラなものが、なぜか一緒になっている。

人も、記憶も、音も、意味不明な言葉も、ラジオの時間も、中学生の自分も。

全部がひとつになって、今でもあのイントロと一緒によみがえってくる。

音楽は不思議です。


番組の中身を忘れても、曲だけは残ることがあります。

むしろ、曲だけが記憶の鍵になって、当時の空気を連れてくることがあります。

ビートルズの「Come Together」。


私にとってそれは、「みのもんたのカム・トゥゲザー」のオープニングから流れてきた、少し怪しくて、少し大人びた、忘れられない一曲です。